87 西のサライ/ヒソヒソ話
ウテナに続き、マナト達が回廊内から出たときには、すでに空は暗くなり、中庭中央にて、前回来たときと同じように、井の字に積み上げられた薪が赤々と燃え、中庭全体を照らしていた。
「確認なんだけどさ」
ウテナが振り向いた。炎を背にしているため、正面は影になっているが、かろうじて顔の表情を読み取ることは出来た。
「ケントさんてさ、恋人はいるの?」
ウテナはテンション高めに、マナト達に聞いてきた。いきいきとした表情をしている。
「いや、たぶん、いないと思う」
ミトは言うと、ラクトを見た。
「んっ?ん~、そうだな。ケントさんがキャラバンの村で女と歩いてるの、見たことないし」
「分かったわ。それじゃ、こうしましょう……」
ウテナは楽しそうに、皆に、ヒソヒソと話を始めた。
……ウテナ、今までの、なんだったの?
マナトだけでなく、さっきまでカッコ悪く励ましを送っていたラクトも、唖然としてウテナの顔を見ていた。
話を聞きながら、マナトはチラッとルナを見た。ルナは気づくと、ただ苦笑していた。でも、安心しているようにも見えた。
※ ※ ※
「はぁ~。まったく、なんてこった」
先のジン=グール出没の件について、ケントとフィオナから話を聞いた管理人が、深くため息した。
「やはり、アクス王国の護衛団と交戦していたジンとは、違う種のようだ……ジンの出現だといっても、数年に一度あるくらいなのに。この短い期間に、二体も出たというのか……」
管理人は苦悶の表情を浮かべていたが、やがて思い直したようにケントとフィオナを見て言った。
「とりあえず、追い払ってくれて助かった!それに、お前ら、よく無事だったな」
「ああ」
ケントはうなずいたが、少し訂正した。
「ただ、追い払ったというのは、少し違うな。俺たちの攻撃で相手が下がったんじゃなくて、単純にそこまで襲う気がなかったんだと思う。まだ、この近くに潜伏してるかもしれない」
「なるほど~」
管理人が腕を組んだ。
「……仕方ない。アクス王国に、護衛を頼むことにしようと思う」
「だな。でも、死者はいないとはいえ、疲弊はしていると思うぞ」
「確かに……。では、西の国、メロ共和国にも、伝書鳥を飛ばすとしよう」
「それなら、私達のほうからも、かけ合っておくわ」
フィオナが管理人に言った。
「君たちがメロの国に行ってくれるのか?」
「というより、私たちは、メロのキャラバンよ」
「あっ、なるほど……助かる!」
その後、管理人は回廊へと足早に消えていった。
「ケント、私たちも戻りましょう」
ケントとフィオナは管理人と別れると、中庭に出た。
「んっ?」
焚き火前で何やら話をしている5人が視界に入ってきた。
「どうした?」
ケントはそのグループの中で、一番焚き火の近くにいたウテナに、声をかけた。
「あっ!いや、なんでも。……それじゃ、4人とも、そういうことで!」