78 出国①
その後、ケントは皆に、明日の手筈を簡単に説明した。
「んじゃ、これで!……あと、今日はお前ら、夜更かしするなよ」
最後にケントが、ミトとラクトとマナトに注意し、解散となった。
すぐに、ラクトの個室に、3人は集まっていた。
ラクトはベッドにごろんと横になっていて、マナトはイスに座り、ミトは床に座り込んで、足を伸ばして壁にもたれかかっていた。
「王宮護衛、何者なんだ……?」
実際に刃を交えた3人にとって、ジンを引かせたというのが、なかなか驚くべき事象だった。
「王宮での交易の際に、僕は見たけど」
「マジで!どんなんだった?」
「でも、黒い甲冑を装備しているだけで、強そうな印象は特に……。フィオナさんが言ってた通り、ただ王宮の門の前で立ってるだけだったし」
「そうなのか。……あと、ジンのほうも、気になるんだよな」
「そうだね。あの料亭の亭主も、外で暴れているのは別のジンだって言ってたからね。あっ、それでさ……」
マナトは、ルナとの食事の前に、料亭に寄り道した時の話をした。
「えっ!そんなの書いてたの……?」
ミトは信じられないといった様子で、目を丸くした。
「まあ、嘘かもしれないけどな」
ラクトが言った。ラクトは、疑うときは、疑う。
「うん。僕ももちろん、少し疑う部分はあるんだけど。でも、たとえ嘘だったとしても、形式的には、一方的に押し付けた僕の約束を守る意思表示は見せてるんだと思う」
「看板を出したっていう事実がってことか」
「そう。……これ、でも、逆に、僕らも契約を守らないと、ということになるかなと」
「やべえってことか」
「おそらく」
「……」
ミトも、腕を組んで、無言でうなずいた。
「……はぁ〜!もう、いろいろ、今の状況に気持ちが追いついてねえよ〜!」
ラクトがベッドの上で大の字になった。
「村を出てみて分かったけど、やっぱ世界は広いぜ……」
「今日は、どうする?ミト。ジン=マリードの後、つける?」
「いや、今日は、やめておこう。ケントさんにも止められたし」
――じぃ〜。
マナトとラクトの視線が、ミトに突き刺さる。
「ほ、ホントだってば!」
※ ※ ※
次の日。
朝焼けの光が、まずオベリスクを照らし出し、その後、アクス王国全体に降り注いだ。
……いよいよ、帰還だ。
マナトはラクト、ウテナと共に、ラクダ達をラクダ舎から宿屋へと移動させた。
アクス王国に滞在中、朝昼晩とたっぷり栄養を取ったラクダ達のコブは、パンパンに膨れ上がっている。
「君たちは、準備万端だね」
マナトはラクダ達に語りかけた。
ケントとミト、フィオナとルナがそれぞれの商隊の荷物を宿屋から出してきた。
ラクダに、今回の交易で得た金品を取り付ける。ロープで縛ると、自然、自らの気持ちも引き締まった感じがする。
ふるさとへと帰ることが、おそらく分かっているのだろう。ラクダ達の緩い表情にも、どこか高揚しているものをマナトは感じた。
王国の門はすでに開いていた。
護衛団の食料補給部隊が、前線基地に向けて出発し、護衛の兵士達が頻繁に出入りしている。
全員、マントを羽織った。
「よし!いくぞ!」
ケントとフィオナの合同商隊は、アクス王国を発ち、西のサライへと向かって移動を始めた。