66 死闘③/ジン=マリード
ラクトが前に出た。
「おい、デブ亭主」
「デブ亭主って、直球過ぎて傷つくよ~!」
「じゃあ、ジン。あっ、マリードだっけ。どうでもいいや。てめえ、いつからこの王国に潜んでやがる」
「ん~。結構前だよ~!」
「俺たちに、カメ肉って言って食わしてたよな。何の肉だ?」
「何言ってるんだ~い!だからカメ肉って言ってるじゃ……」
「嘘つけ!!!!」
再び、ラクトはダガーで切りにかかる。
――カキッ!
軽々とジンは小包丁で受け止めた。
「クソッ!振り抜けねえ!なんて力だ!」
「どうして、信じてくれないんだ~い?」
「俺は、本物のカメ肉を食ったこと、あんだよ!」
「えっ!?」
ジンは本当に驚いた様子で、ダガーと包丁で力比べをしているラクトをまじまじと見た。
「ヤスリブの人間には、カメを食べる習慣はなかったハズじゃ〜……」
「普通の人間はな!」
「君こそ、何者〜……」
「で、何を食べさせてた?」
「……」
「答えろ!!」
「……でも、東方の国では、そういう文化もあるんだよ〜!」
「東方の?そういう文化?」
「知らないほうが、いいかもよ〜」
「……クソがぁああ!!!!」
――キィン!
ラクトがダガーを振り抜き、包丁をはじいた。
「うぉ」
ジンがのけぞる。
「いけ!ラクト!!」
マナトは叫んだ。
「うらぁ!!!!」
ラクトのダガーがジンに襲いかかる。
――ゴスッ。
「あぅ……」
偶然か。いや、この相手に限って、それはない。
包丁をはじかれてのけぞった際に上がったジンの右足が、ラクトの股間に直撃した。
「あぁ~、つ、潰れる……」
ラクトが悶絶しながら倒れ込んだ。
「ラクト!!」
――シュッ!
ミトが一閃。
「おっと~!」
ジンはかわした。
ミトは素早く引いて、構え直した。
同じように、ミトはジンへ攻撃、深追いせずに、サッと引くのを数回繰り返した。
「用心深いねぇ〜。これは、やりづらいなぁ」
ジンはつぶやいた。
その間、なんとかラクトは体制を建て直し、マナトのもとへ。
「ワイルドな彼もさることながら、君もなかなかの腕前だね~」
ジンが関心したように、ミトに話しかけた。
「……ふぅ」
ミトが、構えを解いた。
「僕は、あの時は、無力だった。でも、今は違う……」
……ミト……。
「ジン=マリード」
ミトの声は、嵐の前の静けさを思わせる、そんな穏やさを感じさせる声だった。
「ん〜?」
「この王国に住み着いて、その間に……」
ミトが一歩前に出た。
「いったい、何人の人間を傷つけてきたんだ?」
「……」
亭主は口を閉じた。逆にミトの声には力が入ってきた。
「いったい、何人の子供を攫ったんだ」
ミトの腕が、震えだした。
「いったい、何人の人間を、殺してきたんだ……!」
「……」