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8話 どう生き残る

 1週間ぐらい過ぎた頃から、だんだん状況がわかってきた。
「東京とかは瓦礫の山となったが、水は引いたそうだ。ただ、海辺では死体とかは海に持ってかれたが、内陸地ではそこまではなく、死体がゴロゴロしていて、とても行ける雰囲気ではないとのことだ。しばらくは東京に戻っても暮らす場所もないから、ここで過ごすしかないな。また、当面は、海外からガソリンとかも来ないから、いずれ車も動かなくなる。まずは、ここで、どう暮らすか考えないと。」
「時間だけはたっぷりあるから、まず、状況をゆっくりみてから考えましょうよ。」
「そうだな。実は、家庭菜園やってみようと思って、ジャガイモを庭で育てているんだ。この前に来た時に収穫したので、今度はもう少し時間がかかるけど、少し、その他のものも育ててみるか。」
「この前、この辺歩いていたら、農家とかもいて、結構、高齢者が多かったように見えました。それなら、弟子入りして、お米とか作ってみたらどうですかね。」

 そうだ。高齢者の農家では、ガソリンもなくなってたトラクターとか動かないと労働力は足りないし、東京とかの需要がなくなれば、我々を雇い、農作物を対価として渡す余裕も出てくるだろう。そのうち、亡くなれば、農地を乗っ取ればいい。ここまで来れば、弱肉強食という考えで対応するのが正論だろう。その意味では、農地が広く、農家もできるだけ高齢者という所を探して、そこにアプローチだ。そして、いなくなるまで、せいぜい、ノウハウを吸収するのがいい。

「そういうアイディアもあるね。明日にでも、一緒にお願いに行ってみよう。お米や野菜を作りながら生活するのも、生きてるって実感できるかもしれないし。」

 河北さんは、口が上手いから、多分成功するだろう。確かに、農家の方々と、親密な付き合いをするのも嫌といえば嫌。でも、生きていくためだし、当面は我慢しかないかな。でも、田んぼでの労作業か。都会で綺麗に楽しく過ごす予定だったのに、なんで、こんな世界になっちゃったんだろう。爪とか汚れるのも嫌だし、日焼けして、肌ボロボロのおばあちゃんになっちゃう。あ〜嫌、嫌。でも、生きていくためには、仕方がない。今日だって、お米とお新香ぐらいの質素な食事だし、もう少し、人間的な生活にしないと。

「うんって言ってもらえるといいね。農家の生活も楽しいかも。」

 そういえば、一緒に暮らして1週間が経ったけど、子供を作りたいという気持ちは変わらない。いや、むしろ高まっているじゃないかな。子孫を残したいという本能? どうすれば、もっと親密になれるかな。と言ってもいきなりだと驚くだろうから、呼び名を変えたりして徐々に近づき、夜に河北さんの部屋に行って、寂しくてと言って、ベットに潜り込む、こんな感じかな。

「1つ提案があるんですが。」
「何?」
「もう一緒に暮らしているわけだし、農家とか周りに、河北さんというのも変だし、聡さんって呼んでいいですか? そして、私のことをみうと呼んでくれると嬉しい。」

 もう会社もないし、こんな状況なんだからセクハラと言われることもないだろうし、まあ、いいだろう。ただ、前の奥さんみたく、全て仕切られると嫌だから、その点はきちんと関係構築が必要だけど、今の状況だと、夫婦とした方が都合がいいかもしれない。あくまでも、最後は僕が決めると言っておこう。

「それもそうだ。では、みう、よろしく。」
「こちらこそ。敬語もやめるね。なんか、楽しくなっちゃった。」 
「それがいい。僕は、かなり年配者だから、色々な決断をして、みうを守っていかないと。」
「頼もしい!」

 翌日、2人で河北が選んだ農家に相談しに行ったところ、その農家は、おじいさん1人で、広い田んぼの世話をどうしようか悩んでいたところに、こんな世の中なんだからお願いするとなった。やや警戒している風もあったが、河北が家庭菜園をしている姿も見ていたらしく、一緒にやれると思ったと後で聞いた。そして、農家生活が始まった。

「今日もいっぱい動いたね。腰が少し痛いなー。」
「でも、こんな生活をするとは昔は全く想定していなかった。でも、土地はいっぱいあるから、畑も広げていくのも楽しいな。」
「聡さん、昔は運動は足だけだったけど、最近は上半身も動かしているから、筋肉がいっぱいついて、一段と素敵になったね。すご〜い。」
「こんな環境で、よくそんなこと言えるね。でも、みうは、こんな環境でも、怖いくらい明るくて助かっているよ。」
「聡さんと一緒だからで〜す。ところで、今朝採れたミニトマト食べてみて。」
「農家の方も最初は半信半疑だったけど、当面は、ジャガイモを作って食べてみなと畑も勧められたのが良かったな。100日ぐらいで育つらしいから、美味しいジャガイモが待っていると思うと、少しはやりがいがあるっていうか。」
「そうね。そして、秋にはお米も取れるし、頑張りましょう。まずは生きることが大切だと気づいたわ。」

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