41 西のサライにて/フィオナ
「ルナ、大丈夫よ」
フィオナがいつの間にか、マナトとルナの後ろに立っていた。管理人との会話は、終わったようだ。
「私も、ウテナはちょっと、強すぎると、思うもの」
「フィオナさん」
「また、マナを取り込むつもり?」
「……はい」
「いい機会だから、ちょっと言っておくけど……」
フィオナの厚い唇と落ち着いた目が、焚き火の炎に照らされた。優しい笑みを浮かべていた。
「私は、能力者でないルナのこと、好きだからね」
「……フィオナさん!」
フィオナに、ルナが抱きついた。
そして、そのルナの頭をぽんぽんと、フィオナは優しく叩いている。
……こ、これは、百合展開というヤツだ!!
美しく感動的な場面でマナトはそんなことを考えていた。
「ミトくんと、ラクトくん、本当に強いわね。驚いたわ」
ルナに抱きつかれたまま、フィオナがマナトに言った。
「えっ?あっ、はい、そうですよね。キャラバンの村では、グリズリーとかの獰猛種の生き物を倒さないと、キャラバンにはなれないって、決まりがあるんです」
「そうなのね。だからあんなに……いや、それだけじゃないと思うわ」
「えっ?」
「ミトくんとラクトくんは……そうね、ウテナも、そうだと思うんだけど、戦人《いくさびと》の血筋なのよ、多分」
「戦人?」
抱きついてたルナが顔を上げた。
フィオナはさっきまでマナトとルナが座っていた腰かけに座り、足を組んだ。
「まあ、多分だけどね。クルール地方には、本来いない人種なの。このヤスリブの広大な大地には、様々な種族の人類が存在していて、その中でも、ラハムとムシュフという地方にいるといわれている人類は、通常の人間よりも、身体が強靭で、武力に優れていると言われているの」
……ミトは確か、ウシュムという地方出身だったような?
マナトは思ったが、特に口に出すことはしなかった。個人情報だ。
「そうなんだ。だから、あんなに強いんだ……」
ルナが、納得といった様子で言った。
……長老は知ってるのかな?ちょっと、帰ったら聞いてみるか。
「ちなみに私は戦人じゃないわよ。ルナも、私くらいまでは、全然、強くなれるから」
「はい!……でも、やっぱり、国に帰ったら、もう一度、挑戦してみます。マナトさんにも、いろいろ、教えてもらったので」
ルナの青い目に、決意が込められていた。
「そう、分かったわ。でもごめんね、ちょっと、道草していくことになるわ」
「えっ?」
フィオナは苦笑していた。
やがて、ケントがミトとラクトを連れてやって来た。
「おう!待たせたな。ちょうどいいや、ここで打ち合わせしよう。フィオナ商隊も、ちょっと、いいか?」
「ええ」
ルナがウテナを呼びに行った。