40 西のサライにて/ルナ②
「ルナさんも、少し前に、ミトとラクトの強さが飛び抜けていると、言っていましたよね」
「はい」
「僕の彼らに対する印象は、そんなものではないですよ。まあ、詳しいことは省きますが、この世界に来てすぐ、ミトがグリズリーと戦ったのを見て、衝撃を受けました。こんな世界で、生きてゆけないと、思ったし、今でも、ミトとラクトみたいにはなれないと確信しています。そして、先のルナさんのような戦いも、僕には無理だ。あんなふうに敵の剣先を見切って弾いたり、隙を突いて相手に斬りかかるなんて……相当の訓練を積んでいることは動きを見てて分かりますし、敵を引かせるほどに、強い。あんなの、僕には、まったくできない」
「でも、能力者に……」
「そこに関しては、僕自身も、訳が分からないまま、なっていました」
「もともと、素質があったとか?」
「素質とか、そういうのではないと思います」
ルナは、意を決したように、マナトの目を見て言った。
「マナトさん、お願いします、教えて下さい!私も、マナの源泉を、体内に取り入れるまでは、やりました。でも私は、苦しみでのたうち回った挙げ句、マナの源泉を全て吐き出してしまいました。身体がマナに対して、拒否反応を起こしてしまっていると言われました。そして、十の生命の扉が開かれていないのだと。ただ、ほとんどの人間はそうだというので、私もまた、素質がないと諦めていたのですが、今日、マナトさんを見て、やっぱり、能力者になれるならと、そう思ったんです」
「そうですか」
「マナを取り込むには、十の生命の扉を開くには、どうすれば……!」
「そうですね、う〜ん……」
マナトは、人魚の主にマナの源泉を注がれたことを、思い出していた。
「……確かに、僕も少し、マナの源泉を注がれた後、吐き気があったし、あと、なんていうか、心がかき乱されたり、視界が歪んだりしたなぁ」
「やっぱり……!マナトさんも、そうだったんですね……!」
「ルナさんも?」
「はい。私は、それに、耐えられませんでした」
「なるほど」
「マナトは、どうして……!?」
「う~ん、なんだろう……慣れていたというか」
「慣れていた?その状況にということですか?」
「というか、それ以上に、前いた世界で、ず〜っと、そんな日々を、生きていましたから」
「そんな、地獄のような日々があるんですか……」
「ははっ、地獄か。まあ、割とそうですね。……よいしょっと」
マナトは立ち上がった。
「十の生命の扉を開くっていうの、僕もよく分かってないんです。確かに、マナの源泉を注がれる際、それが能力者になるための条件だと言われましたが」
「えぇ……じゃあ、どうすれば……」
ルナの顔に、みるみる失望の色が浮かんだ。
「つまり、分からなくても、能力者にはなれるみたいですけど」
「あっ、なるほど」
ルナの顔から、失望の色が、パッと消えた。
「……あと、マナを取り込んだ後は、ただただ、我慢してたんだと思います」
「我慢……吐き気とかの苦しみをですか」
「そう。僕も、それしか言えません。あっ、そういえば確か、その後、少し寝ましたけどね」
「……分かりました」
ルナも、立ち上がった。
「国に帰ったら、もう一度、マナの源泉を体内に取り込んでみます」
「そうですか……あまり、無理は、しないで下さいね」