36 共行⑥/盗賊団との戦い
ミトは、2人の敵を相手に交戦し続けていた。
「く、くそ……!」
「コイツ……!」
敵は、少し息が上がってはいるが、傷ついている様子はない。
対するミトは、ずっと同じ表情だった。
「……」
グリズリーと戦ったときと、同じ表情をしている。
「……んんっ?」
ラクトが、ずっと同じ敵を相手にミトが戦い続けていることに気づいた。
「おう、ミト。もしかして、苦戦してるのか?」
「いいや?」
「助けに入ってやろうか」
「ううん、大丈夫~」
言いつつ、ミトは敵を観察するように、その上で隙は見せないように構えている。
ラクトは首をかしげた。
「ぉらあ!」
敵の一人が双剣でミトに斬り込む。
「!」
ミトはサッとよけつつ、敵の双剣をカキン!とはじいた。
双剣が宙を舞い、地面に落ちる。敵は急いでそれを拾いに走る。
その間、ミトは追い討ちをかけることなく、ただただ、その光景を見守っている。
もう一人、隙をついてミトに剣で突き刺してきた。ミトは分かってますとばかりにスッと身体をのけ反らせ、よけ様に先の敵と同じく、剣を弾き飛ばした。
敵が、落ちた武器を拾った。
――ストン。
拾ったが、敵が武器から、手を離した。そして、敵は、うなだれるように両膝をついた。
「もう、あのやり取り、10回以上もやってるんだぜ……」
ケントが、ミトにというより、どちらかというと敵側のほうに同情しているような感じで、苦笑しながら言った。
ラクトは察した。
「なるほどぉ……敵の心をバキバキに折ってたのか……ある意味、一番おっかねえやり方だな」
まだ戦闘可能な敵は、半分ほど残ってはいた。
「……」
「……」
しかし、ミトの戦いを見て、完全に戦意を喪失したらしい。
実力の差というものが、ミトのやった戦いで、決定的なものとなったようだ。
「……さて、これ以上やるなら、俺も相手になるが、どうする?盗賊団の皆さんよ」
――ジャキッ。
ケントが、背中の大剣に手をかけ、構えた。
「く、クソが……!」
負傷したメンバーを庇いながら、盗賊団は逃げ出した。
ウテナがすかさず追い討ちをかけようと、駆け出そうとした。
「追わなくていいわよ、ウテナ」
フィオナが言った。
「えっ?」
「あたし達は、キャラバンよ。交易品を持って国を行き来する、行商するのが仕事だからね」
「はい」
――カチャッ。
ウテナはナックルダスターを右手から外した。
盗賊団は、眼前から消えた。
「みんな、お疲れ~。んじゃ、行くぞ~」
ケント商隊とウテナ商隊は、再び西のサライを目指した。何事もなかったかのように、砂漠の道を歩く。
――ワイワイ……!
とはいえ、後ろを歩いていた5人は、それまでのぎこちなさというものはなくなり、快活に会話している様子だった。
先頭を歩いているフィオナとケントはそれを見て、頷き合った。