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23 マナの洞窟/クルールの守り神の末裔②

 「……オマエ、コノセカイノモノジャ、ナイナ」

 ……あっ、分かるんだ。

 「そうじゃ。マナトはこのヤスリブでない、別の世界から来たという、ちょっと面白い経歴を持っておる」

 長老は言った。

 「この世界では経験できないような、みじめな思いをしてきた、情けないヤツじゃ」

 ……はっきり言いますねぇ、長老。

 更に長老は続けた。

 「前の世界では、いくら頑張っても努力が報われることはなく、上司からも詰め寄られて、それに抗うこともできなかったという」

 ……いやまあ、その通りなんですが、ちょっと、刺さるんですけど。

 「どんどん精神を病んで、壊れて、逃げて逃げて、逃げてきた」

 ……自分、ちょっと、泣いていいすか?

 「……クフ、フ、フハハハハ!!」

 怪物がもの凄い勢いで笑い出した。口は大きく開いているが、目はまん丸いままで笑っていて、もの凄い不気味だ。

 「タダノ落チコボレデハナイカ!」

 ……か、怪物にまで、バカにされてしまった。

 「そう、どうしようもない落ちこぼれじゃ」
 「フハハハハ!!」
 「じゃが、その分、苦しみというものを知っている」

 長老が言うと、怪物は笑うのを止めた。

 「自分が苦しんだ分だけ、他人の苦しみが理解できるもんじゃ」
 「ソンナノハ、ヤスリブデモ、イクラデモイルデハナイカ」
 「もう一つ。それは、マナトの生きていた日本という国が、武器を持つ必要がないほど平和でありながら、そのような苦しみを味わっているというところにある」
 「……」
 「非常に面白いと、わしは思った。もちろん、お主の言ったように、このヤスリブでも似たような思いをしている者達は大勢いるじゃろう。じゃが、この世界で経験する苦しみ、不幸とはまた別の、精神のどん底まで行き詰めたようなものを、マナトに感じた。そういった者は、この世界ではやはり珍しい。そして、結果、マナトはこの世界にやって来た」
 「……」
 「知識は豊富じゃ。大学という研究機関のようなものを出ている。それに、教養も備わっておる。わしはここまで、無礼な態度を取られたことがない。そこも気に入った。こやつに、マナを操る力を授けたい」
 「……オレハ、オマエノコトハ、シンライシテイルノダ、フリード。ソイツシダイダ。……異世界ノ」
 「は、はい」
 「オマエハ、十ノ生命の扉ヲ開クカ……」

 怪物、いや人魚の主はつぶやくと、足を曲げて水面《みなも》に浮かび、すぃ〜っと泳いで水中へと消えて行った。

 「うむ、よかった!」
 長老が嬉しそうにガッツポーズした。

 ――サ〜。

 湖の水面が、少し下がり、一本の、湖の中央へと続く道が姿を現した。

 「マナト、前へ」

 マナトは道の上を歩いた。程なくして道は途絶え、そこで立ち止まった。

 再び、人魚の主が、今度は湖の奥のほうから姿を現して、マナトの目の前までやってきた。

 水かきのついた両手いっぱいに、水色に輝く液体がすくわれていた。どうやら湖の水とは違うもののようだ。

 「目ヲトジロ、異世界ノ」

 マナトは目を閉じた。

 小さな滝に打たれるように、マナトの頭上から水が滴り落ちてきた。

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