22 マナの洞窟/クルールの守り神の末裔①
地底湖は先がどこまで続いているのか分からないほど広かった。長老の持っているランプの灯りも届かず、湖の奥は闇に包まれている。
「来るぞ、クルールの守り神の末裔、人魚じゃ……!」
「えっ、人魚?」
マナトはちょっと、ときめいた。
伝説の生き物で、上半身は美しい女性、下半身は魚の胴体をしている、艶かしいあの人魚の姿を頭に思い描いていた。
――スッ。
湖の奥のほう、少しランプが届いておらず視界が悪いが、何か尖ったものが、水面《みなも》から出て来た。
それは左右に泳ぎながら、少しずつマナト達のいる湖のほとりまで近づいてくる。どうやら魚の背びれと思われ、その上、大きさはマナトの背丈くらいある。
……あっ、これ、違うヤツや。
落胆している間もなく、大きな背びれがどんどん、近づいて来る。
「ち、長老……!」
「大丈夫じゃ。敵ではない」
……長老の言葉を信じるしかない。
ほとりにかなり近づいてきたところで、背びれが横向きで止まった。
――ヌゥゥ。
背びれが押し上げられたかと思うと、青銀色の鱗に覆われた生物が、マナト達の眼前に現れた。
顔の先端は細長く、口は尖っているが牙はなく、ギョロっと浮き出たまん丸い目は、魚の横顔そのものでありながら、胸びれの下からは、人間の、いや巨人が持つようなたくましい、銀色の鱗に覆われた腕が生えていて、その手は水かきと鋭い爪が付いている。
更に、尻びれあたりからも、巨大な鱗足が生えていて、人間のように二足歩行で立っている。
そして、魚を触った時にヌルっとするような独特の粘液が不気味に光り、遥か頭上から、そのまん丸い目でマナト達を見下ろしていた。
これまでの美しい、幻想的な光景とはあまりにも対照的な、おぞましい怪物だった。
「久しいの、人魚の主よ」
「……フリード、カ」
怪物がしゃべった。
「ナニシニ、キタ」
低めな上にかなりしゃがれているが、かろうじて聞こえる。
「ひとつ、報告があってな。ウシュムの末裔が、このクルール地方を飛んでいた。わしの村のもんが、それを見た」
「……」
怪物のまん丸い目が、ギョロギョロギョロと動いた。背びれや胸びれをパタパタと開いたり閉じたりして、その水しぶきがマナトと長老にびしゃびしゃかかった。
「ここまでドレイクが飛んでくるというのは、非常に珍しいと思ってな。まっ、一応、報告しておこうと思っただけじゃ」
「……ソレダケカ、フリード」
……あっ、フリードって、長老の名前か!
「あっ、いや、そっちはついでじゃ。本命は、こっち」
長老は、マナトを指差した。
まん丸い目が、マナトを凝視した。
……恐い、恐すぎる。
「紹介するぞ。マナトじゃ」