21 マナの洞窟/洞窟の奥
少し、かがんで進めるくらいの広さになった。
ふと洞窟の側面を見ると、長老の持っているマナ石のランプに反射して、青色の小粒の何かがキラッと光った。
マナトはそれを凝視した。
「……苔《こけ》だ」
ただの苔ではない。サファイアのような透明感のある青色をしていて、長老が奥へ進めば進むほど、その透明な苔は増え側面を覆って、美しい青のアーチをくぐっているような感覚だった。
マナトは手を伸ばして、その苔を触ってみた。
青い宝石のようでありながら、柔らかい。手触りは完全に苔だ。
「……こんな苔、初めて見た。すごい」
「もっと、すごいものが見れるぞ」
長老がちょっと振り向いて言うと、間もなく広い空間に出た。
視界が一気に明るくなった。
「おぉ……」
マナトは感動でため息した。
地面の砂が、黄色いトパーズのように、透き通ってキラキラと輝いている。
そしてその地面から、まるでエメラルドのような透明感のある、どちらかといえば海や川の中で見そうな植物がゆらゆらと揺れていた。
コンブみたいなのが人の背丈くらいの大きさで揺れていれば、イグサみたいのが足下でそよそよと揺れている。
その頭上には、サファイアの苔がきらめいている。
そのどれもが、長老の持つマナ石のランプの灯火に反射して、反射して、反射して……。
まるで光り輝く湖の底を歩いているようだった。
「ここが、マナの洞窟じゃ」
マナトはしばし言葉を失い、茫然と目の前に広がる美しい光景を眺めていた。
長老は歩き出しながら、マナトに語りかけた。
「母なる大地、ヤスリブ……この大地のほとんどは砂漠地帯であり、昼は灼熱、夜は極寒という、自然の厳しさをそのまま具現化した世界が広がっておる。しかし、そのような一見、生命の営みを許さないような大地にも、不思議と緑が広がり、生命を育む土地が点在しておるのじゃ」
「ここも、その一つということですね」
「うむ。そして、そこにはマナの源泉というものが存在する。いま、そこに向かっておる。そこで、儀式を行う」
「儀式、ですか」
「うむ。マナトよ。この世界ではミトやラクトのように強い戦闘力を身につける者達の他に、ジンのような、人間に似て非なる存在に加え、もう一つあるのじゃが、分かるか?」
「いや、ちょっと、分からないですね……」
「その者は、このヤスリブに宿るマナの力を取り込み、自然に存在するものや現象を自由自在に操る人間……すなわち、能力者」
「能力者……」
「うむ。ちなみに、このマナ石も……」
長老は、ランプの中の火の灯っているマナ石を指差した。
「あぁ、なるほど。マナが宿っているんですよね」
「そういう事じゃ」
「でも、条件が……」
「うむ。マナト、着いたぞ」
長老が足を止めた。
目の前に、青く揺らめく波が見える。
本当の湖、地底湖のほとりに、長老とマナトは着いていた。