19 マナト⑤/決意
マナトは長老に連れられ、ミトとこれまで歩いて来た道を引き返していた。
ミトもついてきた。
「あっ、そうじゃ」
長老は歩きながら、ミトのほうを向いた。
「なんでしょう?」
「言っておくが、マナトのほうが年上じゃぞ。お主、歳は20じゃろ。マナトは、23じゃ」
「えぇ!?」
ミトがビックリして、マナトを見た。
「あっ、いや、別に気にしていないというか」
「す、すみません!」
ミトはとても申し訳なさそうな表情で、頭を下げ、合掌した。
「あぁ、いや、そんな、いいんですよ」
「てっきり、年下かと……若く見えたんです。本当にすみません」
ミトは何度も謝ってきた。
「それじゃあ、お互い、敬語はなしでいこうよ」
マナトが提案した。
「えっ、それは……」
「今さら敬語で話されても、違和感しかないから」
「よいではないか、ミト」
長老からも言われ、ミトも納得したようだった。
「うん……分かった!」
「よろしくね……あっ」
密林方面から少し横道にそれていったと思うと、かつてマナトが倒れていた丘陵地帯の草原に続く長い階段まで来ていた。
「上るぞい」
「はい。……ところで、これから、どこへ行くんですか?」
長い長い階段を上りながら、マナトは長老へ聞いた。
長老は問いには答えず、
「……マナト。残念じゃが、お主は、ミトのように強くはなれん」
と言った。
「あっ、はい。……何となく、僕もそう、思ってました」
「えっ、でも、僕も最初は弱かった……」
ミトが言おうとしたのを、長老が遮った。
「ミト、お前の強さは、一朝一夕で身に付くようなものではないのじゃ。マナトはお主ほどには、どうしても、強くなれん。お主の力は、お前だけの力じゃ」
「でも、マナト君も、村で修練を積めば、きっと……」
「その場合でも、幼い頃から修練を積んでいないマナトには、無理なんじゃ。もうマナトは、23じゃからの」
「……」
ミトは黙った。まるで自分がそう言われたかのように、しゅんとしていた。
……ミト、ホントに優しいなぁ。
マナトは少し、胸が熱くなった。
「ただし、そんなお主でも、このヤスリブの地で生き抜いていくすべを、これから授けようと思う」
長老はマナトを見た。力強く、それでいて、何か覚悟を感じられる視線が、マナトを突き刺した。
「これから行う儀式は、『十の生命の扉を開く者』だけに許されるものじゃ。お主がその条件を満たしているかどうかは、正直、分からぬが、マナトよ」
「はい」
「強くなりたいか?」
長老には、自分がかつて、あの不動産会社でした情けない経験も、全て話している。
――もういいよ、お前、何もしなくて。
かつての上司の言葉が、一瞬、頭をよぎった。
――グォォォオオ!!
そして、巨大なグリズリーと闘うミトの、あの後ろ姿も、脳裏に浮かび上がってきた。
「もし、出来るなら……。もう、弱いのは、嫌です!」
小さくも、はっきりした口調で、マナトは言った。