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第二十話 【神聖国】半包囲状態


 神聖国は、既に魔王ルブランから要請を受けた帝国兵と、魔王カミドネの配下に包囲されている。正確には、魔王カミドネの配下が神聖国の首都を半包囲して、距離をあけて、帝国兵が包囲を行っている。

 魔王カミドネの包囲網は、緩くは見える。

「なぜだ!なぜ、突破が出来ない!部隊長は何をしている!我らは、神の使徒だぞ!魔王が用意したアンデッドが多くても・・・」

 肩で息をしながら、ルドルフは叫んでも何も変らない。

「なぜだ。なぜだ。なぜだ。なぜ!こんな事になっている!!」

 聖王ルドルフが、怒鳴り散らしているが、聖王ルドルフの疑問に答える者は居なくなっている。

 聖王ルドルフは、勝利を確信していた。
 魔王といっても、新参の魔王に自分が負けるとは考えていなかった。兵の数も、数倍は抱えていた。

 そして、自分がスキルを与えた司教クラスが出陣していた。
 アンデッドが多い魔王カミドネの軍に負けるはずがなかった。帝国軍は、魔王カミドネの軍を蹴散らせば、靡いてくると考えていた。

 しかし、魔王カミドネを駆逐しようとした包囲網は破られて、神聖国の兵士たちは各個撃破され聖都に逃げ帰ってくるのがやっとの状況だった。司祭たちは、情報を持ち帰る為に後退したと言っているが、負けて、軍が瓦解して逃げ帰ってきたのは、誰が見ても解ってしまう。それこそ、子供が見ても”逃げてきた”のがわかる。

 神聖国は、追い詰められていた。
 今まで、大量の奴隷を使い他国を脅して、スキルを部下に与えて、繁栄を極めていたが、風前の灯火になってしまっている。

 神聖国のトップである聖王ルドルフは、聖都から逃げ出すことが出来ない。
 その為に、聖都の防御は堅牢にしていた。堅牢な防御がゆえに陥落はさけられているが、風前の灯なのは誰の目にも明らかだ。

 神聖国の街や村は、次々に陥落している。
 聖王ルドルフは、聖都を守るために、街道などの整備にも気を使っていた。

 街道は、歩くには十分な広さを持っているが、軍が侵攻するのには適さない。整備されていない為に、補給を行う部隊の進行が難しい状況にしてある。それだけではなく、街と街の間隔を離して、一日で到達できる距離には作らせない。略奪が可能な村も許さなかった。

 それらの施策をもってしても、魔王カミドネのアンデッド軍団を止めることは出来ない。
 アンデッドなので、補給の必要がない。アンデッドの弱点は、ある程度は解決しているために、街や村を蹂躙するのも容易い。

 魔王ルブランと帝国の取り決めで、ダンジョンがある街や村は、魔王ルブランが貰い受ける事になっている。魔王ルブランは、街や村の統治はしない。統治は帝国に任せてしまう。統治権は魔王ルブランが持つが、領としては帝国領となる。取り決めとして、ダンジョンがある村や街は、魔王ルブラン支配の村や街として帝国の中にある治外法権の街や村となる予定だ。

「ダンジョンがない?」

 包囲している陣の後方に、帝国の指揮本部が設営されている。帝国軍は、魔王ルブランからの要請通りに、逃げてきた民間人を保護して、身元を調査することを第一としている。逃げてきた神聖国の関係者を捕縛する。魔王カミドネからの要請で、軍を前進させる。

 その帝国軍の本部に、情報が舞い込んできた。

「はい。捕えた、司祭から聞いた話で、裏も取りました」

「そうか・・・」

 帝国軍の指揮官は、旧第7番隊の隊長だったティモンが行っている。
 魔王ルブラン関連だということで領地から呼び戻されて任命された。

「はい。聖王の指示で、見つけたダンジョンは即座に攻略を行って、討伐していたようです」

「わかった。貴殿は、そのまま城塞街に向ってくれ」

「はっ」

「城塞街のギルドにいるメルヒオール殿に状況を伝えてくれ」

「はっ」

 ティモンは、伝令兵が部下と一緒に天幕を出ていくのを見送った。
 魔王ルブランの予測では、神聖国の聖都は大きなダンジョンだと説明された。

「こうなると、魔王ルブランが言っていた、聖王が魔王というのは、あながち間違いではない可能性が出てきた」

 ティモンの独り言は、帝国の天幕に吸い込まれていった。

---

「フォリ!」

 魔王カミドネは、副官であり、右腕であり、夜伽の相手である。フォリの名前を呼んだ。

「はい」

 魔王カミドネは間違えられることが多いが、生物的な性は女性である。女性が好きな女性である。

 魔王カミドネは、フォリを横に座らせて、抱き着きながら話を聞いている。

「神聖国は、どう?」

 フォリは、出陣はしていない。
 魔王カミドネを守る最後の砦と言えば聞こえはいいが、魔王カミドネが一緒にいるように指示を出している状況だ。

 フォリは、トレスマリアスの3人から状況を聞き出して、まとめた。まとめられた情報を、魔王カミドネに報告をしている。

 魔王カミドネのダンジョンも遠征が行えるほどの人員は揃っていない。魔王からは、人員は好きに増やせと言われて、その分のポイントも貰っている。しかし、魔王カミドネは、サポートができる者を増やしていない。
 初期メンバーである、キャロとイドラ。二体の護衛フォリとトレスマリアスのマリア、マルタ、マルゴットを追加してから、補充をしていない。

「現在は、トレスマリアスが聖都を半包囲している状況です」

 魔王カミドネではなく、フォリと魔王ルブランが決めた作戦だ。
 完全に包囲してしまうと、ダンジョンのポイントの糧となる”人”が奪えない。

 魔王からの指示もあり、聖都は干上がらせることが決定している。

 聖王が持つポイントの総量はわからないが、人が居なくなればポイントの補充ができなくなる。
 帝国が周辺の街や村を制圧しているのも、ポイントの補充ができない様にする為だ。

 半包囲作戦で、逃げ出す者たちには攻撃を咥えないと宣言している。
 この状況で、聖都から聖王が逃げ出さないことから、魔王の推測が当たったと思われている。聖王=魔王。そして、ダンジョンの領域は広く設定されていない。大きくても聖都の範囲内だと考えられている。

 魔王カミドネは、魔王からポイントを受け取って、聖都近くまで、ダンジョンの領域にしている。かなりのポイントを消費したのだが、魔王は気にしないで、できる範囲を広げてしまえと指示を出している。

「問題は?」

 魔王カミドネは、反抗部隊の責任者ではない。
 しかし、部隊をまとめる者として状況の把握をしておきたいと考えている。魔王も、部隊の責任者はフォリだと尻ながらも、魔王カミドネが報告を上げるように伝えている。

「思っていたよりも、聖都から抜け出す者が少ない状況です」

 聖都には、民間人も住んでいた。民間人は既に逃げ出してしまっていると考えられている。
 司祭たちが負けて逃げ帰ってきてから、暫くの間は聖都から逃げ出す者たちが多かった。

 半包囲が完成してからも数日は、聖都から逃げ出す者が増えていた。

「時間がかかりそう?」

 攻め込んでしまえば、落とすのは難しくはないが、犠牲が出てしまう可能性がある。
 魔王も、魔王カミドネも、仲間からの犠牲を嫌う傾向がある。そのために、突撃の指示は出ていない。

 部下たちは、”突撃”の許可が欲しいとは思っていても、主たちの気持ちも十分に解っている。

「はい。キャロやイドラを」「ダメ!」

 フォリは、キャロとイドラからの進言を受けて、突撃しようとしていたのだが、魔王カミドネはフォリが言い切る前に拒否を示した。魔王カミドネは、神聖国への逆侵攻が失敗しても構わない。それよりもキャロやイドラの方が大事なのだ。神聖国を痛めつけるという当初の目的は果たしている。街や村の占拠も終わっている。神聖国が同じだけの影響力を持つのは不可能に思える状況だ。ここで無理する必要はない。聖都を孤立させるだけでも十分な状況だ。

 嬉しそうにするフォリとは対照的に、魔王カミドネは憮然とした表情をしてフォリに体重を委ねる。甘えるしぐさをした。

 フォリも解っているので、魔王カミドネを抱きしめる。

「はい。わかっています。マルゴットからの提案ですが・・・」

 そして、落としどころとなる作戦を提案する。この作戦が実行された時に、聖都はどうなってしまうのか?
 魔王カミドネには判断が出来ない。しかし、最良の作戦であるのは解ってしまった。

 味方が傷つかずに相手に最大のダメージを与える。
 そして、聖都にあるダンジョンの攻略を開始できる作戦でもある。

 魔王カミドネは、自分の権限の範疇だと判断して、マルゴットから提案された作戦に、少しだけ修正を加えた作戦にGOを出す。

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