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第63話 昨日のリベンジマッチ

 俺たちは昨日遭遇したハイヒッポアリゲーターに会うため、昨日と同じ森の川辺に来ていた。

 そして、縄で縛った魔物を川に投げてそれを餌にしてハイヒッポアリゲーターを陸におびき寄せることに成功した。

 すぐにリリが【結界魔法】を使ってくれたので、ハイヒッポアリゲーターは川に引き返すことができず、その見えない壁に激突していた。

 このチャンスを逃すわけにいかない。

 俺はこちらに背を向けているハイヒッポアリゲーターに手のひらを向けた。

「『フレイムボム』!」

 俺は以前にクリスタルダイナソーを丸焼きにした中級魔法を唱えた。

その魔法を唱えると俺の半身ほどの大きさの炎が手のひらに形成された。形成したそれをハイヒッポアリゲーターに投げつけると、着弾し瞬間に全身を業火で包みながら爆発した。

「ギィヤァァ!!」

 その爆発した衝撃と煙が横に逃げて、河原の小石などを吹き飛ばした。こちらにも飛んできた衝撃を受けて、俺は目を細めながらハイヒッポアリゲーターから視線を逸らさずにいた。

「ギィィィ……ギャヤァァ!!」

 突然の爆発を食らって驚いているようだったが、一撃で倒れることはないようだった。怒り狂ったように鼻息を荒くさせながら、ハイヒッポアリゲーターは攻撃をしてきた俺たちを探しているようだった。

 俺は焦げ臭いような香りをかぎながら、ゆっくりと短剣を鞘から引き抜いた。

 前の短剣ではクリスタルダイナソーに傷をつけることさえも苦戦した。それが、今ならどうなのか。

 魔物は違うけれども、同じく硬化のスキルを持っているのならばそれを試したい。

 そう思った俺は【潜伏】のスキルを解除して、ハイヒッポアリゲーターに姿を見せた。

「あ、アイクさん?!」

「リリは引き続き援護を頼むぞ」

 突然姿を現した俺にハイヒッポアリゲーターは驚いているようだったが、それと同時に怒りをぶつられる相手を見つけられたことが嬉しいのだろう。

 俺と目が合って数秒もしないうちに、ハイヒッポアリゲーターは俺に向かって突っ込んできた。

 その速さを見るに、【突進】のスキルを使っているのだろう。一気に俺との距離を詰めると、そのまま大きな口を開いて俺の体をかみ砕こうと鋭い牙を見せてきた。

 こんなの脳筋みたいな突進を受け止める必要はないだろう。

俺は【道化師】のスキルを使用することで、身を軽くさせてその攻撃をひらりとかわした。

ただ闇雲に突っ込んでくる魔物の攻撃を嘲笑うように、軽いステップで攻撃をかわすと、ハイヒッポアリゲーターはそのまま近くにあった木に衝突した。

そのままその木をへし折るようにしてかみ砕き、俺を仕留められなかったことに気づいたのか横眼で俺を睨んでいた。

木を簡単にへし折ったのが、【噛砕】というスキルだろう。あれをまともに食らったら、体をえぐり取られる気がする。

それでも、食らわなければ意味はない。

「【サンダーボルト】!」

「ギャァァ!」

 どこからか電撃が走ってきて、ハイヒッポアリゲーターの体に着弾した。出所が分からない魔法による援護。

 その存在すら知らないハイヒッポアリゲーターは何が起きたのか分からない様子だった。そして、体を痺れさせて少し動きが鈍くなったのが分かった。

この隙を見逃すわけにはいかない。

俺は【剣技】のスキルだけを使用して、ハイヒッポアリゲーターの横腹に向かって地面を強く蹴った。

当然、ハイヒッポアリゲーターは俺の姿は見えているので、【硬化】のスキルは使うだろう。

むしろ、使ってもらわなくては困る。

 以前は簡単に弾かれてしまった短剣。それがガルドの作った武器ランクSの短剣ではどうなるのか。それを確かめたかった。

 俺は数歩で距離を詰めると、そのまま短剣を構えた。ハイヒッポアリゲーターは【硬化】のスキルで俺の短剣を弾くつもりらしい。

 応戦するのではなく、攻撃をあえて受けようとしている。どうやら、【硬化】のスキルに自信があるらしい。

 俺は少しの不安を抱えながら、ハイヒッポアリゲーターの横腹に向かって短剣を振り下ろした。短剣が触れると、そのまま強い抵抗を感じることなく短剣は振り下ろされた。

 一太刀の傷跡は深い所まで残ったようで、短剣の先から根元まで赤い液体が付着していた。

「ギャァァ!!」

 傷をつけられる想定をしていなかったのか、ハイヒッポアリゲーターは驚きと切られた痛みを混ぜたような声を漏らしていた。

 痛がることで見せた少しの隙。それを見逃すわけに吐かなかったので、俺は【肉体強化】のスキルを使って、そのまま短剣の先をハイヒッポアリゲーターの体に突き刺した。

 根元までしっかりと入った状態で、俺は短剣をハイヒッポアリゲーターの体に深く差したまま尾っぽの方にその短剣を移動させていった。

 大きくなっていく刀傷は俺が地面を強く蹴れば蹴るほど広がっていき、生きた状態で解体されているようだった。

 そのままわき腹から尾っぽの方まで短剣で切り裂いていき、最後に尾っぽの先から短剣を引き抜くと、ハイヒッポアリゲーターは悲鳴のような声を漏らして動かなくなった。

 そのハイヒッポアリゲーターの様子を見ながら、俺は短剣についた赤い液体を払って、短剣を鞘に収めた。

「……いや、切れすぎじゃないか?」

 硬化を無効化するような短剣の切れ味を前に、俺は鞘に収めた短剣を眺めながらそんなことを呟くのだった。

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