第62話 川釣りに行こう
「イーナ、いるか?」
「あら、アイクくん。おはよう」
ハイヒッポアリゲーターとの遭遇から一晩経って、俺たちはイーナの店にやってきていた。
イーナは丁度これから店を出ようとしていたようだったので、ちょうど良いタイミングだったかもしれない。
「この街に釣竿売ってるところある?」
「釣竿? なに、今日は二人で釣りでもするの?」
「まぁ、そんなところだな。俺の身長の四倍くらいある獲物を釣りたいんだけど、良い釣具屋あったりしないか?」
「……ないわよ、そんなバケモノを釣るための専門店なんて」
一体何をしようとしているのかと問われたので、俺は二日後に向けて魔物を釣ろうとしていることを説明した。
俺がその魔物を釣り上げようとしていることを告げると、イーナは顔をしかめた後に太い縄などの道具が売っている店を紹介してくれた。
「アイクくんとリリちゃん、そんなに危ないことはしないでよ? もう二日後なんだから、そんな特別な魔物じゃなくてもいいんだからね」
「一体はもうファングにしたんだけど、もう一体は変わり種があった方がいと思ってさ。 多分、結構パンチあるぞ」
「それは、新鮮な川にいるような魔物なんて食べる機会あんまりないし、パンチはあると思うけど……まぁ、任せるわ。ただ無理はしないでね」
イーナも俺の意見には賛成なのだろう。俺の意見に強くは否定をしなかった。
要するに死なないで帰ってくればいいということだろう。
「大丈夫だと思う。問題ないって」
「……本当に分かってる?」
そんな俺の考えていることを否定するような目で見られたが、大きく外れてはいないはずだ。
俺たちはそのままイーナと分れると、道具を揃えてから馬車に乗って昨日向かった森へと向かったのだった。
「よっし、これで釣り上げられるな」
「……いけますかね?」
俺たちは道中で見つけたブラックポークを数匹討伐した後、昨日ハイヒッポアリゲーターがいた川辺に来ていた。
太いロープでブラックポークを縛り付け、遠くから【肉体強化】をしてその川にブラックポークをぶん投げた。
どぼんという水音がして、ブラックポークは川の流れのように従うようにゆっくりと流れていった。
「大丈夫だ。【気配感知】のスキルを使ってるし、タイミングは任せてくれ」
多分、リリが心配しているのはこのロープのどこにも針がついていないからだろう。ただブラックポークの体をロープで縛り上げただけ。
つまり、ただハイヒッポアリゲーターに餌をあげているようなものだ。
「……きたぞ」
【気配感知】に反応している遠くから現れた大きな赤い炎。丁度位置的にも俺たちに向かってきている。
きっと血の匂いがして寄ってきたのだろう。
「リリ、少しずつ引いていくぞ。それと、【潜伏】を忘れるなよ」
「はい、わかりました」
俺たちは【肉体強化】をした状態でゆっくりとロープを引っ張っていった。徐々に川から岸にブラックポークを引いていくと、ハイヒッポアリゲーターの気配が少し早くなった。
その気配が俺たちのすぐ前まで来て、一瞬川の中に黒い影が見えた。
「今だ! 全力で引くぞ!」
俺の掛け声に合わせて、俺たちは全力でそのロープを引っ張った。
高いステータスを持つ二人が【肉体強化】をした状態でロープを引っ張ったのだ。その先にブラックポークがついていようと関係ない。
ブラックポークは強い力に引っ張られて、川から宙に浮いた。
そして、その瞬間にハイヒッポアリゲーターが川から姿を現した。そのまま宙にいるブラックポークにジャンプをして食いつくと、強すぎる顎の力でロープを簡単に引きちぎった。
ハイヒッポアリゲーターはそのまま地面に落ちたが、そんなのは気にしない素振りでそのまま川に戻ろうとした。
「リリ!」
「はい、【結界魔法】!」
すぐに獲物を持ち帰ろうとしたハイヒッポアリゲーターは、勢いよく川に帰ろうとした。しかし、振り向いてすぐに見えない何かにぶち当たって体を跳ね返されていた。
リリの【結界魔法】で作った壁がハイヒッポアリゲーターと川の間に作られて、川に戻ろうとするハイヒッポアリゲーターの動きを封じたのだ。
「昨日ぶりだな」
そんな再会の挨拶を程々に、俺たちの戦いは幕を開けたのだった。