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第61話 川に潜む魔物

「あ、アイクさん! こっちです」

「お疲れ様、リリ。おっ、すごいな」

 クイーンディアをアイテムボックスにしまってリリの方に向かうと、そこには七体のワイドディアが倒れていた。

 刀傷や火傷を負っていることから、短剣と魔法で仕留めたのだろう。これだけの量を逃がさないで倒せるのは純粋にすごいと思う。

 日々リリも成長しているのだなと感心する。

「前はワイドディアの角を売っちゃったからな。これだけあれば、しばらくは武器を作る上では問題なさそうだ」

 ワイドディアとクイーンディアの角。武器を作るうえでは魔物の素材が必要になる。これだけあれば、試し打ちには十分だろう。

「短剣は馴染んできたか?」

「はい。もうばっちりです! アイクさんは新しい短剣慣れました?」

「こっちもばっちり……と言いたいところだけど、正直切れすぎてまだ慣れてないかもしれないな」

「そんなに切れるんですね」

「クイーンディアの首が一撃で落ちた。正直、もっと強い魔物を相手にしたいけどな」

 クイーンディアが一撃ということは、キングディアもそこまで変わらないだろう。

 もっと切りごたえのあるような魔物を相手にしてみたいな。

 そんなことを考えて森を散策して魔物を討伐したが、その後も強い魔物に遭遇することはなく、日が傾いていった。


「これ、川だよな」

「凄い大きな川ですね」

 俺たちはどんどんと森の奥まで進んでいってしまい、気がつくと森の奥にある大きな川まで来ていた。

 こんな奥の方に川があったとは。

 魔物というのは生き物だから水分を求めて川に来る。だから、俺みたいに【気配感知】のスキルがなくて、川で張っていれば魔物と遭遇することができる。

 まぁ、どんな魔物が来るのか分からないから結構危険だけどな。

 ここでしばらく張ってもいいけど、帰りの場所の時間を考えると今日はここまでだろうな。

 そう思った時に、川辺で水浴びをしていたブラックポークが川からひょっこりと出てきた。

 俺たちにも気づいていないのか、ブラックポークは呑気に体を震わせて体についている水を落してゆったりとしていた。

「あれだけ狩ったら帰るか」

 俺はリリをその場に残して、【潜伏】のスキルを使ってブラックポークに近づいていった。

 ブラックポークは売らないでリリに料理をしてもらうか。脂が甘くておいしいんだよな。

 そんなことを考えて短剣を鞘から引き抜いて【剣技】のスキルを使った瞬間だった。

「アイクさん! 後ろ!!」

「え?」

 突然叫ぶようなリリの声。その声に反応して後ろを向いた瞬間だった。

 目の前に俺を丸呑みしようとしている大きな口が迫ってきていた。

 顎が外れるくらいに大きく開かれた口。

 俺は咄嗟に【道化師】と【肉体強化】のスキルを使用して、前方に思いっきり跳んだ。

 そして、その口はそのままブラックポークを丸呑みにして、鋭すぎる牙で咀嚼していた。

 俺は体勢を立て直して短剣をその魔物の方に向けて、向かい合った。

 四足歩行のワニ型の魔物。俺を一飲みにしようとするほどの大きな口に、強靭な顎。鋭い爪は川辺の石を削り、硬そうで荒々しい肌をしている。

 全体的な大きさはクリスタルダイナソーと同じくらいだろう。それでも、さっきの素早さはなんだ?

【鑑定】のスキルを使用すると、すぐにその情報が俺の頭に流れ込んできた。

【鑑定結果】
【種族 ハイヒッポアリゲーター】
【レベル 41】
【ステータス 体力 7200 魔力 5570 攻撃力 10560 防御力 9220 素早さ 12100 器用さ 4200  魅力 4800】
【スキル:硬化B 突進C 噛砕A 爪抉B】

「……マジかこいつ」

 全体的なステータスが高すぎる。帰ろうってタイミングでこんな奴に出会うか、普通。

 俺が短剣を構えて先手を取ろうかと考えていると、ハイヒッポアリゲーターは俺のことなど眼中にないのかそのまま川に戻っていった。

 いや、【潜伏】のスキルが効いてたから気づかなかったのか。

 そのことに気づいた時には、すでにハイヒッポアリゲーターは俺たちの前から姿を消していた。

 深さの分からない川の中。さすがに深追いをするのは危険すぎる。

「アイクさん、大丈夫でしたか!」

「あ、ああ。大丈夫だ」

 もう帰るだろうからと【気配感知】のスキルを使用しなかったのがマズかった。リリが叫んでなければ、そのまま死んでいたかもしれない。

 まさか、川辺にあんな凶暴な魔物がいるとは思わなかった。さっきの魔物は初めて見たな。

 ん? 初めて?

「……リリ、あいつにしよう」

 冒険者をしている俺が初めて見るくらいだし、きっと商人の人たちも見たことがないだろう。

 それなら、あいつ以外に適任な魔物はいない。

変わり種の魔物肉。それが今決定したのだった。

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