第43話 リリの料理と【助手】スキル
リリが料理を始めてからその匂いで群がってくる魔物たちを討伐しながら料理の完成を待つこと十数分。
料理が完成したというリリの言葉を受けて、俺はその魔物たちから鉱石を『スティール』で回収して、リリの元に戻っていった。
そして、簡易的なテーブルにはおろした辛み成分のある山菜の根と、香辛料で味付けされたブラックポークの肉が薄く切られて皿に盛りつけてあった。そこに、市場で買った黒パンが添えられていた。
黒みがかったソースから匂ってくる香りが食欲を誘い、俺はその匂いに促されるように口の中にそれを放り込んで、思わず感嘆の声を漏らしていた。
「……うまい」
「えへへっ、おいしいですか?」
「これ、かなりうまいぞ。店で出せるレベルの味だ」
「胃袋、掴まれましたか?」
リリは少しの笑みを浮かべながら、首をこてんと傾けてそんなことを言ってきた。微かにその頬に熱があるような気がしたのは、きっとさっきまで料理で火を使っていたからだろう。
「つ、掴みかけられてはいるな」
がっつり胃袋を掴まれた気はするが、それを肯定すると違う意味が発生しそうなので、少しだけ言葉を誤魔化すことにした。
俺はその言葉を聞いて嬉しそうに口元緩めたリリから視線を逸らして、口の中に広がる旨味を堪能した。
少しツン辛い香辛料が食欲を誘い、食べる手を止めさせない。素材の味を引き立てながらも、そのソースのおかげで素材が柔らかくなっている気さえしてくる。ブラックポークの肉のジューシーさと油の甘味が口の中に広がり、それらがソースと絡み合って相乗効果で旨味を倍増させていた。
「ていうか、ブラックポークの肉って、こんなにうまかったか? ……ていか、これ本当にブラックポークなのか? どこかの高級品みたいな肉なんだけど」
「確かに、お肉自体の味が濃いですよね。すぐ噛み切れて、柔らかいですしね。……なるほど、確かにバンクさんとイーナさんが注目するわけです」
リリはそう言うと、自分が作ったものを美味しそうに食べていた。とても、鉱山で食べているとは思えないような至福の表情をしていた。
美味しい肉を食べさせてあげたいと思っていたが、まさかその肉をリリに料理してもらうことになるとは思わなかったな。
「リリ。ありがとうな、まさかこんな美味しいものが食べれると思わなかったよ」
「えへへっ、そう言ってもらえて嬉しいです!」
まだ出会って数日ということもあって、まだまだ俺はリリのことを知れていないのかもしれない。
そう思うと、いつか時間を取ってリリとゆっくり話すのも悪くないなと、結構本気で考えたりしていた。
「リリも今日はいっぱい働いてくれたし、疲れただろ? 飯食べ終わったら、テント組み立てるからゆっくり寝ていいぞ。見張りは任せとけ」
「え? アイクさん、一緒に寝てくれないんですか?」
「い、一緒にって……こんな魔物がいるところで二人で寝たらお陀仏だろ」
リリは一緒のテントで寝るつもりだったのか、俺の言葉を聞いて驚いている様子だった。
言葉回し的にも一緒に寝たがっているような言葉なのが気になる所ではある。
「でも、料理食べて始めてからもう魔物来てませんよ。あれだけ倒したから、もう周りには魔物いないんじゃないですか?」
「いや、他の所から魔物が来るかもしれないし」
確かに、リリのいう言葉は一理あった。周辺にいる魔物は狩りつくした気がするし、二人で寝てしまっても問題はない気もする。
あくまで、魔物が襲ってくる心配はないという意味の問題ではあるが。
「……分かりました、それなら少し頑張ってみます」
「頑張る? え、リリ?」
リリは食事を平らげるとすくっと立ち上がって、手のひらを前方にぐっと伸ばした。そして、そのまま何をするわけでもなく瞳を閉じてじっとしていた。
……何をしてるんだろう?
そんなふうに思いながら、しばらくリリの様子を見ていると、リリが突然パチリと目を開けて振り向いてきた。
「アイクさん! 【助手】のスキルを使って、【結界魔法】のスキルを取得しました!」
「……はい? え、【結界魔法】? ちょっ、どういうことだ?」
【結界魔法】っていえば、他の属性魔法とは違う性質をもつ特別な魔法だ。そもそも使える人が限られるような特殊な魔法。
それをこの場で習得しただと? え、何がどうしてそうなった。
「えーと、アイクさんの助手として、アイクさんに見張りをして貰う訳にもいかなかったので、頑張りました」
「そ、それは助かる、な」
どこか言葉を考えながら発言している気がしたのは、気のせいだろうか。
リリ曰く、この結界は外からの攻撃に強いものらしく、ここにいるような魔物では頑張っても破壊できないくらいの物らしい。
それに加えて、破壊されればその情報は結界の作成者であるリリに伝わるという物。
そんなご都合主義な結界があるのかと思うが、それが【助手】のスキルによるものだと言われると何も言えなくなってしまう。
俺を守るため、俺を助けるためだと思えば、そんな結界を作ることもできるということか。
まさか、【助手】のスキルにこんな隠れた一面があったとは。
……いや、何もこんな場面でそんな能力を覚醒しなくてもいいんじゃないか?
「えへへっ、旅先で一緒にお泊りとか、凄い助手らしいです」
そんな独り言を言いながら嬉しそうに頬を緩めているリリを前に、当然一緒に寝るという提案を断れるはずがなく、俺は本当にいいのかと考えながらリリと一緒のテントで寝ることになったのだった。