第44話 助手としての立ち位置
「【スティール】。ふわぁ~」
「アイクさん、今度こっちです」
「はいよ。【スティール】……ふわぁ~」
「アイクさん。さっきからずっと、あくびしてませんか?」
「え? あ、ああ。まぁな」
結局、俺は急にスキルを覚醒させたようなリリに結界を張ってもらって、同じテントの中で寝ることになったのだった。
同世代くらいの女の子と同じテントの中で寝る。それも、リリは短いスカート姿だ。何も思わない方が無理というものだろう。
それだというのに……。
「リリは随分すっきりした顔してんな」
「はいっ! アイクさんが隣にいてくれたので安心して眠れました!」
リリは俺が隣にいるというのに、すぐに睡眠に入っていた。おそらく、一切途中で起きることなく爆睡したのだろう。
なんか知らんが肌が艶やかになっている気がする。
「アイクさんは眠そうですね。もしかして、私の結界の強度を疑ってました?」
「いや、そこじゃないんだけどな。……まぁ、色々と警戒をした方がいいこともあるんじゃないかと思うぞ」
「結界を張っているのにですか?」
首を可愛らしくこてんと傾けたリリは、俺の言葉の意味が分かっていない様子だった。
いや、結界の中の危険性のことを言っているのだけど、まったくその考えはないような顔をしている。
信頼されるにしても、無防備な姿を俺に見せ過ぎじゃないだろうか。
いつかそこらへんもしっかりと教えた方がいいのか? いや、それを教えること自体が何か意味ありげな感じに捉えられる気もするな。
……うん、考えないことにしよう。
「それはそうと、もう結構奥まで来たな。そろそろ引き返すか」
結局、朝起きてからさらに奥に進んで多くの魔物を倒して、十分過ぎるくらいの鉱石を集めることができた。
これ以上奥に行っても何もないだろう。
そう思って、引き返す前に確認をするために【気配感知】のスキルを使うことにした。
捜索範囲は道の前方のみに絞って、魔物の気配を探っていった。すると、少し先の所に少し大きめの赤い炎のような気配を感じ取った。
以前に感じ取ったことのあるキングディアよりも大きな気配がする魔物。
そのまま【鑑定】のスキルを使用して、その気配の正体を【鑑定】すると、すぐにその結果が脳内に流れ込んできた。
【鑑定結果 クリスタルダイナソー……ワニ型の魔物。見た目は翼のないドラゴンに近いが、ドラゴンよりも小さい。鱗は鉱石のように固く、体内には魔物を吸収して肥大化した鉱石があると言われている】
「ダイナソーか……」
「アイクさん?」
「この先にダイナソーがいる。それも、クリスタルダイナソーっていう、ダイナソーの亜種だな」
確か、進化の途中で空を選んだのがドラゴンで、陸を選んだのがダイナソーだって聞いたことがある。
さすがに、そんな魔物を相手にするのは危険か?
「いや……行ってみるか。リリは危険だろうから【潜伏】のスキルを使って、身を隠してーー」
そこまで言ったところで、リリがきゅうっと小さく拳を握ったように見えた。
表情にも言葉にも出していないが、一緒に戦わせてもらえないことを悔しく思うような感情。それがちらりと頭をのぞかせたような気がした。
以前、キングディアと戦った時もリリのことを心配して、リリには隠れてもらっていた。でも、それはリリにとっては足手まといだと言われているようなものだったのかもしれない。
確かに、リリを隠れさせておけば安全かもしれない。でも、それはリリ自身の成長を止めてしまっていることになる。
リリはただのか弱い女の子ではない。俺の【助手】だ。
それなら、こんなときに俺がかけるべき言葉はそんな言葉ではないだろう。
「いや、違うよな。俺と一緒に戦ってくれ。リリ」
「あっ……も、もちろんです! 私、助手ですから!」
もしかして、リリの【助手】のスキルが覚醒した理由も、自分のことをふがいなく思う気持ちがトリガーだったのかもしれない。
俺の言葉を聞いて、心から喜ぶような笑顔を浮かべているリリを見て、俺は密かにそんなことを思うのだった。
『道化師の集い』のパーティとしての戦いが。それが、これから始まろうとしていた。