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エピソード5 今度こそ

 バルトでの復興作業も終えたサクヤは、仲間達と魔王城に向けて出発したが、結局はいつもと何も変わらなかった。
 カグラやヒナタはサクヤの話など聞いてくれないし、エリーはエリーでリオンとの逢瀬を幾度となく重ねていた。
 サクヤの話を聞こうともしない二人のせいでエリーの悪事は暴けないし、エリーは自分の正体がサクヤにバレているため、彼とは目を合わせようともしてくれない。
 そして遂に最期の時が訪れる。
 いつも通り魔王城に辿り着いたサクヤ達は、これまたいつも通りその城内に突入しようとしていたのである。
「結局、エリーの力は覚醒しなかったな」
「でも、これ以上人々を魔王の恐怖に晒すわけにはいきません。エリーさんの力はなくとも、私達の力で何とかするしかありません」
「そうだな。それに魔王を倒す事は出来なくても、僕達が力を合わせれば、ヤツに大ダメージを与える事は出来るかもしれない。そしたらひっ捕らえて、優秀な神官様に封印してもらおう」
「ですね。今はカグラさんのその楽観的な発想に乗るしかないです」
「みんな、ごめんね。私の力が至らないばっかりに……」
「いえ、エリーさんのせいではありませんよ。結局のところ、その力の覚醒方法なんて分からないんですから」
「そうだよ。それにみんなで力を合わせれば、きっと何とかなるって! なっ!」
「うん……ありがとう、カグラ、ヒナタ」
「……」
 そんな彼女達の会話を、サクヤは白い目で眺める。
 何が「ごめんね」だ。そんな事、微塵も思っていないクセに。これから自分達を殺し、世界を滅ぼし、そして魔王と愛し合って生きていくつもりのクセに。
「ねぇ、城に入るなら正面からじゃなくて、裏口から入らない? そっちの方が敵に見付かる事なく、簡単に魔王のいる間にまで行けると思うんだけど」
「確かに、そっちの方が良さそうですね」
「よし、それで行こう」
 裏口から侵入しようとエリーが提案し、それにカグラとヒナタが同意するのはいつもの事。そしてエリーが先導する事によって、自分達がモンスターに見付かる事なく、最上階にある魔王の間に辿り着く事が出来るのもいつもの事だ。
(そこでエリーに殺されるのもいつもの事だけどな)
 裏口から侵入し、モンスターに見付かる事なく魔王の間に辿り着く。それは当然だ。だってこれはエリーの罠なのだから。人払い(モンスター払い?)した通路を通らせ、魔王の間に誘き出す。そして誘き出したところで隙を突いて自分達を殺すのだ。
 覚醒した、その闇の力を使って……。
(闇の力がいつ覚醒したのかは分からないけどな)
 最初から覚醒していたのか、途中で覚醒したのかは分からないけれど。
 とにかく分かっている事は、このままだとまた死ぬという事だけだ。そして死んだらまたあの白い空間に戻され、十回目の『サクヤ』としていつもの時間に巻き戻される。
 それ、今回は何とか回避出来ないだろうか。
「なあ、今回は正面から強行突破しないか?」
「え? 今回は?」
「あ、いや、それは何でもない! こっちの話だ!」
 しまった、うっかり口が滑ってしまった。次からは気を付けよう。
「魔王を倒したら、生き残っている手下達も殲滅しなきゃならねぇだろ? だったら正面から堂々と突入し、城内にいるモンスターどもを倒しながら向かった方が早くねぇか?」
 エリーの提案通りに裏口から潜入すれば、確実にこちらが殺られてしまう。ならば少しでも生存出来る可能性のある、別のルートを通るべきだ。
 しかしサクヤがそう提案するものの、彼らを殺すつもりであるエリーが、そう簡単にサクヤの案に乗るわけがない。
 当然、エリーは険しく眉を顰めながら、サクヤの案に首を横に振った。
「魔王によって、統率が取れているかいないかは重要よ。手下のモンスター達を倒すなら、魔王討伐の混乱に乗じてやった方が効率が良い。それに魔王さえいなくなれば、手下であるモンスター達は負けを認めて降参するかもしれないしね」
「……」
「それに、他のモンスターを相手にしている途中で、私達の突入に気付いた魔王が現れたらどうするの? 他のモンスターを相手にしながら魔王とも戦わなくちゃいけないのよ? 魔王一人だけでも厄介なのに。それなのに他のモンスターとも戦いながら、魔王に勝てるとでも思っているの?」
「……」
 何が勝てるとでも思っているの、だ。勝たせる気なんかないクセに。
「確かにサクヤさんの案も一理ありますが……。でも私はエリーさんの作戦の方が、勝率が高いと思います」
「確かに他のモンスターの相手をしながら、魔王と戦うのは厳しいよ。僕も魔王を倒す事だけに集中した方が、勝率は高いと思う」
「そうか……」
 エリーの作戦で行こうと頷くいつも通りのヒナタとカグラに、サクヤは小さな溜め息を吐く。
 確かに正面突破よりも、裏口からこっそり侵入し、他のモンスターとは戦わずに魔王の下に辿り着いた方が、それを倒せる可能性は高い。それは分かる。
 しかし、それはあくまでも裏切り者がいない場合の話だ。仲間内に裏切り者がいる、しかもその発案者が裏切り者である場合、それはまた話が違って来る。
 いくら勝率の高い作戦でも、それが裏切り者の作戦であるのなら、その案に乗れば逆に全滅だ。勝率が高くなるどころか、死亡率が二百パーセント。そしていつも通りエリーに殺され、九回目終了である。
(ふざけんな。そう何度も同じ手を食らって堪るかよ)
 そう自分を奮い立たせると、サクヤはその鋭い眼光を改めてエリーへと向け直した。
「だったらオレは、一人で正面から行く。お前らは勝手に裏から行けば良い」
「はあっ?」
 最終決戦を前に、一体何を言い出すのだろうか。突然自分勝手な事を言い出したサクヤに、他の三人から素っ頓狂な声が上がる。
 それでもいち早く我に返ると、エリーはサクヤを睨み付けながら異論を唱えた。
「ねえ、魔王の強さ、本当に分かってる? バラバラに行動して勝てる程、相手は甘くないのよ?」
「へぇ? オレはお前の作戦に乗る方が、ヤツには勝てねぇと思うけどな」
「どういう意味よ?」
「お前は魔王の味方だろって言ってんだよ」
「またそれ? いい加減に……」
「そっちの裏口から入って魔王のいる間に向かい、オレ達を覚醒した闇の力で殺そうって企んでんだろ」
「な……っ、そ、そんなわけ……っ!」
「サクヤさん! あなたまだそんな事言っているんですか!」
 面白いくらいに狼狽えたのは、それが図星だったからだろう。しかしそれをエリーが否定する前に、ヒナタが怒りの声を上げた。
「あなた、エリーさんの何がそんなに気に入らないんですか? エリーさんの光の力が覚醒していない事ですか? でもそれは彼女のせいじゃないって、どうして分からないんですか? それをフォローしてあげようって、何でそう思わないんですか!」
 激怒したヒナタに勢いよく胸倉を掴まれれば、一瞬息が詰まる。
 確かにヒナタの言う通り、エリーが仲間であったのなら、サクヤの行動は最低なモノだろう。しかし、彼女は仲間なんかじゃない。裏切り者だ。そんな彼女の事など信じられるわけがない。
 信じたら最期、痛い目を見るのは自分達の方だ。
「オレは間違った事は言ってねぇ。お前らこそ、何でそれが分かんねぇんだよ?」
「何ですって!」
「もういいよ、ヒナタ」
 全く悪びれる風もないサクヤに、ヒナタが更に怒りをぶつけようとするが、それをエリーが制する。
 そしてヒナタの手に自分のそれを重ねながら、エリーは悲しそうに瞳を揺るがせた。
「サクヤの気持ちはよく分かったわ。私が信じられないのなら、もういい。もう、何も言わない」
「エリーさん……」
「私は、私を信じてくれる人と一緒に行く。だからあなたは自分の信じる道を進んだらいい。それでいいでしょ、サクヤ?」
「ああ、それでいい」
「うん、そうするね。行こう、ヒナタ」
「……」
 エリーにそう促される事によって、ヒナタは乱暴にサクヤの胸倉から手を放す。
 そしてサクヤから離れた手を強く握り締めながら、ヒナタはフィッと視線を逸らした。
「魔王のいる間で無事に合流出来る事を願っています」
「ああ。オレも切にそう願うよ」
 震えるヒナタの声に、サクヤはぶっきらぼうにそう返す。
 けれどもサクヤは知っている。無事に合流出来る事など叶わない。次に会う時はきっと、どちらか片方が死んでいる。
「なあ、ちょっと待てよ! こんなのおかしいって!」
 しかしそこで、これまで黙って様子を見守っていたカグラが声を上げる。
 そして別行動を取ろうとする三人を必死に引き止めた。
「こんなところで喧嘩別れしてどうするんだよ! こんなんじゃ魔王に勝てるわけないって、本当はみんな分かってんだろ!」
「そうね。でも、サクヤが信じてくれないのなら仕方がないわ」
「協力出来ないモノを、無理に協力させるわけにもいかないでしょう」
「そうかもしれないけど! でもサクヤだけが悪いみたいに言って、サクヤを仲間外れにするようなやり方も良くないだろ!」
「じゃあ、どうするって言うんですか! どっちかが折れるまで、ここで揉めるとでも言うんですか!」
「なあ、サクヤ」
 苛立ったように声を荒げるヒナタの事は、一先ず置いておく事にして。
 カグラは顔を背けたままのサクヤの手をギュッと握った。
「お前は納得出来ないかもしれないけど……、でもここは、僕達と一緒に来てくれないか?」
「カグラ、悪いがオレは……」
「何でお前が、そこまでエリーを信用出来ないのかは知らないけどさ。でも、僕はここでお前と喧嘩別れなんかしたくないんだ。最後までお前の隣で戦っていたいよ」
「カグラ……」
「頼む、最後までともに来てくれないだろうか」
「……」
 そっと視線を向ければ、必死に懇願するカグラと目が合う。
 そんな彼女の紫紺の瞳を見つめながら、サクヤは悔しそうに唇を噛み締めた。
(そんなんだから、お前は真っ先に殺されちまうんだよ!)
 仲間に対して甘いから。仲間を疑う事を知らないから。だから仲間に対して警戒心のない彼女は、三人の中で最初に殺されてしまう。
 優しいという彼女の長所は、隙を産みやすいという短所にもなり得るのだから。
(でもここでキッパリと断れないオレも、きっと人の事は言えないんだろうな)
 心の中で溜め息を吐いてから。サクヤは仕方なく首を縦に振った。
「勝手な事を言って悪かった。オレも裏口から行く」
「本当か? ありがとう、サクヤ!」
 その返事に嬉しそうに微笑むカグラに、サクヤはもう一度心の中で溜め息を吐いた。
(でも、エリーの行動パターンは分かってんだ。みすみす殺されて堪るかよ!)
 策には嵌ってやる。けど、いつものように殺されてなどやるものか。
 その決意を胸に、サクヤはいつも通り、裏口から魔王城へと侵入する事にした。

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