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第二十話 エルフの里


”コア:マリア”

”はい。マルス様”

”コア:マリア。貴方の巫女は近くにいますか?”

”最終候補者は、里に戻っております”

”急がなくても良いのですが、神託を降ろしてください”

”かしこまりました”

 マルスから、エルフの里に居る者たちに神託を降ろすように依頼が出た。

 エルフの里は、アデヴィト帝国とは直接は国境を接していない。
 しかし、帝国の複数の属国とは国境を接している。

 帝国が、神殿への圧力と同時に、エルフの里に侵攻する可能性は低い。
 しかし、マルスは、可能性の一つとして考えていた。

 マルスは、ヤスにはマルスとしての考察だと情報を伝えている。神殿に居る者たちには、セバスの考察だと伝えている。

 同時に、マリアに神託を降ろさせることで、巫女と巫女を取り巻く状況を整えてしまおうことにした。

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 エルフの里は、ヤスとリーゼが訪れて、不穏分子を排除したことで、元の状態に戻りつつあった。
 引きこもり気質なエルフが、森に引き籠った。

 外部に作っていた里は、閉鎖はしていないが、人数を大きく減らした。

 神殿に、連行されたのが大きな理由だが、アーティファクトに興味を持ち、外の世界との繋がりを断絶する里との決別を考えた者たちが、里から出て行った。エルフたちは大きく二つに分かれてしまっている。

 復活した聖樹に寄り添い森での生活を続ける者。
 因習に捕らわれる事を嫌い外に出る者。

 外部との接触を断つのはダメだと里に残る者。

 復活した聖樹は、巫女の末裔以外からも巫女を探している。

 エルフの里は、巫女が選ばれるかもしれないと大騒ぎになった。エルフの里を去った者も、外部で出会ったエルフに聖樹の復活と巫女の話をしている。エルフの村には、里を出て行った者たちの末裔が集まり始めている。

 マリアは、村からは巫女を選ばなかった。
 適性が低いこともあるが、自分(聖樹)の蔑ろにしてきた者たちの中から選ぶ気持ちにはならなかった。ラフネスは、血筋で考えれば巫女に相応しいが、本人が辞退した。里には戻ることもあるが、村をまとめる役割を担っている。

「マ、マリア様!」

 聖樹の分体が、ラフネスの所に姿を現す。
 ヤスから話を聞いているので、驚きはしているが、すぐに切り替えるくらいの経験を持ち合わせていた。

「ラフネス。巫女たちを集めて」

「え?」

「貴女と里長と一緒に、里の神殿に来て」

「はい」

 ラフネスの返答は極めて短く事務的な物だ。
 巫女たちと聖樹が言っている事から、里から村に来ている者を集めてこいという事なのだろう。

 巫女と一緒に来るようにと、ラフネスが呼ばれた。ラフネスは辞退をしているが、巫女候補から外されていない。

 ラフネスも、解っている。
 聖樹との相性を考えれば・・・。ハイ・エルフの血筋を持つ自分が相応しいことも・・・。
 しかし、ラフネスは、ヤスやリーゼと敵対した事実があり、周りが認めても、自分で自分を認められていない。ヤスとリーゼは気にしないと言っているのだが、自分がそれに甘えるのは違うと考えている。

 ラフネスは、村で修行(勉強)をしていた巫女候補の二人の少女を連れて、里に戻る。

「ラフネス様。本日は?」

「マリア様が、皆に話があると言われました」

「「え?」」

 二人の少女は、自分が巫女候補だと知らされている。他にも里にも、3人の候補がいる。

 巫女候補として、里の周りで魔物との戦闘訓練を行っている。
 村では、エルフを取り巻く情勢をしっかりと学んでいる。

 気が長いエルフ族だが、聖樹の復活と巫女の選定は、悲願だ。巫女の選定が行われることを一日千秋の思いで待っている。

 里にラフネスたちが辿り着いた時には、聖樹からマリアが里に降りてきた。
 もちろん、里に作られた神殿の中だ。

 中に入ることが許されているのは、里長とラフネスと5人の巫女候補だけだ。

 マリアが顕現したことで、皆が跪こうとするが、マリアが制した。

 里長が一歩だけ前に出て、深々と頭を下げる。

「マリア様」

”帝国が、元王国の一部に侵略を行います”

「え?」

”彼の地だけではなく、村や里にも侵攻の兆しがある”

「マリア様!」

”彼の地から援軍が来る。里長とラフネスで出迎えろ”

「はっ」「はい」

”5人の巫女は、アリア。カリア。サリア。タリア。ナリアと名乗ることを許す。氏族を興せ。氏としての呼称を許す。巫女は氏族以外からも選ぶ。特権だと考えるな”

 5人は、震えながら跪いて頭を深々と下げる。
 マリアから注がれる光が形となる。

 5色のチャームがついたイヤリングになった。
 5人はそれぞれの色を持つイヤリングを装着する。

 今度は、5人が巫女として活動を行う事になる。

”里長”

「はい」

”里長は、巫女の氏族以外から選ぶように、世襲は許さない”

「はっ」

 里長の座は、今までは世襲に近い形になっていたのを、マリアはやらない様に伝える。
 全ては、マルスの考えに沿っている。

 ラフネスは黙って話を聞いている。
 聞いているだけだが、エルフの里と村が上手く回り始めているのは実感している。

 エルフは、長命種だ。
 その為に、物事を長期的に考える”フリ”をしている。しかし、それでは、太刀打ちできない存在がいることを知った。

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「ルーサ。悪いな」

「大将。気にしないでくれ」

「エルフの里が侵攻対象になるとは考えていなかった」

「大将。そう言っても、セバス殿が情報分析をしたで、わずかだが可能性があるのだろう?」

「あぁ今までの帝国のやり方を分析した結果らしい」

「そうか・・・。でも、この戦力を送れば、大丈夫だろう」

「そうだな。10万は無理でも、1-2万程度なら、撃退ができるだろう」

「でも、いいのか?」

「ん?あぁエルフたちか?」

「そっちもだけど・・・」

 ルーサの視線の先には、嬉しそうに準備をしているカイルとイチカ。それに、子供たちが居る。
 ヤスは、マルスからの助言を受ける形で、カイルとイチカをエルフの里に送り込むことにした。

 アーティファクトの運転技術を加味すれば、負けることはないだろう。
 ルーサは、エルフの村に戦力を置いたら神殿に帰ってくる。

 エルフの里で、戦力を率いるのは、ディアス・アラニスだ。
 イワンの工房で作られた2級品の武器を大量に持たせている。

 そこに、矯正が終わったエルフたちを一緒に届ける。
 全員が、神殿の共有奴隷になっている。塹壕を作り、陣地を作り、戦場を特定させることで、アーティファクトの運用が有利に進められる。

「イチカ!カイル!」

「はい!」「なに?」

「カイル。”なに?”ではなくて、しっかりと返事をしろ」

「あっ!”はい”ヤス様」

「ははは。イチカ。気にしなくていい。カイルもイチカも無理は絶対にするな。お前たちの役割は解っているな?」

「「はい!」」

 ヤスが、罰として科した命令だ。

 ヤスが二人に命じたのは、ルーサの手助けを行うこと。
 子供たちをエルフの里に届けて、向こうでエルフ族に渡すイワン製の武器の訓練を行うこと。
 そして、帝国の侵攻が始まった場合に、全員で戻ってくること。

 この3点だ。
 イチカとカイルと子供たちは、戦闘には参加しない。
 巻き込まれることも考えられるので、アーティファクトを使った戦闘は許可をだしている。しかし、逃げるように言っている。怪我も許さない。戦闘行為に及ぶのなら完封して来いと命令している。

「ルーサ。頼む。無理はしなくていい。エルフの里も大事だけど、お前たちの命と比べられるものではない。いいか、必ず帰ってこい。これは命令だ。死んだら許さない」

「大将!死んだら、許さないもないと思うぞ?」

「そう思うか?俺なら、神殿の力を使って、ルーサをアンデッドで蘇らせる。そのまま、使役して使いつぶしてやる」

「ひでぇ」

「嫌なら、死ぬな。帰ってこい」

「わかった」

 ヤスとルーサのやり取りを聞いて、イチカとカイルと子供たちは笑い声をあげる。
 エルフたちは、表情を硬くしている。ヤスの言葉が冗談ではないことを知っている。

 ルーサもカイルもイチカも冗談だとは思っていない。
 思っていないが、死ぬつもりはない。生きて帰ってきて、ヤスに褒めてもらうことしか考えていない。

 ルーサが運搬するトラックに押し込まれる形になるエルフたち。
 イチカとカイルは、モンキーで移動を行う。子供たちは、ランドルフが運転するバスにディアス・アラニスと一緒に乗り込む。

 西門から皆が出て行った。

 バスが西門を出てからも、ヤスは暫くの間、見送っていた。

 横には、リーゼが立って、同じ方向を見ていた。

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