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【六】都市アーカルネへ




 都市アーカルネの街路を、大通りを目指して歩く。

「俺は依頼の達成を知らせなきゃだし、そのまま今日は冒険者ギルドに宿を取ろうと思ってるんだ」

 俺が告げると、フォードも大きく頷いた。

「色々あったし、まだ他に予約も入れてないから、俺も冒険者ギルドに宿を取るつもりだ。一緒に行こう! ロイさんはどうす――……あれ?」

 その時フォードが言いかけてから、きょろきょろと視線を彷徨わせた。その声に、俺もロイがいたはずの右隣を見て驚いた。ロイの姿が無かったからだ。

「ロイ? あれ? どこにいったんだ?」

 俺もきょろきょろとした。
 しかしどこにも姿はない。まぁロイも多分この都市を目指していたのだろうし、自分の用件を済ませに行ったのだろうか。ロイと俺は、同じ永久ダンジョンにいたから、お互いのレベルが999だと理解出来るが、それを超えてロイが実力的に強いというのを今回俺は助けてもらって目にしたし、身の危険という意味では、特に不安は感じない。ただ、どこかに行くのなら、お別れの言葉を伝えたかったというのはある。

 でもロイは、俺が窮地になったら、また助けに駆けつけてくれると話していた。
 連絡を取る手段がないけれど、きっとまた会えると、そんな風に考える。
 今回は偶然遭遇したのかもしれないが、ダンジョンでもロイは、俺の気配が分かると話していたから、なんらかの位置特定魔術のようなものを使える可能性もある。

「ロイさんは、まぁ一人でも大丈夫そうだし……とりあえず行くか!」

 フォードが気を取り直すようにそう言ったので、俺は頷いた。こうして俺達は、二人でこの都市の冒険者ギルドへと向かった。木の看板が出ていて、半地下へと続く階段を下りていくと、木製の扉があった。フォードが先にそれを開く。

 受付のカウンターには、長い銀髪をしばり、横に垂らしている青年がいた。
 まっすぐにそちらへとフォードが向かう。俺もあとに続いた。

「宿を二部屋とりたいんだけど。俺と、こっちのジークで、それぞれ一部屋!」
「空いていますよ。こちらが鍵です」

 微笑した受付の青年が、鍵をくれた。俺はそれを受け取ってから、依頼書をカウンターに置く。

「あ、あの、依頼を達成したんだ。これです」
「おめでとうございます」

 それを受け取り、カウンターの青年が確認のハンコを押してくれた。すると依頼書から光りがあふれて、それらは粒子となり、俺が持っていた冒険者証に吸収された。永久ダンジョン以外は、初めての依頼。途中でロイに助けてもらったとはいえ、無事に俺は成功した。達成感でいっぱいだ。

「どうする? このあと! 俺はまずはベッドで眠りたいけど、ジークは? 先に食事にするか?」
「俺も少し休みたい」
「そうか。じゃ、夜に一緒に食べよう! 俺、護衛をしてもらったお礼がしたいから、今夜はおごる。八時くらいに、一階のそこの酒場で合流しよう!」
「ありがとう」

 俺は両頬を持ち上げた。こうして俺達は、階段を上り、それぞれ二階の部屋へと入った。小さな一人部屋の椅子に荷物を置いてから、部屋に備え付けられている魔導シャワーを俺は浴びた。そうしていると、体から力が抜けていくような感覚になる。

「……」

 最後の山賊による襲撃は心臓に悪かったけれど、そちらよりも思い出すのは、ロイに、額にキスをされた事だった。

「俺の無事を確かめるためって言ってたけど、あの言い方だとまるでロイが俺の事を好きみたいで照れるよな……俺だってロイの事は好きだけど、ロイには深い意味はないだろうし、俺もいきなりすぎて本当に焦った」

 ぶつぶつと呟きながら、今になって俺は改めて照れて赤面してしまった。
 シャワーを浴び終えてから、俺は時計を見る。まだ昼間だ。だが、ずっと野宿をしていたから、体を休めたい。と、いうわけで俺は寝台に横になった。するとすぐに睡魔に飲まれた。

 目が覚めると八時の五分前だったから、慌てて俺は待ち合わせをしている階下へと降りた。するとそこには既にフォードの姿があって、俺を見ると手を挙げた。そちらに向かうと、フォードがメニューを広げて笑顔になった。

「きちんとした食事も本当に久しぶりだよな! 今日はおごる! 何が食べたい?」
「ええと……」

 永久ダンジョンにひきこもりであったし、孤児院にいた頃にはあまり店では食べなかったから、実を言えば俺は外食経験が非常に少ない。メニューを見ても、どれがどのような料理なのか、あまりピンとは来ない。前回の都市でも、食堂から出てきたおすすめのものやセットを食べていた。

「……フォードのおすすめを頼んでくれ」
「おっけー! まかせろ! すみませーん!」

 フォードが給仕の人を呼んだ。こうして、俺達の夕食が始まった。揚げたジャガイモと焼いたベーコン、ラザニアなどなど、いくつかの料理が大皿で運ばれてくる。俺とフォードは、ずっと旅の記憶を話していた。そして料理が届いてから、フォードが言った。

「だけど山賊には本当にびっくりした。俺もジークも無事で、本当良かったよな。ロイさんって人、ものすごく強かったし」
「ああ。ロイのおかげだな」
「最後は、な。ただここまでこられたのは、ジークのおかげだ! それとさっき受付に、山賊を竜巻で王都の方に吹き飛ばしたからって、騎士団に連絡を入れてくれるように頼んでおいた!」

 そういえば確かに事前に連絡をしておかなければ、騎士団も対処ができないだろうと俺は自分がそこまで考えていなかった事を理解した。俺にとって犯罪者とは、騎士団に引き渡すという一般的な常識しかなかったから、焦っていてそう口にしたのだったりする。

「今日はどんどん食べてくれ」
「ああ、有難う」
「ジークは明日からはどうするんだ?」
「また新しい依頼をみつけて、自分なりに冒険者として頑張ろうと思ってる」
「そっかぁ。ジークにならやれる! 俺は、一週間くらいはアーカルネにいるから、宿がここならまた食事をしないか?」
「うん。フォードに時間があったら、また」
「俺は、アーカルネの鍛冶屋さんに用事があって、前に注文した剣を受け取りにきたんだ。それでアーカルネには、試し斬りが出来る剣士用の鍛錬場があるから、そこで練習するつもり! 一週間くらいそうしたら、俺はどうしようかなぁ。俺も依頼を受けたいのが本音なんだよなぁ」

 料理を口に運びながら、フォードが笑う。

「ただ、鍛錬したとしても、まだまだ俺には単独での依頼の達成は厳しいから、簡単な依頼から頑張る事にする」
「そうか。俺も頑張る。とりあえず少しの間は休みたいから、俺も一週間くらいはここにいるかもしれない」
「お! じゃあ一緒に鍛錬場にくるか?」
「剣士のなんだろう?」
「他の職も歓迎だっていうし、魔術の腕前は確かだから、少し剣――というか、対人戦というか、護身術みたいなものも勉強してみたらどうかと思って。魔物相手には最強だけど、人間相手が苦手そうだと俺は思ったぞ」
「そ、それは……うん。正直俺は、人と戦うって思ってなくて……確かにそれ、いいかもしれないな」

 俺は頷いた。フォードのいう事はもっともだ。

「じゃあ俺は明日は剣を受け取りに行くから、明後日一緒に行ってみよう!」

 フォードが大きく頷いた。
 その後は雑談に切り替わり、俺とフォードは沢山の料理を楽しんだ。



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