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【四】今後の方向性

 結局その日は起きられなかったので、俺は夕方になってなんとか階下の受付に行き、宿の延長を頼んだ。そしてまっすぐ部屋に帰って寝なおした。横になるという事が、こんなにも気持ちがいいというのを、俺は忘れていた。毛布を抱きしめて、次の朝まで眠っていた。そして起床後、身支度を整えてから、空腹を覚えたので、一階にある酒場兼食堂で朝食をとる事にした。

 階段を降りていき、一階の床を踏んでから、俺は厨房が見えるカウンターへと向かった。そして椅子を引き、給仕の青年に朝食を頼む。少しの間待っていると、硬いパンとコーンスープ、レタスとチーズのサラダ、ハムエッグが出てきた。見ているだけで、お腹が鳴る。こうして俺の、十一年ぶりの食事が始まった。一昨日から空腹だったけれど、眠気が勝っていたせいで、食べていなかったのだ。いずれの料理も美味で、俺の胃は別段驚くこともなく料理を受け入れ、舌では味わって純粋に美味しいと感じた。

 完食し、支払いをしてから、俺は皿を返して立ち上がった。
 ――これからどうしよう?
 食べる事や寝る事に夢中だったから、まだ何も考えていない。周囲のテーブルには、他の冒険者や依頼主達が陣取っている。人は大勢いるけれど、その中に顔見知りがいるわけでもないから、俺は少しだけ寂しく不安に思った。だが頭(かぶり)を振って、そんな思考を打ち消す。前向きに頑張ろう。そうでなければ、ロイに次にあった時、合わせる顔がない。そんな事を想いつつ正面を見ると、依頼書が貼り付けられたクエストボードが視界に入った。

 俺は永久ダンジョンのおかげで、王国の通貨や物質的な資産も十分ある。
 依頼を受けて稼ぐ必要はないし、レベルやランクも最高値であるから、それらを上げる必要もない。だが、俺は人生の仕事として、職は魔術師だが、生業は冒険者としたい。他にやる事が思いつかない。

「依頼をこなしながら旅をしてみるのもいいなぁ」

 思わずそう呟いて、俺は依頼書に歩み寄った。そこには、SSS・SS・S・A・B・C・D・Eの依頼が並んでいる。冒険者の一番下のランクがEだ。Eは基本的に、冒険者になりたての一般人という状態だ。依頼の内容は草むしりが圧倒的に多い。これを受諾してもよいが、俺はもう少し難易度が高くても問題ないかと考えて、DとCを見た。するとCに、『剣士の護衛(魔術師急募)』という依頼を見つけた。詳細を見ていくと、隣の都市アーカルネまで旅をする予定の剣士が、道中の魔物に襲われるのが不安であるから、己は剣士なので、護衛として後衛をになってくれる魔術師を募集しているという内容だった。

 アーカルネまでは、徒歩で五日かかると書いてある。途中で何度か、野宿をするようだ。そして道中には、確認されている魔物として、レベル1のスライムが出現すると書いてある。これならば……ダンジョンで俺はスライムを倒した経験があるし、なにより魔術師だから条件にも一致しているし、いいのではないかと考えた。依頼主の名前を確認すると、フォードと書いてあった。俺はその依頼書を壁から手に取り、冒険者ギルドの受付へと向かう。するとそこにいたギルドマスター――一昨日は宿の手配の時にお世話になった老人が、パイプを置いて、俺を見た。

「なんの依頼だい?」
「あの、Cランクの護衛を……」
「見ない顔だが、新人か?」
「依頼はこれで二つ目です」

 永久ダンジョンの各階は一個と数えられるが、種類としては、それ以外の初めての二つ目となる。勇者パーティ時代にもみんなで引き受ける事があったが、当時の俺は何もできなかったのだから、そちらはカウントしない。

「そうか。Cランクは受けられる状態なのか?」
「はい」
「よし。では許可する。アーカルネに到着したら、あちらのギルドに達成報告をしてくれ」

 ギルドマスターはそう述べると、緑色のハンコを依頼書に押した。するとそこから光りが溢れて、俺の冒険者証に吸い込まれていった。これで、達成すればカードに記録されるようになった。なおレベルやランクは、【鑑定】というスキルがなければ他者のものは基本的に見えない。大陸ギルド連盟の倉庫にある石板には、全冒険者の記録が残っているというが、それを閲覧できるのは、連盟の五長老だけらしい。

「依頼主のフォードなら、酒場の奥の窓際の席にいる。声をかけてやってくれ」

 その声に頷いて、俺は酒場兼食堂のフロアへと振り返った。
 そして観葉植物が飾られている最奥の窓のわき、テーブル席に一人で座っている青年をみつけた。歩み寄り、俺は尋ねた。

「フォードか?」
「おう。お前は?」

 そこにいたのは、二十代半ばくらいの青年で、金色の髪に緑色の瞳をしている。少々釣り目だ。

「俺はジーク。今回、フォードからの依頼を引き受けた冒険者で、職は魔術師だ」
「おお! それは助かる。じゃあ午後にでも早速旅立ちたい。必要物は、午前中に整えてくれ。二時にギルドの扉の前で待ち合わせをしよう!」

 明るい声音のフォードに向かい、俺は頷いた。
 こうして一度別れる事になり、俺はそのままの足で、ギルド銀行受付に向かい、通貨を払い戻した。それを財布に入れてから、ギルドを出る。

「旅に必要なもの、か」

 勇者一行の中にいた時は、俺はそういった部分にも携わらせてはもらえなかった。大切なことの決定権は、俺にはなかった。そのため、旅に何が必要なのかを咄嗟には思いつかない。

「うーん。ランプ、マッチ、あとは食料? 毛布?」

 いずれも永久ダンジョンにおいて、討伐報酬で入手したものが、空間魔術で呼び出せる倉庫の中身にある。空間魔術は、指定された場所から、アイテムを移動する魔術なども含まれている。

「買う必要はないな。都度取り出せばいいし。テントもあるし、永久ダンジョンは本当に階層が多かっただけあって、なんでもあるなぁ」

 そう呟いてから、俺は少し歩くことにした。もう十一年もこの都市にいるわけだが、俺はずっとダンジョンにいたから、当然観光などしたことはない。だが今日中に護衛として旅立つのだから、次にいつ来られるかもわからないと思い、大通りを歩く事にした次第だ。

 大通りには道化師に扮している顔を白く塗った商人がいて、シャボン玉を沢山吹き出していた。その隣には、笑顔で風船を配る少年がいる。路地の左右には、クレープ屋さんやアイスクリームのお店が並んでいる。見ているだけでわくわくしながら、俺は石畳の街を見て歩いた。そうして待ち合わせの時刻まで時間をつぶし、冒険者ギルドへと戻った。すると、扉の前にはフォードが立っていた。俺と同じで、174cmくらいの身長だ。cmというのは、単位である。

「荷物全然ないけど、大丈夫か?」

 俺を見ると、大きく首を傾げて、フォードが言った。

「ああ。魔術で取り出せるから問題ない」
「なるほどな。じゃ、早速行きますか!」

 こうして、俺とフォードの旅が始まった。



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