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【四十五】夢と現実のはざまにて


「人間としての尊厳を、消してあげようかなぁ? どう思う? 春日居」
「ああ、痛めつけてやろう」

 二人が僕を見て嘲笑している。
 バシン、と。
 その時音がして、僕の背中に痛みと熱が走った。
 鞭で叩かれ、僕は体を震わせる。二度、三度と僕は叩かれた。

「――、――!」

 その内に、痛みから僕は意識が曖昧になっていった。ただ正面に、その姿を撮影していカメラがあるのだけは、漠然と理解していた。

 ――その後、我に返ったというのが、正しいのかは分からないが、気づくと僕は虚ろな瞳を揺らしていた。力の入らない体で、僕は椅子に座らせられている。胴体を拘束され、後ろ手に縛られているが、きっとそうされていなくても、僕は動くことがもうできない。

 思考が曖昧で、意識も曖昧で、自分が夢を見ているのか、現実を見ているのかも、よくわからない。僕は、どのくらいの間ここにいるのだろう。時間の感覚なんてとうになかったし、体の感覚すら乖離している気がした。

 床を踏むかかとの音がし、僕が顔を上げると、春日居さんが立っていた。
 電動ノコギリの音がする。
 ゆるゆると視線を向ければ、スイッチが入っていた。十六夜さんの姿はない。
 代わりに僕は、部屋中に飾られている生首を視界に捉えた。

「さて、仕上げだな。朝倉くんの首をプレゼントしたら、山縣はどんな反応をするのか。実に楽しみだ。君をいたぶった動画は、既に送付済みだよ」

 春日居さんが何か言っていたが、僕の耳には入らない。喋っているのは分かるけれど、聴覚がもう言葉を拾わない。僕はただ、ぼんやりと、生首達を眺めていた。

 その内に、一瞬だけ意識が戻り、凍り付いた。

「あ」

 その一角に、猫の生首があったからだ。
 それは、僕と山縣の愛猫だった。

「ああああああ!」

 僕は泣きながら絶叫した。

 電動ノコギリが振り上げられる。

 僕も、死ぬのか。
 きっと僕の首を見たら、山縣は肉の塊だというのだろう。

 でも、猫の首を見たら、山縣は泣いてしまう気がした。
 あんなにも、可愛がっていたのだから。

「半分くらい、顔の皮膚をはがすのもいいな。綺麗なその顔、焼くのもいいか」

 刃が近づいてくる。

 ――轟音がして、扉が破壊されたのは、その時のことだった。
 直後銃声がした。
 僕の目の前で、春日居さんの体が傾く。

「朝倉!」

 直後、僕は抱きしめられていた。僕の体に腕を回し、山縣が拘束を解いてくれる。僕は山縣の腕の中に倒れこみ、震えている山縣を見た。山縣がこんな風に、怯えたような顔で、泣きそうになって震えているなんて、そんなのはありえないから、やはりこれは、夢なのだろう。

 そのまま僕は、意識を手放した。

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