【三十】最初の事件
この日向かった、僕にとっての最初の事件の現場には、他に二名のSランク探偵の姿があった。
片方は、Sランク探偵兼助手でもある。Sランク探偵の名前は、春日居孝嗣、その助手兼同じくSランク探偵なのが、十六夜紫苑だった。
時に、探偵才能児でありながら、助手適正も非常に高い人間が存在する。
その場合、多くは一人でも困らないのだというが、探偵もしくは助手として、どちらかを専業にし、運命の相手を見つけて絆を構築する事も多い様子だ。
たとえば山縣の両親も、お互いがSランクの探偵であるが、それぞれ助手としての才能もあるため、元々は二人で互いを支えあい、最終的に結ばれたと、高等部の授業で、探偵史の一環として耳にした事がある。
その息子である山縣の場合は、助手の才能はないが、助手が不在でも完ぺきにこなす才能があるようだというのは、僕も現在理解してはいる。
本日ここにいるSランク探偵と、その兼助手の二人は、二十四歳だと聞いた。
僕から見ると大人だった。
こうして国内に五人いるSランク探偵の内、山縣を含めて三人がここにそろった。ここに不在の残りの二名は、山縣の両親であるが、この二人は現在山縣に主に事件を任せていると聞いたことがある。理由は、二人が経営している山階学園において、探偵の才能を伸ばし、後進を育成する事に注力しているかららしい。
なお本日は連続猟奇殺人事件の捜査である。
必ず爪や歯を抜かれ、指紋が削られており、衣類や持ち物も見当たらないため、DNA鑑定などから被害者を一人ずつ特定しているそうだったが、難航しているご遺体もあるとの事だった。僕はまだ、本物のご遺体を目にした事はない。本日も、ブルーシートの向こうにあると聞き、まだこちらからは見えないから、僅かに怯えていた。
到着してすぐに、山縣は嘆息してから、立っていた青波悠斗という警視を見た。
「犯人は、そこにいるだろ」
僕は驚いた。資料すら見ていないのに、山縣がまっすぐに、一人の警察関係者を見据えたからだ。
突然視線が集中したその鑑識の人物は、顔を歪めてから、真っ青になった。
なにも言わずに、青波警視が捕らえる。
「事件は終わりだ。帰るぞ」
「……うん」
僕が出る幕なんて、どこにもなかった。