【二十七】無価値な僕の肉じゃが
すると浴室から戻ってきた山縣が、片目を眇めて、僕を睨みつけた。
「まだいたのか」
「っあ、あの……夕食の用意をしたから、よかったら」
「これは?」
「肉じゃがだけど……」
「朝倉財閥では思いのほか庶民的な食生活を送っているらしいな」
「え? なんで僕の実家を知ってるの?」
「迂闊な口だな。推測しただけだ。俺は口が迂闊な助手など、それこそお断りだ。仕事に支障しか生まれない」
「……っ」
「まぁ料理に罪はない。わけろ」
その声に、僕はおずおずと頷いて、肉じゃがを皿に盛りつけて、リビングのテーブルの上へと運んだ。他には白米とみそ汁、きんぴらごぼうとほうれんそうのお浸しを用意した。
それらを見ると、山縣が嫌そうな顔をした。
「家庭料理なんて食べたことはないが、いかにも不味そうだな」
「……そ、その……味は悪くないと思うよ?」
「思う? 思うという言葉も俺は嫌いだ。断定しろ」
「僕は美味しいと思ってる!」
「そうか」
無表情のままで手を合わせ、山縣が箸を手にした。
そして一口食べると、箸を置いた。
「食べる気が起きない」
「不味かった……?」
僕がおろおろしながら問いかけると、シラっとした顔をして、山縣が立ち上がった。そして無言で、キッチンへと向かう。
――一時間後。
僕が冷めた肉じゃがを見ていると、山縣が皿を持って戻ってきた。
僕は目を見開く。
そこには輝くようなラムのステーキが盛り付けられた皿があって、テーブルの上には隙のない料理が並んでいく。ありがちな感想かもしれないが、お店で出てくるような品で、盛り付けまで完璧だった。山縣は僕より前からこの家で暮らしていた様子で、ラムラックが冷やしてあるのは僕も確認していた。ニンニクやローズマリーなどで漬け込んでいたらしい。バルサミコ酢とバター醤油のよい香りが漂ってくる。つけあわせのキャロット・ラぺも目を惹く。
「料理が出来るというのならば、せめてこのくらいは作れ」
「……ごめん」
クオリティが違うのは、明らかだった。
確かにこれでは、僕の肉じゃがなど無価値だろう。