【十八】ミステリーツアーのお知らせ ―― 憧れ ――
そうしていると、封筒の中に、他にもなにか入っている事に気が付いた。
それを手に取ってみる。
『ミステリーツアーのお知らせ。探偵スキルの向上を目的とした、陸の孤島の洋館で行われる推理合戦への招待状です。七月二十日、フェリーで出航します。チケットを同封しましたので、ご確認ください』
と、書かれていた。そして、船のチケットが二枚入っていた。
「山縣、これ、こ、これ!」
「あ?」
「選ばれたBランク以上の探偵と助手だけが参加できるって噂の、ミステリーツアーのチケット!」
「怠ぃ。行かん」
「えっ」
それを聞いて、僕は目を見開き、泣きそうになった。
多くの探偵と助手は、一度でいいから行ってみたいと感じるだろう、夢のイベントだ。探偵機構が開催するミステリーツアーは、人々の憧れの的であるし、僕だって行ってみたい。
「……」
しょんぼりしてしまったら、目が潤んできた。
「お、おい? そんなに行きてぇのか?」
「……うん。でも、山縣が嫌なら断るよ。探偵が参加しなきゃ、助手には権利がないからね……」
思わず小声で述べてから、僕は俯いた。涙ぐんでいる姿を見られたくなかったというのが大きい。
「っ、あーもう。分かったよ、行けばいいんだろ?」
「!」
すると急に、山縣が折れた。驚いて僕は顔を上げる。
普段僕が何を言ってもこんな対応はない。
山縣はやりたくないからといって、事件を解決しないように、家事もなにもかもしないのだから。
「でも行くだけだからな。推理なんかしない。ちょっとたまには旅行もいいかな、って思っただけで、別にお前のためでもないからな」
「あ、ありがとう! 参加するって返事をするね」
嬉しさのあまり、僕の声は上ずった。
「……はぁ。本当、仕方ねぇな。ってか、腹減ったな。飯は?」
「準備はできてるよ」
僕は今度は、満面の笑みを浮かべた。
すると片目だけを細くした山縣が、小さく頷いた。
本日の朝食は、西京焼きと用意しておいた作り置きから数品だったのだが、山縣はいつもよりは呆れたような顔をしつつ完食し、その間もちらちらと僕を見ていた。僕が行きたがっていた事に気づいていたのだろうと悟り、なんだか気恥ずかしくて、僕は知らんぷりをしたものである。