【十七】探偵機構日本支部からの手紙 ―― 探偵ランキングの更新 ――
青波警視正が来てから、二週間が経過した。
七月に入り、梅雨明けした。
テレビの報道では、梅雨明けをお天気キャスターがにこやかに告げているほか、ここのところ、連日、連続放火事件のニュースがトップを飾っている。
小学生の犯行ということもあり、実名は公表されていないが、映し出された家屋や状況から、僕にはすぐに先日の事件だと分かった。
しかしメディアが山縣を囲む事はない。
探偵の氏名は、探偵自身が、公開・非公開を選ぶ事ができる。山縣は、氏名を公表しなかった。
別段有名人になってほしいというわけではないから、僕はその選択は別にいいと思っている。
ただ、ちょっとだけ残念ではある。山縣の才能の片鱗を、初めて目にしたからだ。
「……」
僕はテレビを消した。
そして立ち上がり、キッチンへと向かう。昼食の用意をするためだ。
山縣は二度寝すると述べて、朝食後に部屋へ行ったっきり出てこない。
本日のメニューは、パエリアを予定している。
「山縣は、称賛を浴びるとか、目立ちたいとか、そういう欲求はないのかな」
ぽつりと呟いてから、僕は料理をした。
それが落ち着いたので、紅茶を淹れてリビングへと戻る。するとポストに何かが投函された音がしたから、僕はエントランスの方を見た。立ち上がって見に行くと、白い封筒が入っていた。
宛名は山縣宛で、裏返すと赤紫のシーリングスタンプがあった。これは世界探偵機構の日本支部のものだ。
目を見開いた僕は、慌てて山縣の部屋へと向かう。
「山縣!」
「うるせぇな、なんだよ?」
二度寝すると話していた山縣だが、寝台に寝転んでスマホを弄っていた。
きっとまた、ゲームだろう。
山縣のスマホ代の九割は、ゲームへの課金代金だと、支払いをしている僕は知っている。実際にお金を出してくれているのは、僕の実家だが……。
一応僕も、僕の名義の会社をいくつか貰っているので、そこの収入といえばそうなのだが、名前ばかりだ。
「探偵機構から手紙が着てる。すぐに開封して」
「……そんなのどうでもいいだろ」
「よくないよ。中身が気になる。僕があけてもいい?」
「好きにしろ」
一応山縣から同意をもらったので、僕はその場で、手紙の端を切った。
自室に戻ってペーパーナイフを手にする心的余裕がない。
緊張しながら中身を見て、僕は思わず破顔した。
「やった……やったよ、山縣! 探偵ランキングが、一気にBになったよ! ポイントもすごい。ポイントの特典で、カニが届くって!」
「カニ? そんなもん、この前お前の実家からも届いただろ」
「でも、山縣の働きで食材が届くなんて始めてだ。僕、嬉しくて泣きそうだよ」
「……」
僕が喜ぶ前で、山縣が半眼になった。
しかし嬉しさが極まって、僕は満面の笑みを浮かべた。
本気で感涙しそうである。