【十五】連続放火事件の即時解決 ―― 優先順位はすき焼き ――
僕は、山縣に捜査依頼をする警察官が存在する事にも驚いたが、山縣が事件を過去に解決した実績がある事にも驚いたし、犯人を見つけられるそうだという話にも唖然とした。
山縣が、本当に……?
山縣は捜査資料の分厚いファイルをパラパラとめくった。読んでいるようには見えない。仮に読めていたとすれば、速読だ。
続いてそれをテーブルに放り投げてから、山縣はタブレットを手にした。助手には閲覧権限があるので、僕はファイルに手を伸ばす。
その正面で、青波警視正はカップを持ち上げた。チラリとそちらを見て目が合うと、優しい顔で笑われた。明るく快活な印象を受けながら、僕はファイルを見る。
連続放火事件の概要が書かれていた。一軒目のあとで、連続して二軒目と三軒目、そして最新の事件で七軒目らしい。共通点は、各家の子供が、全員同じ小学校に通っている事と書かれている。
テーブルの上には、各被害者宅の全員の写真が並べられている。
「このガキだ」
山縣はタブレットを置くと同時に、最初の被害者宅の三男である小学生の写真を、指先でコツコツと叩いた。
「ありがとう」
両頬を持ち上げた青波警視正は、それから資料をしまい始めた。
何故、とも、理由は、とも、根拠は、とも、尋ねない。
本来優れた探偵才能児とは、そういう扱いを受ける存在だ。見れば犯人が分かるし、事件の全容も即座に把握できる。そこに間違いはない。
よって証拠固めや警察の仕事となるのだが……優れたと評されるような探偵才能児は少数であるから、多くの場合は、理由を問われる。
しかし青波警視正がそうする事はなく、当然のように鞄に全てをしまい、彼は立ち上がった。
「助かったよ。じゃあな、二人とも。珈琲、ごちそうさま」
朗らかにそういうと、青波警視正は帰っていった。
僕はポカンとしていた。
「朝倉」
「な、なに? え? 山縣……君って、本当に探偵才能児だったとして、え? レベルは?」
探偵才能児には、レベルがある。探偵ランキングにも探偵ポイントにも左右されない、生まれながらの資質だ。助手レベルと似たくくりである。
「どうでもいいだろ。それより腹が減った。今日の夕飯はなんだ?」
「すき焼きの予定だけど……」
「おお、いいな。早く食べたい、作ってくれ」
「うん? 待って、状況を説明して。青波警視正とは元々知り合いだったの?」
「ちょっとな」
「ちょっとって何? 詳しく話して」
「やだね。それより腹が減ったって言ってんだろ」
「……山縣。ねぇ、お願いだから教えてよ。僕は君の助手なんだよ?」
「俺の中では、話す事よりも、すき焼きの方が優先順位が明確に高い。早くしろ」
結局山縣は僕には教えてくれなかった。