【十】探偵才能児 ―― 山縣のプロフィール ――
「山縣って、まさかとは思うけど、探偵才能児だったの?」
「……」
窓の外を眺めている山縣は、何も言わない。
だが驚いた僕は、思わず車を停車させた。
「えっ、そうなの?」
「だったらなんだよ?」
探偵才能児は、日本には約三百人しかいないとされている。
世界でも珍しい存在だ。
そして国内の探偵才能児のランクは、基本的にB以上だと聞いている。
ごくまれに、怪我や病気により探偵業が出来ない時は、一時的に下位のランクになる場合もあるが、それは例外だ。だが、山縣の探偵ランクは最下位のEだ。
「もしそうなら……」
探偵としての才能や能力を伸ばすために補佐するのは、助手の仕事の一つだ。
山縣がこのように低ランクなのは、僕の力不足といえる。
困惑しながら僕は山縣を見た。
すると山縣がチラリと僕へと視線を流した。
「俺は危ない仕事をする気はない。今のままでいい。生きていければそれでいいんだよ」
「で、でも……ねぇ、探偵才能児としての探偵知能指数はいくつだったの?」
探偵知能指数はほぼ一般人であっても持っている事はあるが、こと探偵才能児にかぎってはずば抜けている。それが探偵才能児の、探偵才能児たるゆえんだ。
「どうでもいいだろ。お前には関係ない」
「関係なくないだろ? 僕は山縣の助手なんだよ? 正確に把握しておきたい。ねぇ、いつ探偵才能児だと判明したの? それくらいは教えてくれない?」
今年の四月に顔を合わせて、一緒に暮らすようになって、もう二ヶ月だ。
現在は六月、梅雨の季節で、車窓からは公園に咲き誇る紫陽花が見える。
だがこの二ヶ月というもの、山縣は僕に何一つプライベートについては教えてくれなかった。唯一、四月の半ばに『コンビニのバイトをやめてきた』といった話だけが、僕の持つ山縣の職歴に関する知識だ。
「三歳だ」
「えっ、そ、それって、最初の検査で、って事?」
「まぁな」
「すごい……な、なのに、なんで今はこんな風になっちゃったの?」
「こんな風? どういう意味だ?」
「依頼や事件に、全然興味がないじゃないか。一般的に、三歳で検査を受けるとすれば、何か事件を解決して、小学校入学前の一斉検査より前段階で測定された場合だろ? 探偵才能児は、直感で推理できるほかに、事件に興味を持たずにはいられない特性があるはずだよ? なのに、なんで山縣は、今、なんの事件にも興味が無くなっちゃったの?」
僕が切実な声を上げると、山縣が呆れたような顔で、大きく吐息した。