【十一】危険な事件とハンバーグ ―― 無価値ではない ――
呆れているのは僕の方だ。
「事件、特に刑事事件っていうのは、危険がつきものだろ。俺が行けば、朝倉も行く。要するに、俺はともかく朝倉にも危険が迫る。分かってんのか?」
山縣がつらつらと述べた。
「そりゃあ僕は助手だからね。山縣が危険な事件に臨むなら、僕も行くよ」
「嫌なんだよ。朝倉が危険な目に遭うのが」
「はぁ? 僕の事を想ってるって言いたいの? だったら逆だ。事件を解決してくれ。僕は活躍しろとまではいわないけど、山縣がきちんと探偵をしている姿が見たいし、今のハウスキーパー状態の自分ほど悲しいものはないよ」
僕が断言すると、山縣が腕を組んだ。
「そんなに俺に事件を解決してほしいのか?」
「当然だろ! 助手は、探偵が推理して事件を解決した時に、充足感を感じるんだからね。だから探偵のそばにいてしまうんだよ。なのにそれもないのに、山縣の横にいるなんてさ、一方的に運命とされはしたけど、意義が分からない」
「……朝倉。お前は、何もなければ、俺のそばにはいてくれないって事か?」
「いる必要がないからね」
「つまり俺が探偵でなければ、お前にとって、俺は無価値という事か?」
「えっ……い、いや、そこまでは言ってないけどさ……」
山縣は無表情だったが、僕は困惑して口ごもった。
だが、山縣が探偵でなければ、そして僕が助手でなければ、僕達は一緒にいる必要はなし、そもそも出会う事も無かっただろう。
「……とりあえず、帰ろうか」
「今日はお前のハンバーグが食べたい」
「はいはい。途中でスーパーによるよ」
こうして僕は、再び車を発進させた。
行き先は、近所のショッピングモールだ。
二人で車から降りて、ショッピングカートにかごをのせる。山縣と一緒にくると、結構余計な品を買わせられるのだが、僕はついつい許してしまう。本日も、僕がハンバーグの材料のほか、冷蔵庫に補充しておきたい必要なものを購入する横で、山縣はポテトチップスやチョコレートといった菓子類をカゴに放り込んできた。
溜息をつきながら有料のレジ袋にそれらを入れて一息ついていると、山縣がひょいとそれを持ち上げた。
「ありがとう」
山縣はこういった、運ぶような気遣いはちょくちょくしてくれる。こういう部分が、きっと根は優しいのだろうと思わせるから、非常にずるいと僕は思う。
その後帰宅し、僕はハンバーグ作りにとりかかった。本日は、目玉焼きを上にのせる予定だ。ひき肉を処理してから、空気を抜きつつ成型する。ソースの用意を終えた後、僕はフライパンを見た。そうして真ん中をくぼませたハンバーグを焼いて、酒でフランぺする。こうして蒸し焼きにしてから、一息ついた。醤油やお酢、野菜や果物でつくったソースをかけて、生クリームで彩ってから、僕はその上に目玉焼きをのせた。付け合わせは、揚げたポテトと甘く煮たニンジン、いんげん、そして別の皿にはレタスとチーズとコーンのサラダを用意した。僕はパンで食べるよりも、ライスの方がハンバーグの時は好きだ。
僕が料理をする間、リビングのソファに座った山縣は、ずっとスマホを見ていた。どうせまた、ゲームだろう。
「山縣、できたよ」
「今いいところだから、ちょっと待ってくれ」
「冷めるけど?」
「お前のハンバーグは冷めても美味いだろ」
その一言に、不機嫌になりかけた僕の気分は、一瞬で浮上した。
山縣は、僕を苛立たせる才能もあるけれど、僕をふとした時に喜ばせるという、天賦の才もあるようだ。だから、憎めない。それに、無価値だなんて、思わない。
その後、二人で食事をした。
この日作ったハンバーグも、我ながら上出来だった。