4 Caseエビータ④
依頼主からの連絡はまだ来ていない。
しかし、いつ来るかわからない状態だからこそゼロ達は入念に準備を進めた。
二人のメンバーがロレンソ子爵邸に潜り込んだ。
セプトは庭師として。
キャトルはメイドとして、それぞれ情報を集める。
エビータの予想通り、彼女の夫マイケルは血眼になってエビータの行方を探していた。
マイケルがまず疑ったのは、かつて自分が手にかけた子供の家だった。
金を握らせ怪しい動きが無いかを探ったが、当然のごとく何も出ない。
通り魔的な線かもしれないと考えたマイケルは、街道沿いに巣食う破落戸を一掃した。
自らが陣頭指揮を執り、傭兵を集めて襲撃した。
リーダー格を拷問したが、エビータに関する情報は何も出てこなかった。
拷問の様子を天井裏から伺っていたキャトルは、すぐさまその情報を送った。
連絡を受け取ったゼロは確信した。
「奴はサディストサイコパスだ。自分の快楽のために遺体を発見させたんだな」
ゼロは顔をゆがめてキャトルから送られたメモを握りしめた。
「遠慮はいらないということだ。エビータ……遠慮なく使わせてもらうよ」
トワの集めてくる近隣諸国の情報によると、4か国に跨る犯罪だと断定できた。
1か国に偏らないようにしているからこそ、神隠しと言われる程度の発生頻度を保てる。
その周到さにトワは驚いていた。
「でもね、犯人たちの中で一番頭が悪いのはマイケルだね。他の国の奴らは絶対に同じ地域ではやらない。情報が届きにくいほど離れた場所を無作為に選んで攫ってるのに、マイケルは同じ地域で同じ手口だ。しかも遺体を戻している。バカなのかな」
トワの言葉にゼロが答えた。
「奴は自分の欲望に勝てないんだろう。エビータから長期間離れなくてはいけない場所には行きたくないし、子供の無残な状態を嘆き悲しむ親達を視ずにはいられないのさ」
「変態じゃん」
「ああ、紛れもない変態だな」
先日の納品を失敗したマイケルは、依頼主から酷い𠮟責を受け信頼を失っていた。
依頼主は穴埋めをするために他国の業者に連絡をとっているはずなのだが、依頼主の拠点も連絡方法も不明なため、押さえることができていなかった。
そのために、サシュがZ国の王都に潜伏しているのだ。
そんなサシュに梟と呼ばれる男からコンタクトがあった。
「珍しいな、お前から動くなんて」
「そうでもないさ。最近は何でもやるんだ。金が要るんでね」
「へぇ、それで? 何の用だ?」
「ああ、買ってもらえそうな情報を掴んでね。お前、金ある?」
「金なら何とかなるが情報の内容次第だな」
「F国で神隠しがあった。腑分けは終わっているようだ。明日当たり納品される」
「確証があるのか?」
「あるさ。見てたからな」
「お前……わかってて見てたのか」
「そうだ。見てただけ。後をつけて解体現場も確認したよ」
「マジか」
「いくら出す? 希望はこれくらいなんだけど」
そう言うと梟は左の掌を広げて見せた。
「50?」
「バカな」
「500?」
「安いだろ? 昔のよしみで格安提供だ」
「よし、1,000出そう。その代わり納品先も教えてくれ」
「毎度あり!」
梟は声だけ残して消えた。
サシュは鳥を飛ばし、ゼロに連絡を入れた。
翌日の早朝、レナが金を持って来た。
「サシュ、ちゃんとごはん食べてる?」
「ああ、心配ないよ」
「サンドイッチ作ってきたから後で食べてね」
「ああ、ありがとう。もう帰るの?」
「うん、食材を仕入れて帰る」
「気を付けて戻れよ?」
「わかった。ありがとうね、サシュも頑張って」
二人の正体を知らない人間が見たら、夫婦に見えただろう。
仕事中の夫にランチを届けに来た妻。
サシュは腰にぶら下げた手拭いで顔の汗を拭き、木陰でレナが渡した籠を開けた。
「おっ!ベーコンレタスアンドトマト!」
サシュが手を伸ばそうとしたその瞬間、籠がさっと消えた。
梟が籠を抱えてヘラッと笑って立っている。
「情報が先だ」
「もちろんだ。聞いて驚け」
梟は影同士だけがわかる方法で納品先を告げた。
サシュは目を見開き、やがてゆっくりと閉じた。
「納品は今日か?」
「ああ、今から行くか?付き合うぜ?」
「ああ」
二人はゆっくりと立ち上がり、まるで友人同士がばったり出会ったかのように喋りながら歩き出した。
「領地か?」
「いや、自宅敷地内にの別棟だ」
「大胆だな」
「潰すのか?」
「いや、まだだな」
「そうか、また情報を掴んだら連絡するよ」
「なんだ?お前暇なのか?」
「いや、ちょっと金が要るんだ。コレがコレなもんで」
そう言うと、梟は小指を立てたあと、腹が膨らんでいるジェスチャーをした。