第二十三話 【カプレカ島】メア
私の名前は、魔王様から頂いた大切な
奴隷だった私たちは、魔王様から名前だけではなく、命を含めてすべてを与えられた。だから、私たちの命は魔王様に捧げる。お目にかかったときに、私たちの覚悟を魔王様にお伝えした。でも、魔王様は笑いながら、”命は大事にしよう”と言われた。だから、私たちは皆で集まって相談した。
命を大事にする。大事な命に順番を付ける。一番は魔王様。次は、自分の命。そして同族、元奴隷たち。ルブラン様やカエデ様は、自分たちは考える必要はないとおっしゃった。だから、魔王様の御命を守るためにだけ、自分たちの命を賭けることになった。
今日は、残念なことに、魔王様の側仕えではない。ルブラン様が担当される。
「メア」
元奴隷で人族のヒアが、私を呼びに来た。そうだ、今日はヒアとカプレカ島のギルドに行くのだった。魔王様に関連するスケジュールじゃないから忘れていた。でも、ルブラン様から依頼された仕事だ。
「ヒア。先に、行って。ギルドの職員を待たせるのも悪いわ」
「え?あっうん。わかった」
ヒアは、私に構いすぎだと思う。行先は決まっているのだし、先に行って作業を始めてくれてもいいと思う。特に、今日のギルドでの仕事は、私は情報整理で、ヒアはダンジョンの情報管理だ。作業分担が違うのだから、一緒に行く意味がない。
「メイ。行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい!」
メイが元気に応えてくれる。それだけで、私は嬉しく思う。
皆で決めた順番だけど、私は魔王様の次にメイの命が大事だ。皆には言っていない私だけの覚悟だ。
そのために、私は強くならなければ・・・。
人族のヒアたちにはなんとか勝ち越しているけど、ロアや他の種族の族長には勝ち越せていない。スキルを使った戦闘でも、体力勝負でも、私はいつも2番手だ。もっと、頑張らないと!
移動部屋(命名:メイ)に向かう。
「あっカンウ様。おはようございます」
「おぉメアか!しっかり食べているか?」
カンウ様は、私の頭を少しだけ乱暴に撫でてくれる。
魔王城の四天王。武のカンウ。と、言われているけど、すごく優しい。それに、カンウ様とバチョウ様のお二人で、魔王様から渡された書物を真剣に読んでいらっしゃるのを知っている。
「はい!今日は、島に行きますので、ギルドで食べようと思っています」
「そうか、そうか、それならいい。しっかりと食べろよ」
「はい!ありがとうございます」
「今日は、ヒアと一緒か?」
「ヒアですか?はい。ギルドには居ますが作業は別です」
「そうか、それなら、伝言を頼めるか?」
「はい。ヒアに何を?」
「そうだな・・・。”次の休みの時に、森に行く。希望者を集めてくれ”で、頼む」
「わかりました」
「メアも、休みが会えば、参加してもいいからな」
「はい!わかりました。行ってきます!」
転移罠に乗ると、カプレカ島の近くに移動する。一瞬で景色が変わるのは、なかなか慣れない。メイは、喜んでいる。学校に行くにもよく使っている。
ギルドまでは、島に移動しなければならない。扉を抜けて、島に向かう通路を歩く。
島に到着すると、扉が自動的に開く。
この扉も許可がない者が通ろうとしたら、開かない。一緒に行こうとしたら出られるけど、細い通路が通過できない。魔王城に入ることができるのは、私たちだけだ。後から奴隷になり解放された人たちは、カプレカ島では制限はないが、一部の例外を除いて魔王城には入ることが許されていない。
ギルドに向かう道を歩いていると、いろいろな人に話しかけられる。
私から情報を得ようとしている人も居る。狐人の特徴で、”嘘が解る”とまでは言わないけど、騙そうとしているとか、何かを隠しているとか、なんとなく解る。先ほど、話しかけてきた商人は、帝国から来たとか言っていたけど、多分、違う。あとで、ナツメ様に報告しておこう。今日は、ギルドの担当はナツメ様のはずだ。
「ヒアちゃん!」
「あっおばちゃん。足。大丈夫?」
何日か前に、魔王様の作られたダンジョンの攻略を目指す人たちに暴力を振るわれた女性だ。
「ヒアちゃんのおかげで足の痛みも無くなったよ」
「それはよかった。あの人たちは、城塞村で罰を受けているよ」
「そうかい。ヒアちゃんたちのおかげで、私たちは安心して過ごせるよ」
「おばちゃん。違うよ。ルブラン様のおかげだよ」
「そうだね。そうだったね」
本当は、ルブラン様ではない。魔王様のお力だけど、魔王城以外では魔王=ルブラン様になっている。魔王様の御命を狙っている者たちに勘違いさせる為だ。私がもう少しだけ大人で、もう少しだけ・・・。自分の胸を見ると哀しくなる。これじゃ魔王様の閨に呼ばれないのは当たり前だ。でも、これから、これから!
おばちゃんから近況を聞くのも私の仕事だ。
まとめて、ナツメ様に報告を行う。
カプレカ島は、私たちから情報収集を行うことを目的にした者たちも入り込む。しかし、その者たちを捕えて、情報を引き出すための場所でもある。
「メア様」
ギルドで働いている人たちは、私のことを”様”付けで呼ぶ。何度も、辞めて欲しいと訴えたが効果がないので諦めている。
「おはようございます。ナツメ様は?」
「執務室にいらっしゃいます」
「ありがとうございます」
「はい。メア様。私たちに敬語は不要です」
これも、いつものやり取りだ。
ギルド職員がいうには、私はナツメ様たち四天王の側近だから、自分たちの上司でもあると言われてしまう。だから、敬語は辞めて欲しいと訴えられるが、魔王様以外は同列だとルブラン様にも言われている。その中でも、組織によっての上下は必要になる。
「あっ。メアの姉さん」
「辞めてください。アルトさん」
「いや、姉さんは、姉さんですよ。それで、今日は?」
彼らのチームが、メイとヒカに絡んできた時があった。その時に、模擬戦で叩きのめした。その後、城塞村に送り返した過去がある。
城塞村で罰を受けて、カプレカ島への再入場を許された人たちだ。メイとヒカにしっかりと謝罪をして今では模範的な人たちだけど、自分たちチームを叩きのめした私のことを、”姉さん”と呼ぶのだけは辞めてくれない。
「・・・」
「姉さん?」
「はぁ。アルトさんたちは、これからアタックですか?」
「そうです!やっと30階層を突破できたので、その先に挑戦するための準備です」
「それは、おめでとうございます」
「えぇ魔王ルブラン様には感謝しています。俺らのような半端者でも、しっかりと生活ができるのは、魔王ルブラン様のおかげですからね」
「そうですね」
「メア様。ナツメ様がお呼びです」
「おっと。メアの姉さん。俺たちは一度、城塞街に戻ります。今度、時間があるときに、また模擬戦を頼みます」
「わかりました」
「それじゃ姉さん!」
アルトさんたちとの模擬戦は、私の鍛錬にもなるし、魔王様からも推奨されている。
ルブラン様からは、魔王城の住人以外と模擬戦を行う時には、スキルを使用しないように言われている。それでも私程度でも簡単に勝てるのだから、アルトさんたちは中級よりもちょっと下くらいなのだろう。
「ナツメ様。メアです」
扉を三回叩いて。部屋から返事があって、中に入ると・・・。
書類が山になっている。
捕えた者の情報や、近隣から集められた情報が書かれた書類だ。
「メア。情報の整理を頼む」
「わかりました」
「メア。ヒアは?」
「先に、ギルドに来ていると思いますが?」
「そう・・・。バチョウの所かしら?」
「転移門の前で、カンウ様に伝言を頼まれましたので、後で探しに行きます」
「そう。その時に、私のお使いを頼もうかしら?」
「お使いですか?大丈夫です」
「あとで渡すメモにある物を揃えて欲しいの?大きい物もあるから、ヒアと協力して居住区に持って行ってもらえる?」
「わかりました。先に、情報の整理をします」
「お願い」
こうして、私の作業が始まる。
たいてい、四天王様やモミジ様。ルブラン様の頼まれごとの時には、ヒアをサポートに付けてくれる。そんなに私一人では頼りないのだろうか?もっともっと頑張らないとダメって事だよね。
ヒアが居なくても、メアだけで大丈夫だと思ってくれれば、もっと魔王様のお役に立てるはずだ。
もっと強くなって、もっといろんな知識を得て、もっともっと・・・。頑張らないと!