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第二十二話 【神聖国】ルドルフ


 帝国の東側に位置して、政教一致体制国家。

 聖王がトップとして君臨する。神聖国がある。

 その神聖国のトップが、中央都市の中央に聳え立つ白亜の城の住人。聖王ルドルフだ。

 聖王ルドルフは、自らを神の代弁者を名乗っている。

 そんな、神の代弁者である聖王ルドルフは、豪奢な神殿の最上階に作られている。自らの居住地と定めた部屋で荒れていた。

「まだ捕えられないのか!」

 ワインが並々と注がれているグラスを、目の前で頭を床に付けて恐縮している男に投げつける。
 勢いで、ワインは魔物の皮で作られた絨毯を汚す。

 グラスは、男に当たり額からワインと同じ赤い色をした液体を流しながら、破損する。

「もうしわけありません」

「回復の奇跡は、我ら神聖国にこそ相応しい。わかっているのか!」

「はい。はい。承知しております。はい」

 男は、もう回数を数えるのも馬鹿らしく思える程に、頭を床にこすりつけている。
 聖王ルドルフに、謝罪を繰り返している。

 聖王ルドルフは、足元にいる全裸の女性を蹴って心を落ち着かせようとしているが、媚びるような女の態度が余計にイライラを募らせる。

「もうよい」

「はっ」

 男は、聖王からの言葉を受けて、気が変わらないうちに、立ち上がって部屋から出ていく、連れてきた女たちは、聖王への貢物にするために、部屋に置き去りにしている。聖王も、わかっているので、何も言わない。
 女たちは絶望な表情を浮かべている。
 聖王の部屋に入った女は、薬漬けになって、壊される未来が待っている。命が助かっても、壊されて、後は最下層の慰め物になる未来しかない。

 聖王は、新しいグラスを持ってこさせて、ワインを注がせる。

 報告書を読まなくなって、何年も経っている。しかし、市井の情報は伝わってくる。

 魔王ルブランが治める地域では・・・。曰く、暑い時期でも涼しくなる魔道具が存在している。曰く、冷たい飲み物が売られている。曰く、寒い時期には部屋全体が暖かくなる魔道具が売られている。曰く、曰く、曰く・・・。

 聖王ルドルフとしては、許す事ができない事柄ばかりだ。
 特に、神聖国として許すことができないのは、”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”のスキルを得られるスクロールが、無尽蔵に放出されている事だ。神聖国の屋台骨と言ってもいい回復のスキル使いが増やされてしまっているのだ。

 魔王はスクロールを餌に、人をおびき寄せる。
 神聖国も、連合国のエルプレと同じで、ダンジョンを抱え込んでいる。神聖国は、もっと直接的に”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”のスキルが得られるスクロールを神聖国だけでしか使えないようにして提供している。

 どうやって、魔王ルブランが”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”のスクロールをドロップさせているのか解らない。
 問題は、”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”が連合国にだけではなく、王国や帝国や皇国に回ってしまっていることで、現状はまだ大きな影響は出ていないが、神聖国の優位性が崩れてしまう危険性が高い。

「いまいましい、魔王ルブランめ!」

 姿を書き記した羊皮紙を何度も見て、悪態を付いているが。
 魔王ルブランを殺すのではなく、捕えるように命令をしている。魔王ルブランの容姿は、聖王ルドルフの周りにいる女どもとは違っている。

 捕縛命令を出しているのだが、接触に成功した者さえ居ないのだ。

 表向きは、”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”は、神聖国の奇跡で、魔王ルブランが提供しているのは、神聖国から盗み出したスクロールだ。従って、神聖国に返却をするのが正しい。
 また、神聖国から盗み出したスクロールを配布している魔王ルブランは、神聖国の神の代弁者である聖王ルドルフに謝罪に来るように通達する。

 これが、魔王ルブランを捕える根拠なのだが、簡単に言えば、無理矢理理由を作っているだけで、証拠も根拠も何もない。妄想の、それも被害妄想と、魔王ルブランが欲しいという欲望だけが理由になっている。

 もちろん、魔王ルブランは完全に無視している。
 話があるのなら、そっちが来い。”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”のスクロールである。ハウスで得られるスクロールは、神聖国で使われているスキルとは違って、効果が高い。従って、別物である。それでも、神聖国としてスクロールの所有を主張するのなら、ハウスを攻略して魔王城に乗り込んでくるがいい。

 挑発とも取れるメッセージを、新生ギルド経由で返してきた。

 聖王ルドルフは、無礼極まりない新生ギルドからの返答を、握りつぶした。
 持っていたグラスだけではなく、机の上に乗っていた瓶を、全裸の女たちに投げつけている。

 ブクブクに太った身体で、肩で息をしながら、女たちを足蹴にして、髪の毛を引っ張って、顔を殴りつける。
 それでも、怒りは収まらない。
 数名の女から、鼻血だけではなく、乱暴に引っ張られた髪の毛が抜け落ちて、瓶で殴られて、腫らした顔で媚びを売るのを見て、さらに怒りが増してくる。聖王ルドルフは、ワインの封を開けるためのナイフで、女たちを刺し始める。

 数名の女が死に絶えた時に、聖王の怒りは鎮静した。

「おい」

「御前に」

「片づけろ。それから、補充しておけ」

「はっ」

 隣室にいた者が、聖王の呼びかけにすぐさま部屋に入ってくる。
 命令は簡単な物だ。死んだ女を下げさせるのと、傷ついた女を下げさせて治療しろという命令だ。治療が不可能な者は、地下の施設に放り込まれる。途中で、聖騎士や准騎士や完了の前を通り、そこで、声が掛かれば地下に落とされることはない。
 ただし、聖騎士をはじめ聖王と同じような者たちだ。飽きてしまえば、更に下の階層に送られることになるだけだ。

「誰かいるか?」

「聖王猊下。御前に」

 白い鎧に身を包んだ。偉丈夫が、聖王の前に進み出て、頭を下げる。

「そなたは?」

「はっ聖騎士3番隊のヨルゲンです」

「ヨルゲンに命じる。魔王ルブランが治める地に赴き、ハウスとやらを攻略せよ。その後、魔王ルブランを捕えて、余の前に連れてこい」

「はっ。勅命、承りました。我の心は、猊下と共に、我の命は神の物」

「さがれ、人選は、貴様に一任する。成功の後に、貴様に聖騎士隊の一つを任せるよう考慮しよう」

「有りがたき幸せ。我ヨルゲンは、猊下の為に、魔王ルブランが治めるハウスを落としてごらんに入れます」

 ヨルゲンは、聖王ルドルフに頭を深々と下げた。
 聖王ルドルフは、手に持っていたワインをヨルゲンの肩に掛ける。”神の血を纏い。神の威を示せ”と、いう意味がある行為だ。聖王ルドルフが始めた事だが、聖王が行う行為に異を唱える者は、神聖国には存在しない。

 以前は、聖王と対になる聖女が存在していたが、政争で敗れて、神聖国から逃げ出した(と、言われている)。
 聖女が逃げ出してからは、聖王ルドルフの天下となり、聖女は空席のまま忘れ去られた。

 聖王ルドルフは、300年の間。聖王の地位に付いている。

 聖王ルドルフが、魔王ルブランに怒りを覚える尾は、同じ魔王として自分の方が格下だと、ギルドから思われていることだ。産まれたばかりの魔王に、すでに500年近く神聖国を裏から、表で牛耳ってきている。そんな自分が、生まれたての魔王に負けるわけがないと考えているのだ。
 そして、前の世界では”医者”であった自分が、回復系のスキルで劣っているわけがないと慢心しているのだ。
 自ら生み出したスクロールや罠は公開していない。それなのに、同種のスクロールが他の魔王から産まれるわけがないと考えて、魔王ルブランは自分から情報やスクロールを盗んだのだと思い込んでいる。

 聖王ルドルフは、魔王ルブランの主から見て、1000年近く過去の文化水準を生きてきた魔王だ。
 十分な教養を得て居たのは間違いではないが、魔王ルブランの主が居た時代との差はどうしても生じてしまっている。

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