第二十二話 【帝国】突破
部下からの報告で、門に不可解な数字が出現して、数字が減っていると報告を受けた。
意味がわからないために、攻撃を控えるように指示を出した。
増援が向っている状態で、下手に動くのは得策ではない。
「殿下!」
5番隊の隊長と、15番隊の隊長が揃って挨拶に来た。
「よく来てくれた。援軍は、公爵からか?」
「いえ、自分たちは、陛下からの勅命を受けて来ました。7番の軟弱者が撤退を考えているようだと聞いて、殿下の戦歴のために我らを使わせたのだと理解しています」
天幕の中には、7番隊の目が居る。5番隊の隊長も、解っていて言い放ったのだろう。
15番隊の隊長は、何を考えているのかわからないが、気持ちが悪い表情は変わらない。我にさえも名乗りする上げない。
5番隊は陛下に言われてきた?そうか、陛下も第一王子の立場を尊重してくれているのだな。そうなると、15番隊が公爵か?どうせ、この気持ち悪い奴は聞いても答えないだろう。秘密主義が悪いとは言わないが、第一王子の問いかけには答えるのが礼儀だろう。
「殿下。現状の説明をお願いいたします。攻城兵器を始め攻めるための武具は持ってきています。これからの作戦は自分ヨストが担当します」
「ヨスト。貴様に任せる。ヨストに説明してやれ」
「はっ」
騎士の一人が、ヨストに現状を説明している。
「殿下。すぐに、他の出口がないか確認する必要があります」
「なぜだ?」
「数字のカウントダウンが、魔王の罠だとしたら・・・」
「そうか、逃げるための時間稼ぎか?」
「はい。15番隊を動かしましょう。出来るか?」
ヨストが、15番隊の隊長に指示を出す。同格のハズだが、15番隊の隊長は、表情を変えずに頷いた。
15番隊の隊長は、副長を呼び寄せて、耳元で何かを指示する。
「殿下。自分たちは、魔王城の周りを確認してきます」
「わかった。カウントが終わるまでには戻ってこい」
「はっ」
副長に許可を求めさせて、一緒に天幕から出ていく、本当に礼儀がなっていない。
「ハハハ。相変わらずだな」
「ヨスト。15番隊の隊長とは長いのか?」
「そうですね。自分が、奴を隊長に推薦したので長いと言えば長いですね。奴は、自分には逆らわないので、使い勝手が良いのですよ」
「逆らえない?」
「殿下、それは陛下と一部の貴族家のご当主だけが知っていることですので、殿下が戴冠してからお話をいたします」
「ハハハ。そうか、それなら、さっさと魔王を殺してしまおう。凱旋すれば、陛下もお認めになられるだろう。臣民たちにも誰が帝国を導くのが良いのか、知らしめる時が来た」
魔王城には動きがない。
ヨストから、帝都の状況を聞きながら、ワインを開ける。ヨストの指示で、前線に攻城兵器を運び込んで、魔王城への攻撃をいつでも再開できるようにする。奴隷兵も15番隊が強化して、門の前に集結させている。何か、動きがあれば、すぐに行動ができる。
「殿下。カウントダウンが何を意味するのか不明なので、数字がなくなる瞬間に、奴隷たちに攻撃をさせたいと思います」
「ヨスト。貴様に任せる」
「はっ」
ヨストが、周りの者たちに指示を出す。
カウントも、1秒毎に減っていくのがわかった。予定が立てられる。
「カウントは?」
「1400を切りました」
「殿下、自分は指示の為に、前線に向かいます」
「待て、我も行く」
「危険では?」
「魔王の罠を食い破る時に、我が居なくてどうする?」
「はっ殿下の護衛は、騎士だけでは不安なので、自分の部隊が行います」
「作戦は、貴様にまかせている。好きにしろ」
「はっ。この天幕は、貴様が死守せよ」
やはり、解っていたのか。7番の目にヨストが指示を出す。
天幕の死守と言っているが、手柄を立てるチャンスを奪う方便だろう。これで、7番隊の隊長であるティモンの更迭は決まったな。我の派閥から7番隊の隊長を送り込める。帝国の表と裏の情報も、把握が出来る。反対派閥の者だけではなく、義弟や義妹たちの・・・。いい流れだ。あとは、こしゃくな魔王を討伐すればいいだけだ。門を突破できれば、あとは奴隷兵を使い潰しながら進めばいいだけだ。
門が見える場所まで移動する。
あと、60を切ったら、攻撃を開始する。魔王が何を考えていても、帝国の最新兵器での攻撃だ。
門の中が見えなくなるくらいの激しい攻撃が始まった。
これなら、門もひとたまりもない。
「殿下!」
「開いたか!」
「はい。殿下の御威光に門が耐えられないのは、至極当然。門が開きました」
「よし、全部隊で突入だ。ヨスト。先陣は、貴様に任せる。我の道を作れ!」
「はっ。勅命、承りました。陛下」
「ヨスト。その言葉は、まだ早い。まだ、だけどな!ハハハ。進め!魔王の首を、我の前に持ってきたものは、爵位を与えることも考えるぞ」
「殿下」
開いた門から、先頭に奴隷兵を歩かせて、我たちが続いた。
中に入って驚愕の表情をしてしまい。周りを見てから、表情を引き締める。
それでも、驚愕の気持ちは消えない。門の中にまた壁が存在している。
なんだ?
ここは?
本当に、魔王城なのか?
「ヨスト!」
「はっ」
近くに居るヨストを呼び寄せる。
天幕に残した、7番の目を除いた者が門から、中に入った。全部隊が展開出来る広さは存在している。
後方から、大きい音がした。何かが閉まった音だ。
「どうした!」
「殿下。門が再び閉まりました。ドアを押さえていた奴隷は、門に挟まれて・・・」
「魔王も我たちを歓迎してくれているのだろう。魔王を倒さなければ、出られないのなら、魔王を倒せばいい。何も変わっていない。進め。この白い壁の中が、目的の魔王城だ!」
そうだ。後方に下がる必要はない。前に進んで、魔王を討てばいい。
簡単なことだ。
「殿下」
「どうした?魔王を発見したのか?」
「いえ、先行している部下が、新たな門を発見したと報告がありました。現在の位置から見て、反対側です」
「そうか、罠や魔物の襲撃は?」
「ありませんでした」
「どういう・・・。そうか!わかった!」
「殿下?」
「考えてみろ。産まれたばかりの魔王に、このような巨大な魔王城が作られるとは思えない」
「はい」
「それなのに、巨大な施設を作ってみせた」
「はっはい」
「まだわからぬか?」
「もうしわけありません」
「そうか、やはり、我が導かなければ、帝国は列強諸国に食われてしまう」
「当然です。殿下ほど、優秀な方でなければ、帝国を正道に戻すことができません」
「よい。魔王だが」
「はい」
「この魔王も愚かなのだ」
「え?」
「巨大な施設を作れば、我らから身を守れると考えて、強固な門や、門の前の罠を大量に配置した」
「はい。殿下の見事な考察。恐れ入ります」
「世辞はよせ。それで、この魔王は必要な力を使ってしまった」
「あ」
「異常な魔王だと思うが、知恵が足りない。我らの相手ではない」
「殿下の慧眼、恐れ入ります。まさに、そのとおりでしょう。時間稼ぎも、殿下の策で潰されて、魔王は震え上がっておりましょう」
伝令が、我たちの前で跪いた。
「殿下。隊長」
「許す」
「はっ。門の扉が開きました」
「殿下」
「そうだな」
「??」
伝令は話を聞いていない、不思議そうな表情をするのは当然だ。
もう魔王の首に剣を当てている状態だ。あとは、実際に首を跳ねれば終わる。
反対側までは距離があるが、魔物も罠も居なければ、武器や防具を外して、奴隷に持たせればよい。
移動速度を確保して、魔王の膝下に到着してから、立て直しを行おう。
指示を出して、速やかに前進を開始する。
武器や防具の予備や食料を含む物資は、輜重兵から奪い取ってある。支配を強化した奴隷兵の一部に物資と一緒にもたせて、我たちの後ろを歩かせている。後方からの奇襲もこれで防げる。愚かな魔王だが、奇襲くらいは考えているだろう。しかし、相手が悪かった。我には、そのような奇策は通用しない。
天幕や我たちの物資を先に運ばせれば、困らない。我たちが居れば、魔王など恐れる必要はないのだ。