第十八話 警察沙汰
ユウキが学校に通っている時間は、アインスとツヴァイとドライは、敷地内で自由に生活をしている。
そして、アインスとツヴァイとドライは、シルバーフェンリルだ。犬とは違う。そして、毒物への耐性も取得している。
ユウキがバイトから帰ってきて、バイクを駐車場に止めた。
駐車場には、アインスが待っていた。
「アインス?」
いつもなら、転移ゲートの近くに居る事が多いアインスがユウキを出迎えた。
アインスは、シルバーフェンリルたちのリーダー格なので、転移ゲートを守る事を仕事と捉えていた。
そして、ユウキの足下に形が崩れたクッキーの様な物を転がした。
「これがどうした?犬用のおやつみたいだけど・・・」
ユウキは不思議に思いながらも、アインスから”鑑定をしろ”と言われたので、鑑定を発動して、犬用のクッキーを見た。
「毒物か?」
ユウキの鑑定では、毒物と表示されるが、実際には農薬が仕込まれたお菓子だ。
”ワフ!”
(さて、警察に連絡をする前に・・・)
ユウキは、監視カメラの確認を始めた。
すぐに対象の者たちは判明した。ユウキの予想とは違った者たちが映っていたが、想定の範囲内だ。
「アインス。元の場所に戻しておいて欲しい。え?形が崩れていない物もある?」
ドライが、おかしを食べて、体調を崩したフリをして、証拠の動画に収めてあるとユウキに報告をした。
ユウキが、動画を早送りして確認すると、ドライがおやつを食べて、泡を吹いて倒れる様子が撮影されていた。
ユウキの指示を聞いて、アインスは器用にスキルを使って、毒入りのお菓子を、元の場所に戻した。
ユウキは、スマホを起動して、馬込に繋いだ。
馬込から、警察に連絡を入れてもらうことにしたのだ。
元々、馬込や森下からお願いされていた。
連絡を入れて、事情を説明した。20分くらいしてから、3名の私服の警官がユウキを訪ねてきた。
馬込にしたのと同じ説明をして、現場と証拠になる農薬入りのお菓子を渡した。
簡単な事情聴取と農薬だとなぜ気が付いたのかを質問されたが、匂いと飼っている犬が苦しんでいたので、農薬なのではないかと思った。などと、馬込からアドバイスを貰ったストーリーで答えた。
現場の撮影と、証拠のお菓子と、監視カメラの動画を、警察が預かっていくことになった。
普段は、学校とバイトに言っていると説明をして、何か連絡すつような事が生じた場合には、窓口にしている弁護士に連絡をしてもらうことにした。
(週明けの学校が荒れているといいな。楽しみだ)
ユウキの希望通りにならなかった。
学校は、普段通りに授業が進んだ。
昼休みに、警察が学校に訪れたが、ユウキへの接触だけではなく、生徒への接触もなかった。
放課後になって事態は、動き始める。
数名の生徒が呼び出された。
ユウキは、これ以上は学校での動きが無いと見て、家に帰ってから経典に移動して話を聞こうと考えていた。
「新城君!」
ユウキが帰ろうと駐車場に向かおうとしている時に、吉田教諭が声をかけてきた。
「吉田先生?何かありましたか?」
ユウキは、大凡は把握している。内容は噂話で小耳に挟んだ程度だが、映像を提供したのはユウキだ。
警察と一緒に確認をしているので、顔を見れば解る。
「噂は聞いていないのか?今日は、バイトか?」
ユウキは、スマホを取り出して確認する。
今日は、夕方からのバイトがあるだけだ。学校にも届け出をしているので、吉田が知っていても不思議ではない。
「バイトは、18時からです。それまで、図書館にでも行こうかと思っていました」
ユウキは、本当は拠点に移動して、馬込から状況の説明をお願いしようと考えていた。
「それなら時間まで、話がしたい」
「わかりました」
ユウキは、吉田教諭から話を聞いてみる事にした。
状況が、どこまでわかるのかは不明だが、噂話よりも詳しい話が聞ける可能性がある。
最低でも、警察に連れていかれた人数は知っておきたい。
映像には、3人が映っていた。ユウキは、3人が警察に連れていかれていればいいと考えていた。
馬込から、森下にも情報が伝わっていて、ユウキの考えは伝わっている。
”示談には応じない”
既に、弁護士に依頼していることも警察には伝えている。
森下の名前を聞いた時に、警官が嫌な顔をしたのを、ユウキは覚えている。
吉田教諭が使っている準備室に向かった。
途中で、自動販売機で飲み物を調達した。もちろん、吉田教諭のおごりだ。
「新城君。どこまで知っていますか?」
「え?」
「警察が来ました。犬のお菓子に農薬を仕込んで、飼い犬に食べさせようとした生徒が居たようです」
「そうなのですね」
「はぁ・・・。何が望みですか?」
「望みですか・・・。そうですね。連れていかれた生徒の素性を教えてください。あと、仲がいい人たちがわかると嬉しいです」
「やはり、君が始まりなのですね」
「先生。それは違います。彼らが、俺の飼い犬に、農薬入りの食べ物を食べさせようとしたのが問題です。はき違えないでください。俺は被害者です。犬の治療費だってかなりの金額になってしまったのですよ?」
実際には、アインスたちは農薬入りのお菓子を食べていない。
そもそも、ユウキ以外から渡された物は食べない。そして、農薬ではダメージを受けない。スキルで無効に出来てしまう。
「そうですね。君が被害者なのは認識しています。私の言い方が悪かったですね」
「いえ。大丈夫です。それで?」
「私も、全員は解りません」
「え?そんなに多いのですか?」
「知らないのですか?関係する者だけで、7名です」
「そうなのですね。実行したのは、3名なので・・・」
「3名?名前は解りますか?」
「すみません。顔を見れば解る可能性もありますが、断言は出来ません」
「知らないのですか?」
「はい。この学校の生徒だというのも、先生の話で知りました」
「・・・。本当ですか?」
「はい」
「それでは、呼び出された7人が、あいつらに関係する家の子供だというのも・・・」
「もちろん、知りません。そうなのですか?」
「そうだ。だから、新城君から話を聞けば、状況がわかるかと思ったのだが・・・」
「俺が知っている情報は、3人が農薬入りのお菓子を、ペットの犬に食わせる為に、家の敷地内に入って、投げ入れた事だけです。あっ。犬が苦しんでいたので、かかりつけの動物病院の医師に連絡して応急処置をしてから、入院させました。その時に、獣医師から”農薬”の可能性があると言われて、警察に連絡して事情を説明しただけです」
「そうか・・・。君の言っている内容は、私が警察から聞いた話と殆ど同じだ」
「違う所があるのですか?」
「被害者・・・。この場合は、新城君だけど・・・。君が、警察との連絡は、自分ではなく、弁護士にお願いしたと聞いている。それから、弁護士からは、”示談には応じない”と言われていることだ」
「そうですね。普段は、学校に居ますし、学校が終わればバイトです。バイト先に警察が来るのは、体裁が悪いです。弁護士は、以前にお世話になった先生が担当してくれると言ってくれたので、甘えた結果です」
「本当に、一つ一つは聞けば理由があり、納得ができる。しかし、示談に応じないのは?」
「え?大事なペットを殺されかけたのですよ?謝罪の言葉も何もない段階から、示談は考えないでしょ?」
「しっかりと謝罪すれば、示談にも応じるのかね?」
「納得のできる誠意の感じられる謝罪と、示談の条件が提示してからじゃないと、示談は考えられないですよ?」
「それは・・・。新城君の話はよくわかる。よくわかるが、やりすぎないように・・・」
「はい。先生がお聞きになりたい内容は?」
「十分だ」
吉田教諭は、ユウキが主導して、警察を動かしたのかと考えていた。
しかし、ユウキの話を聞いた限りでは、ユウキが被害者なのだ。
ユウキは、吉田教諭から7人の素性を聞いた。
ユウキが想像していたよりも、大物が釣れた可能性がある。
7人全員は、ユウキが狙っている者に連なる連中で、親もユウキがターゲットにしている者に連なっている。