バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第七話 共和国


 共和国に入った。
 俺たちは、共和国側で注意を受けた。

 どうやら、共和国に初めて来る者たちに、注意として共和国の説明をしてくれているようだ。

 小さな国が集まって、作った合議制の集まりだったのだが、今では合議制は形だけになってしまっている。野心を持つ3つの国が理由を付けて、周りの国を併呑していった。共和国という形が残ったのは、王国や帝国に対抗するためだ。

 現状の説明は、既にカルラ経由で受けている。注意を聞き流すわけにはいかない。拝聴していたが、どうでもいいことまでクドクドと説明をしてくる。一緒に、注意を聞き始めた商人は切れて文句を言い出すが、文句が通るわけではなく別室に連れて行かれて、さらなる注意を聞かなければならない。

 俺たちは、静かに時間がすぎるのを待っていた。
 注意が終わると、簡易的だが、最新の状態が書き加えられている近隣の地図が渡された。

 地図を渡して問題にならないのかと思ったのだが、共和国では”客”を自国に引き入れたいと皆が考えている為に、地図で近隣の町を紹介しているのだと説明された。

 関所から行ける場所にある町が属しているのが、3つの大国の町なので、都合がいいようだ。

「旦那様。どの町に向かいましょう」

「そうだな。落ち目な国に属している町に向かおう」

「かしこまりました。アルトワです。デュ・コロワ国にある町です」

「そうか、クォートに任せる」

「なぁ兄ちゃん。なんで、落ち目な国を選ぶ?」

「俺たちの目的は、ダンジョンの攻略だろう?」

「うん。共和国にある。ダンジョンを見に行く!」

「勢いがあるってことは、ダンジョンをうまく使っているか、管理されているよな?俺が、ウーレンフートでやったようには無理かもしれないけど、ウーレンフートくらいのことはしていると思うよな?」

「うん」

「そうなると、また面倒に巻き込まれる。それなら、管理されていないダンジョンを探したほうがいいだろう?力試しなのだからな」

「そうか、そうだよね。食料とか兄ちゃんが持っているし、補給もそんなに考えなくていいよな」

「そうだな。理由は、それだけじゃないけど、ゆっくりするつもりも無いし、落ち目なら多少の無茶なら通せると考えたけど、ダメか?」

 カルラを見ると、肩を竦めるだけなので、問題はないようだ。
 あと、落ち目なくらいの方が、目立つ偉業を成し遂げたときに、噂になりやすい。口の端に上るだろう。
 国が落ち目ならアイツらが居ない可能性が高い。もし居たら、噂話でも、聞ける可能性がある。

 それに、俺が目立てば、それだけ共和国に視線が集まる。俺に群がる奴も増えるだろう。そうしたら、アイツらの情報にアタッチ出来る可能性がある。アイツらがなにかを仕掛けているのなら潰したい。

「兄ちゃん?」

 アルバンがエイダを抱えながら心配そうに俺を見ている。

「すまん。少し、思い出しただけだ」

「え・・・。うん。それならいいけど・・・」

「すまんな。それよりも、近い町までどのくらいだ?」

 御者台に座っているクォートに声をかける。

「はい。このペースだと、半日ほどで到着します」

「そうか、注意を聞いている限りだと、町に行けば宿もあるだろう。今日は、町で休んで、情報収集をするか?」

 カルラは、報告を行う必要があるだろう。
 この馬車の中なら快適だから、困らないが、たまには宿に泊まるのもいいだろう。

「かしこまりました」

 俺たちの馬車は、異常な速度が出る。これは、カルラが言っている。実際に、他の馬車と比べていない。
 関所を出る時の注意点では、”近い町でも1日程度は離れている”と説明を受けた。そのために、途中で野営ができそうなポイントをいくつか地図に印が付けられている。

「カルラ」

「はい。地図の印の位置を確認します」

「頼む」

「はい」

 カルラが、地図を見て確認したが、首を横にふる。

「旦那様。大丈夫だと思います」

「なぜ?」

「各国の守備隊が常駐しています」

「・・・。安全に過ごしてもらうという建前が使えるのか?」

 他国に侵略する口実にも使える。
 誰かが襲われているのを放置したら、それは国家として問題だと言えば”筋”は通せる。

「はい。そうだと思います。実際には、近づかなければわかりませんが、地図上のマークが駐屯場だと示しています」

「わかった。それなら、町までは安心できそうだな」

「はい。最低でも、最初の町までは誘導しないと、本当に、その国は廃れてしまいます」

「そうか・・・。たしかに、最初の町にたどり着けないような状況なら、他国が介入してくるな」

「はい。そうして、奪い合い。騙し合いの結果、共和国という骨組みは残りましたが、平等な国家運営ではなくなっています」

 感じていた。
 元々、王国から他国に行こうと思ったときに、帝国は論外だ。皇国にも行きたいとは思えない。そうなると、共和国になるのだが、最近の共和国は表向きの評判は変わらないが、いろいろな場所で問題が発生している。

 問題が多い国なら、ダンジョンが放置されるか、それに近い状態になっているのではないかと思っている。
 町に付いて、情報収集してみなければわからないが、共和国内の移動は関所で貰った許可証で可能だ。

 共和国と一つの国のように考えるよりも、地球のEUだと思ったほうがいいかもしれない。
 それぞれの国があり、考え方もある。移動を自由にして、商品に関税を掛けない。他にも、取り決めがあるが、共和国の議決は国の規模では決まらないという制度になっているようだ。建前上でも、その1文があるだけで、住んでいる者たちの気持ちは違ってくる。国が安定している考えられることで、気持ちも変わる。そして、より大きな組織として安定するのなら、そこに住んでいる者たちは、自分たちの権益が侵されない限りは、問題になる行動をとらない。

 しかし、共和国という名前で俺も騙されていたが、3つの大国が単純に綱引きをしているだけだ。
 一つの巨大な共和国という国の権益を奪い合っている。外交面では、王国や帝国が隣国として控えているために、団結しているようには見せているが、内情はひどいものだ。3つの大国でさえ、他の大国の顔色や動向を見ながら国の運営を行っている。小国家たちは、見るべきものが増えるだけだ。それでも共和国という傘から出られないのは、地理的な問題もあるが、それ以上に、商人の力が強くなってしまっている。
 関税がないので、小国家で仕入れた物を、大国を通り抜けて、王国や帝国や皇国に売ることで利鞘を稼いでいる。商人たちも、小国家と結びつくことで、税金や諸々で優遇させる。一部では、国家運営にまで口を出す商人まで出ている。

 元々は、王国や帝国に対抗するために、平等な結びつきで、国を守ろうと考えたのだが、理念が現実に食い潰されてしまっている。

 一度、歪んだ状態で落ち着いてしまった治世を戻すには、根本から壊す必要がある。
 しかし、歪んだ治世で権益を持った者たちは、権益を失うのを一番の恐怖と感じる。自分たちの権益が覆らない限り、歪んだ状態を継続させる。継続させた結果、さらに治世が歪もうとも関係がないと考える。権益が大事で、身内以外の者たちがどうなろうと、眉一つ動かさない。

 歪んだ治世は、さらなる歪みを産む。
 歪みによって苦しめられるのは、弱者だ。牙を持ち、爪を持つ、弱者だ。弱者が強者に対抗するには知恵しかない。知恵を持った、傷ついた弱者は、牙や爪を強者に向ける。強者は、牙と爪に脅かされる日々を過ごすのを恐れて、さらなる歪みで弱者から、牙と爪を奪おうとする。

 弱者は、どこかで妥協してしまう。
 一部の牙と爪を隠し持つ弱者以外は、どこかで歪みを受け入れてしまうのだ。

「旦那様。町が見えてきました」

 考え事をしていたら、クォートからの声で現実に引き戻された。

「カルラ。兵は駐屯していたか?」

「はい。休憩所の近くに、50名近い者たちが居たのを確認しました」

「そうか、その数なら、盗賊は寄り付かないな。完全武装していたのか?」

「はい」

 町が見えた事で、クォートは馬車の速度を1/3程度に落とした。
 まだ明るい状況で町に到着ができた。宿も空いているだろう。

しおり