357章 超人的な胃袋
トイレを済ませたことで、おなかは幾分軽くなっていた。
「ミサキさんであっても、ラーメンは厳しいみたいですね」
おなかに食料をためたい、ためたいという思いが、ラーメンの感触を妨げてしまった。通常時であったなら、余裕で完食できたと思われる。
「今回はたまたま調子が悪かっただけです。次回は絶対に完食してみせます」
「すごい心意気ですね」
テーブルに置かれていたラーメンは、きれいさっぱりと片付けられていた。
「テーブルのラーメンは?」
「まだ食べるつもりだったんですか?」
「はい。少しでも多く食べようと思っていました」
全部はきつくとも、2~3人前は余裕で食べられた。腹ペコ女性のおなかは、底なし沼よりもずっと深い。
「腹痛でダウンした人間とは思えません。腹ペコ少女は伊達ではないですね」
ミサキはメニューを見て、食べられそうなものを注文する。
「アイスクリームを10個ください」
「かしこまりました・・・・・・」
アイスクリームはすぐに運ばれてきた。
「アイスクリーム10個です。ラーメンを勝手に片付けてしまったので、お代は無料とします」
アイスクリーム10個の代金は30ペソ。ラーメンと比較すると、かなり安値に設定されている。
ミサキはアイスクリームを、5分ほどで食べきった。
「ミサキさんはすごいです」
「これだけ食べたとしても、夜までにはおなかすいてしまいます」
腹ペコ女性のおなかは、常人とは異なる仕組みをしている。
「そうなんですか」
「はい。1日の必要カロリーは、20000以上です」
「そんなに食べているのに、アイドルさながらに細いですね」
女性は二の腕の肉をつまんだ。
「私はダイエットしていても、贅肉たっぷりですよ。ミサキさんに、体の無駄な肉をおすそ分けしたいです」
「肉を分けてください」
女性は眉間に皺を寄せる。
「ミサキさん、本気でいっているんですか?」
「はい。すぐに体重が減ってしまうので、他人の肉をわけてほしいです」
これまでの最高記録は1日で7キロ。何も食べなかったら、あっという間に原形をとどめなくなる。
20代前半の女性は、テーブルに伝票を持ってきた。
「ラーメン代として、2250ペソをいただきます」
代金を支払うと、店をあとにする。そのあと、ホテルに向かって歩き出す。あまりに食べ過ぎたからか、一歩一歩の足取りは重かった。
「ミサキちゃん、ゆっくりでいいよ」
「ホノカちゃん、どうしてここに?」
ホノカは昼寝を取っていたはず。どうしてここにいるのだろうか。
「ミサキちゃんにお別れをいってから、2時間以上はたっているよ。昼寝を2時間以上もしたりはしないよ」
ラーメン店で2時間以上も過ごしていたのか。食べるのに夢中になっていて、時間の流れに気づいていなかった。