349章 お出かけしてみたい欲望
ミサキは自宅に戻ってきた。
焼きそばを25人前食べたこともあって、お腹にはやや余裕があった。30分から1時間くらいは、何も食べなくてもよさそうだ。
テレビをつけると、一人で旅行をする女性の姿が映し出される。腹ペコ成人とは異なり、一人であっても旅行できる。当たり前のことなのに、とっても羨ましいと思った。
こちらの世界にやってきてから、仕事、買い物以外では、まともな外出はほとんどできていない。身近な言葉に例えると、「限定ひきこもり」だ。
たくさんの収入を得ているけど、お金を使う機会は少ない。そのこともあって、たまり続けている。きっちりと使わなければ、紙くずのままを持っているのと同じだ。
ミサキは一人で旅をしてみたいと思った。遠いところは厳しいので、近いところで検討してみよう。
どこがいいのか考えていると、お腹はぎゅるるとなった。焼きそば25人前を食べても、お腹はきっちりとすくようだ。
自宅にある自販機で、フィレオフィッシュバーガー10個、チーズバーガー10個、梅バーガー10個を注文する。たっぷりと食べて、元気になりたい。
フィレオフィッシュを食べながら、一人旅のプランを考える。絶対に必須といえるのは、食べ物店がすぐ近くにあること。この条件を満たしていなければ、路上に倒れることになる。
宿は駅から近いところが望ましい。たっぷり歩くと、体重はあっという間に減る。体重キープは、腹ペコ女性の至上命題だ。
チーズバーガーを食べていると、電話の着信音が反応する。第三者からかかってくるのは非常に珍しい。
「ミサキさん、すみません」
「シノブちゃん、どうしたの?」
「アズサさんが休んだために、人員不足に陥っています。1~2時間だけ、追加で仕事してもらえないでしょうか」
アズサはクビになった社員。本日はシフトに入っていたため、欠勤扱いとなっている。
「1時間後くらいなら、なんとかいけるかな」
「無理をいってすみません」
「いろいろと助けてもらっているから、気にする必要はないよ」
シノブは電源を切る。ミサキは梅バーガーを食べたのち、ゆっくりと職場に向かった。