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第4話そして、幕は開ける

LINEの件は、あの、その本当にごめん…」
おれは目を合わせられなかった。
この三日間、LINEのトップ画にお世話になっていたおれは、ご本人登場みたいな展開に恥ずかしくて耐えられそうになかったからだ。

「別にいいけどさー…あ!今送ってよ!早く!」
リリカさんはニカっと笑ってそう言った。

あー、本当に綺麗な人だな…
こんなヒロインがいる漫画がかけたらな…

「わかった…」
そう言って俺が大好きなアニメ”やはり俺の青春ラブコメは間違っている”の由比ヶ浜結衣スタンプを、菅田将暉BOTに送るみたいな軽い気持ちで送ってしまった。

「あ!やべ…!」

「お!なんかスタンプだけおくっ…これ俺ガイルじゃん!好きなの?!」

俺はびっくりした。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてたと思う。

「あ、うん。すごく好き…!」

「わたし最近見始めたんだけどめっちゃいいよね!」

ギャルで優しくて、フランクに話てくれて、しかも俺ガイルを知っている。
なんだこれ。オタクに優しいギャルの致死量だ。

俺はパーっと明るい表情になって、オタクらしさ前回で熱弁をしてしまった。
「そうなんだよ!はちまんとゆきのんが付き合うんだろうなーってわかってるんだけどガハマを応援しちゃうんだよね!何よりもCVがいいんだよ!東山さんの声ってだけでいいよね!あ、東山さんっていうのは…はっ!ごめん…!」

絶対ひかれた。やってしまった。顔を見るのが怖くて下を向いていたが、恐る恐る顔を上げてみた。

「あはははははは!めっちゃ喋る!いいじゃんいいじゃん!私好きだよ!好きな事を語ってくれる人!」

なんだなんだ。オタクに優しすぎる。気をつけてくれ。
俺みたいなキモオタで、親からの仕送りで生活している学生ニート野郎は、すぐに好きになってしまうぞ。
ていうかもう好きなんだが…

「そうだ!私もうすぐバイト終わるから待ってて!」

「え…」

「美幸くんに拒否権はないよ!」

しまった。LINEの追加で名前がバレた。

「わ、わかった。裏手の公園で待ってるよ」

すぐ裏手にある公園のベンチに腰掛けた。
俺は多分すごく顔が赤かったと思う。
なんか声も裏返ったし。

あんな綺麗で優しいんだから彼氏なんて三人くらいいてるんだろうな。ギャルだし。
月・水・金でシフト組んでるんだろうな。
でもあれか。三人もいたらクリスマスとかどうするんだろう。
24日はA君で25日はB君。あ!そうかC君は保険か!AとBが面白くなかったらCのところに行くんだ!

うわ、なんかすげぇ辛いわそれ…


「・・・ていうかギャルと待ち合わせなんて、俺の人生で起きていいイベントなのかよこれ。」

なにせ、俺の学生時代というと
小学校の時はお道具箱に給食のパンを入れて、カビの成長記録をとっていた。
中学に上がると、ハンターハンターのクラピカに憧れて、鎖を腕に巻いて登校したりしていた。

高校に上がると、同じ中学だったやつが、俺の高校で【あいつは具現化系能力者www】と言いふらしていた。

それ以来、俺の机には水の入ったコップに葉っぱを浮かした物が置かれていたり、
彫刻刀で机に”クルタ族ワロタ”と掘られていた。

当時の俺は「え、俺以外にH×H好きな人いる。グフ、グフフフフ・・・」とか言って喜んでいたが、今考えればいじめられていたんだと思う。

だって卒業アルバムの、最後のページで寄せ書きする所には
「厨二乙」とか「レオリオにヨロシク」とか「男?女?どっち?」とか、最早クラピカの卒アルみたいになっていた。

そんな気持ち悪い俺がギャルと・・・


「うわ…!」
すると突然、頬に温かさを感じ、急なことで変な声を出してしまった。

「お待たせ!ごめんね、寒いのに!」
リリカさんがホットコーヒーを頬にくっつけてきたのだった。

「ぜ…全然大丈夫!」

リリカさんは俺の隣に腰掛けて、バイトの制服が入った鞄を足元においた。
そしてそのままスマホを見始めた。

変な沈黙が続く。
リリカさんのスマホから聞こえてくるTikTokのよくわからない音楽だけ聞こえてくる。


さっきまでずっと変なことを考えていたせいで、質問せずにはいられなかった。

「あ、あの…リリカさんって彼氏が、その…やっぱり三人ほどいてるの…?」
俺はバカだ、なんて失礼なことを聞いてしまったんだ。

「は?!いるわけないじゃん三人も!あははははっ
ていうか私、彼氏できたことないんだよねー」

意外すぎた。
ギャルという生き物は複数の彼氏をシフト制で組んだり、マンションの隣に住んでる男の家に入って唐突にセックスをしたり、マジックミラー号でNTRをする生き物だと、FANZAとSODで習ったことがある。

「意外だね…」

「私の家めっちゃ貧乏でさ、パパは小学6年の時に死んじゃって、ママは体が弱いんだよね。
だから中学生の時は学校が終わったらすぐに帰って、弟のご飯作ったり、家のことしなくちゃでさ、この時くらいはまだパパの残してくれた遺産で暮らしていけたんだけど、私が高校に上がったら、その貯金も無くなっちゃってさ。だからそれ以来ずーっとバイト!だから彼氏作る暇なんてなかったの!」


リリカさんはなんて強いんだ。
そんな重たい話を笑顔で、しかも後悔なんてなかったみたいなトーンで話ている。
もうなんか本当にすみませんでした。
彼氏三人くらいいてるとか考えて本当にすみませんでした。

「そうだ!この間めっちゃごめんね!
私ここのバイトが初出勤の日でさ
遅刻ギリギリでめっちゃ焦ってたんだよ…」
リリカさんはじっと目を見ながら
大袈裟な身振りで説明してくれた。

「だからさ!お詫び何かさせてよ!」

待ってくれ。家庭の話を聞いた後に、お詫びなんて受け取れない。

「え・・・いいよお詫びなんて・・・」

リリカさんは少し困った表情をしていた。
恐らく本当に申し訳ない。という気持ちでいっぱいの彼女は、何でもいいからお詫びがしたいんだろう。


正直、お詫びというなら
おっぱい揉みたいとか、太ももで顔挟んでほしいとか
俺を目隠しして、口の中に唾を垂らして欲しいとか、そんな気持ち悪い事ならすぐに浮かんだ。

そして俺は必死に考えた。
初めてリリカさんに会った商店街。
それは衝撃的なほどに綺麗だった。
あの時の情景は今も写真のように頭に残っている。

そして少し考えた後、俺は言った。

「じゃ、じゃあ・・・俺の漫画のヒロインモデルになってよ・・・!」

リリカさんはキョトンとしていた。

「漫画のモデル?ていうか漫画書いてるの?」

「う、うん。ダメ・・・かな?」

少しの沈黙があった。
この間に色々と考えてしまうほどには。

ファッションセンスもないオタク野郎が趣味で書いてる漫画。そのモデル。
絶対に気持ち悪いと思ってそう。

明るくて優しくてすごく綺麗なギャル。そして真面目な性格に、バックボーンを感じる家庭環境。
こんなにも魅力的なモデルは二次元にしか交流がなかった俺には、すごく眩しく見えた。

やってしまった。
これだからガチオタキモニートは・・・はぁ・・・

冷たい風の音と枯れ葉が舞っている。

するとリリカさんは立ち上がって、腕を後ろで組み、少し前屈みになり俺の前に立った。

「いいよ!私が最高のヒロインになってあげる!」
そう言って、いつものようにニカっと笑った。

俺はこの日のことを一生忘れないだろう。
事情は違えど、青春を送れなかった二人。
様々な事情を抱えて交差していく二人の物語はここから幕を開ける。



「あ・・・貧乏なことは書かないでね・・・なんか漫画にされるのは恥ずかしい・・・」
「あ・・・はい」






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