ナギ(3)
「よし、次はゲーセン行こうぜ!」
テルが私たち三人を急かす。
「私はいいけど、ミミはもう満足?」
「いいよー」
口にお菓子を頬張りながらミミが返事をする。
「私も」
駄菓子屋の近くにあるテーブル付きの椅子に四人で腰かけ、いつもなら暇そうなアイも珍しくお菓子を食べている。とても満足そうに。
「ほら、立って立って!ゲーセンに行くぞ」
テルが一度でもゲーセンに入ると帰る時間までそこに居続けることになる。それが分かっているから私たちは少しだけ腰が重い。
「はやくー」
「はいはい」
ゲーセンはここから一階上の三階にある。つまり私たちはエスカレーターへと向かわなくてはいけない。
「これでいいって」
テルが階段を指さす。
「いや、反対側にエスカレーターあるんだからいいべ」
「時間がもったいない」
「えー」
「アイもたまには運動しなさい」
アイがテルに背中を押され嫌々階段を上がる。ため息を同時についた私とミミも後ろを続く。
「なんか階段長くない?」
「もう少しだよ」
私達四人のうち、運動が得意なのはテルだけだ。身長が高いだけでなく運動神経までもいい。逆に一番運動が苦手なのは、四人の中で一番頭のいいアイだ。ミミはテルには劣るが運動神経は普通に良く、アイには劣るが普通に頭もいい。
対して私はどっちも普通。何もかもが平均値だった。
「もうすぐだよー」
すでに上がり終えたテルがこっちを見下ろしている。
「やっと、あと二段」
全然長い階段でもなかったくせに、あと二段という安堵感で私は油断した。
「え」
足を滑らせた。
「やばっ」
すぐに体勢を立て直せばいいだけだったのに私は必要以上に焦ってしまった。
どういうわけか自分の体が後ろに倒れていく。我ながら本当に間抜けだった。
「ナギ!」
テルが私を掴もうと手を伸ばしてくれる。
その手を掴んだらテルも危ない。頭では分かっていたはずなのに。
「!」
私の体は勝手にテルの手を掴んでしまった。すぐにテルが私の手を両手で掴んでくれる。
テルの体が前のめりになる。
「ごめん」
口には出ないままで頭に思った。
落ちる。それを覚悟して目を瞑った。
「……」
体感、体が不自然に止まる。
「あれ……?」
目を開けるとテルと目が合った。
「大丈夫か?ナギ」
テルの体も不自然だった。
「よいしょっと」
テルが私の体を引き上げてくれた。
「テル、どうやって……?」
理解が追いつかなかった。
確かにテルの両手は私の腕を掴んでいた。あの角度の体を足だけで支えられるはずがないのだ。踏ん張ることさえもできないはずだ。
そのはずなのに、テルは私を支え、引っ張り上げたのだ。