テル
……やってしまった。
完全に注目の的になってしまった。どうやって誤魔化す?
「もう落ちちゃうかと思ったよ」
「私も」
ミミとアイがそう言う。そりゃそうだ。どんなに力持ちでも、普通の人間なら確実に落ちる状況だったのだから。
「いやあ、火事場の馬鹿力ってやつかな?」
それができたのは他の誰でもない、この私だったからだ。手や足じゃなく他のモノを使うことができたからだ。それで咄嗟に手すりを掴んで体を支えられたのだ。
そう、紛れもなく『テル(私)』には尻尾があるのだ。
子供の頃からそうだった。どういうわけか私には尻尾があった。細くて長く、そして茶色で、まるで猫のような尻尾が私にはある。
もちろんそのことを不思議に思ったことはある。自分の体は異常なのではないかと母親にももちろん相談した。
でも、
「尻尾なんかないけど」
誰もがそう言った。
自分がとても怖くなった。本当に人間なのか、尻尾を動かすたびに開いた口が塞がらなかったものだ。今では慣れはしたが、でも、間違いなくコンプレックスだ。
「ま、まあナギが無事なら、はやくゲーセン行こうや」
この尻尾が邪魔で仕方なかった。引っ張ったら痛いし、何の役にも立たないし、座る時なんか本当に邪魔でストレスだった。
このまるで人間ではないモノが私を人間から遠ざける。
「テル、ありがとう。どうやったのか分からないけど、助かった」
「……おう!」
ナギのありがとうという言葉を聞いた瞬間、初めての感情が生まれた。
このコンプレックスがあってよかった、と。
「お、嬉しそう。てかどうやったらそんなに運動神経よくなるわけ?」
質問しながら覗き込んでくるミミに向けて私はどや顔しながら、
「内緒だ」
そう言った。
「よし、行こうか」
四人で並んで歩き出した中、私の心は温かかった。そして、少しだけみんなとの距離が近づいた気がした。