アイ
……やってしまった。
完全に注目の的になってしまった。どうやって誤魔化す?
「車が来てるなんて気付かなかったや」
「私も」
ミミとテルが正常なのである。
「あはは、音がね、聞こえましてね。あはは……」
それでもナギの命が危なかったのだから仕方ない。
そう、紛れもなく『アイ(私)』は後ろが見えるのです。
子供の頃からそうだった。どういうわけか私は後ろが見えてしまうのです。まるで後ろに目でもついているかのように。
もちろんそのことを不思議に思ったことはあります。後頭部に目でもついているのではないかと母親にも相談しました。
ですが、
「何もない」
誰もがそういうのです。
自分がとても怖くなりました。本当に人間なのか、自分に怯えながら夜を過ごしたものです。今では慣れはしましたが、でも、間違いなくコンプレックスです。
常に後ろが見えるというわけではありません。ある条件によって後ろが見えるようになるのです。
「そういえば、もう目は大丈夫なのか?」
「目?」
「ゴミが入ったって言ってたべ」
「あ、ああ。ええ、大丈夫」
その条件とは両目を瞑ること。両目に力を入れて目を瞑ると後ろが見えるようになるのです。
だから私は夜に怯えていたのです。最初の頃はその条件も分からなかったのですから。
この、まるで人間ではない所業が私を人間から遠ざけるのです。
「アイ、ありがとう。お陰で助かったよ」
「……いえ」
ナギのありがとうという言葉を聞いた瞬間、初めての感情が私の中に湧きました。
このコンプレックスがあってよかった、と。
「随分と嬉しそうだな?アイ」
にやついた顔で覗き込んでくるテルの顔に多少ムカつきながら、私は顔を逸らして、
「当然のことをしただけ」
そう言った。
「よし、行きましょ」
四人で並んで歩き出した中、私の心は温かかった。そして、少しだけみんなとの距離が近づいた気がした。