ナギ(1)
「何ぼーっとしてるの?ナギ」
「あ、ごめん」
「ナギがぼーっとしてるのなんていつものことじゃん」
「それより、今日も寄り道して帰るべ」
私たち四人は青春真っ盛りの高校一年生で、いわゆるいつメン(いつも一緒にいるメンバー)だ。
「またいつものところ?たまには違うところに行ってみようよ」
「あそこ意外遊ぶとこなんてないでしょ。こんなド田舎には」
と、四人の中で一番背の高いテルが言う。
「確かに」
と、四人の中で一番陽気なミミが頷く。
「じゃあいつも通りね」
と、四人の中で一番真面目なアイが意見をまとめる。
私たちが住むこのド田舎には大型ショッピングセンターが一つしかない。よって遊ぶ場所も一つしかないということだ。
私たちは学校の帰りによくそこに寄り道していた。
「どうせテルはゲーセンでしょう?」
「なんだよ、アイ。ゲーセンを馬鹿にしてるのか?」
「そういうわけではありません」
「ゲーセンはいいぞ。いろんな種類があるし、どれも楽しい。何時間でもいれるぞ」
「よくそんなにお金持ってるね」
「テルはバイト代を全部ゲーセンに使ってるらしいぞ!」
「それ本当なの?ミミ」
オシャレなどに無関心な私たちは青春にお金を浪費している。
「みんなも似たようなもんでしょ?」
歩行者用信号機がが赤に変わる。私たち四人は横断歩道を前に、横一列に並んだ。
「ここの信号長いんだよな」
「気長に待ちましょう」
時間はゆっくりと流れていくが、目の前の車はそこそこのスピードで過ぎていく。たまにお互いの声が聞こえなくなることもある。それでも私たちの会話は適当に成立していく。一緒にいる時間が長いからだろうか。
信号が青に変わる。
「よし、渡ろう」
足並み揃えて三人が歩き出す。
「ん?ナギどした?」
「靴ひも。先行ってて」
しゃがんでほどけた靴紐を結びなおす。
「はやくしな?信号変わっちゃうべ」
ミミが一度振り返って早く渡ってしまうよう私に促した。テルとアイはすでに横断歩道を渡り終え、右に折れて歩き出していた。
「今行くよー」
顔を上げた時にはもうミミは二人と合流していた。
「はやいなあ」
私の視線が三人を追って少しだけ右に向く。そして私は小さく一歩を踏み出した。
間違いなく歩行者用信号機は青のはずだった。
「危ないっ!」
「!」
突然私の耳に届いた大きな声。反射的に私の体は綺麗に直立して止まった。
その時だった。
ブーーーーン!
目の前をある程度スピードのついた車が通過していった。
「……」
力が抜けてその場に座り込む私。
「ナギ!大丈夫か!」
「こ、腰が抜けた、かも……」
「とりあえず、ほら!捕まれ!」
テルとミミの肩を借りて横断歩道を渡りきる。
もしも立ち止まらずにあのまま歩いていたら……。想像するだけでぞっとする。
「大丈夫か?怪我は?」
「ううん、大丈夫」
「そっか。よかったあ」
口早に心配してくれるミミとテル。あの時叫んでくれたのは……。
「それにしてもよく車が来てるって分かったな。アイ」
そう、アイだった。
「ま、まあね……」
アイだから驚いたわけではない。誰であってもおかしいのだ。
三人は横断歩道を渡り終え、そのまま右に折れて歩いていた。つまり完全に三人の死角である、私の左側から走ってくる車が見えるはずがないのだ。
後ろが見えでもしない限り。