二人ぼっち
「皆さんこれよりニ十分後ゲームを開始します。ゲーム開始と同時にローバーから電波を発信します」9000HALがいきなり基地中のパソコンを乗っ取りそう告げる。
「来たんだな」
古代がボソッと言う
「皆さん!が、頑張りましょう!」
「聞いての通りだ。皆んな有人ローバーに乗り込むぞ」
僕たちは有人ローバーに乗り込む。
『よし、全員乗ったな』
古代がみんないるのを確認して有人ローバーのロックをかけた。
『きた!』
パソコンを見ていた古代さんが最初の電波を確認した。
『方角はおよそ北西』
鴻鳥さんがローバーを運転する。
僕は愛梨とパソコンから来る各国のローバーの移動向から正確な向きを探った。
『鴻鳥さん向を北北西にしてください』
僕はわかった向を伝える。
何もない白い氷の大地が広がる。遠くには赤茶色の山が見える。
パソコンには中国のローバーが僕たちの1,2キロ先にあるのが分かった。
「バァーン!……ピューーー」
いきなりガラスが割れる音と共に空気が抜ける音がした。
僕は運転席を見る。フロントガラスには赤い血が飛び散っている。
「マズイ」
古代さんがいじっていた銃を置いて急いで運転席の方へ行く。直ぐにフロントガラスの亀裂にガムテープを貼る。
「若田!近くにいる有人ローバーはどこのだ!?」
僕はパソコンを見る。近くにいるのはさっきの中国のローバーだ。
「中国のです」
『どうゆうこと?ねえ?』
愛梨はパニックになっている。すし涙目になっている。
『鴻鳥が撃たれたんだよ!』
『え、助けないと』
愛梨が運転席の方へいこうへ
『ダメだ、もう死んでる。頭を撃たれたんだ』
『なんでこんな。ひどいよ』
愛梨は膝から崩れ落ちた。
『若田、おい、若田!』
『あ、はい』
「若田よく聞けよ。あっちには宇宙用の銃がある。……若田、愛梨、お前たちは直ぐにここから降りて、出来るだけ遠いところで隠れろ。俺はここで中国の奴らと交渉する」
僕たちは半ば強引に降ろされた。
「愛梨ちゃんを頼んだぞ若田」
そしてローバーを古代さんが動かし僕たちから離れていく。
僕と愛梨は宇宙服のまま、近くの小山を登る。
『ねえ!若田!ねえってば!』
愛梨が不安そうに僕を呼ぶ声が無線から聞こえる。
後ろを振り向く。
汗をかき少し疲れた様子の愛梨が指を刺している。
気づけばずいぶん高いところまできた。
彼女の指の先には僕たちが乗っていたローバーと中国の有人ローバーがある。
『愛梨さん、しゃがんで隠れよう』
『うん』
声を震わせて彼女が答える。
望遠カメラでローバーの方を見る。
ちょうど銃を持った古代さんがローバーから出てきた。
すぐに、中国のローバーから三人ほど出て来る。その全員が銃を持っていた。
四人は話している。
ほんの少し経って中国の宇宙飛行士三人が古代さんに銃を向ける。
そして若田さんは撃たれ倒れた。
『ねえ、若田くんどうなってるの?ねえ!』
どうやら愛梨は望遠カメラの使い方がわかってないらしい。
『古代さんが、倒れた』
『うそ!うそだと言って』
愛梨は完全に泣いている。
僕に抱きつき叩いてくる。
また望遠カメラで見る。
中国のローバーが動きはじめていた。
『愛梨さん、僕たちのローバーに戻りましょう』
僕は愛梨の手を引いてローバーのところまで歩いて行った。
『ゔぅ』
ローバーに入り、宇宙服を脱いだ。血の生臭い匂いが漂っている。
『うぅぅー』
愛梨は心折られ宇宙服を脱いだら壁の隅で蹲り泣いている。
『愛梨さん。その……』
『……』
愛梨はダメそうだ。
『基地にもどりますね』
『ぃ、いかないで』
僕は運転席に向かう。
『きて』
愛梨が僕を呼んできた。
少し気まずいが彼女の隣に座る。
『もっと近く』
少し体を愛梨に近づける。
僕はチラチラ彼女を見る。
愛梨が体を僕の方に傾け僕の手を取り、繋ぐ。そのまま僕の方に体ごと近づける。そのまま僕の肩に手を乗せ抱きついた。
彼女は泣きながら訴えてくる。
『もう、ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ、いなくならないでよ、ううう……』
彼女は僕の方を向き、
『もう、わたしを一人にしないで!』
『わ、わか』
『うあああああーん』
ずっと泣いている。
もう、二人になってしまった。
僕は愛梨を抱きしめる。
『もう、僕は何一つ愛梨から奪わせない。もう、負けないから。泣かないでよ。泣いてる君は見たくないだ』
『ほんと?』
愛梨は泣き止み聞いてくる。
『約束するよ。僕は愛梨と二人で生き残りたい』
『うれしい、約束』
愛梨が微笑んだ。
僕はローバーの運転席に行こうと立ち上がる。彼女も僕に釣られて立ち上がる。
愛梨は僕の服の裾を掴んでいた。
『私も手伝う』
『わかった』
僕はローバーを始動させて、基地の方へ向かった。