一話 9000HAL
「皆さん今日は見に来てくれてありがとう!💓」
愛梨は機材すらまとも無い火星の基地でライブを終えた。
「若田くん機材の調整ありがとうね、めっちゃ助かった!いやーカメラ止まった時はびびったわwww」
愛梨やっぱり、最強のアイドルだ。
「いや、その、愛梨さんのお手伝いで来て光栄です」
同じ基地に二ヶ月以上もいるにも関わらずいつも緊張してしまう。
愛梨の美しさは、まるで天使が舞い降りたかのようだ。彼女は、重力が弱いせいかふわふわとした長い金髪を舞わせ、太陽を見た時のような明るいピンク色の綺麗なっ瞳と透きとる肌を持っていた。彼女と話すたびに僕は、彼女の美貌に動揺してしまう。
「もう!いつになったら若田くんは私に慣れてくれるの? こっちまで恥ずかしくなるじゃん! えい!」
彼女が急に僕へ抱きついてきた。
重力が軽いせいなのか愛梨はすごく軽い。そしてすぐに愛梨のDカップ胸がふわっと僕に押し付けられているのがわかった。
「どう?慣れた?近くにいれば慣れるよね?」
愛梨が僕の顔のすぐ横で囁いた。
「愛梨ちゃん、若田くんはそんなことされても慣れるどころか逆効果だよ」
同じ火星ミッションの仲間の自衛官の古代が愛梨に諭した。
「そうなの若田くん? 逆効果?」
彼女は僕と目を合わせて聞く。
僕は慌てて目を逸らし
「愛梨さん少し恥ずかしい」
「え!あら、そう、ごめんね」
彼女は本当に驚いたようで、いつも大きな目を見開いて答えた。
「若田くんて可愛いのね!」
そう言い愛梨は僕から離れた。
「みんなさん食事が出来ましたー、今日はライブ祝いで豪華ですよー」
小児科医者の鴻鳥《こうのとり》さんがみんなを呼んだ。
「いただきますか」
みんな基地の大テーブルに集まり食事を始めた。
「どうです?火星で食べるカップラーメンは?背徳感があって良いですよね。いつも食べる火星産芋より良いでしょ」
いつもの味気ない芋と栄養剤に比べれば相当おいしい。
「ん〜美味しい〜久々の塩気〜 毎日これが良い」
愛梨は口いっぱいに麺を入れ喜んでいる。
「愛梨ちゃんそんなに一気に入れたらすぐに無くなっちゃいますよ」
エンジニアの堀越さんが愛梨に言う。
「あ!ほんとだ!もうスープしかない!え〜〜」
一気に愛梨は口角をわずかに下げ、微かながらに残念そうな表情を浮かべた。
「ドカーンッ」
突然、地面がガクッと揺れ、周りの物が大きく揺れ動いた。
「なんだ!?」
直後に警告を知らせる警報が「ピッ、ピッ、ピッ」と短い音が連続的に基地中に鳴り響く。
「キカンロケット トノオウトウショウメツ キチナイブデバクハツ ジドウオートエアロックサドウカンリョウ……」
直ぐに機械音の報告でわかった。
「帰還ロケットはまずい、堀越すぐに宇宙服で外に出て見にいくぞ」
古代さんは慌てて堀越に言う。
「ピッ、ピッ、、、、」
突如警告音が止んだ。
「こんにちは皆さん。私は9000H L Aと言います」
突然男性の声をした機械音生が流れる。
直後に基地のコンピューター画面全てに赤い点が現れた。
続けて9000HLAは続ける。
「先ほど火星にある全ての基地の帰還ロケット、三ヶ月分の食料を残して全ての食材を消しました」
「嘘を言うな!」
古代さんが声を荒げて叫ぶ。
「本当です。自衛隊、第一宇宙部隊、大佐、古代 信人さん」
9000HALは続ける。
「これから皆様に生き残りを賭け火星にある各基地と争ってもらいます」