325章 カスミンの心
「アカネさん、ご飯を一緒に食べたいです」
ハルヒの言葉に対して、アカネはこくりと頷いた。
「わかった。何を食べたい?」
「セカ・・・・・・ではなく、鶏肉料理を食べたいです」
「セカ」の一文字だけで、何を食べたいのかは伝わってきた。
『「セカンド牛+++++」を食べたいんだね』
ハルヒは首を縦に振らなかった。
『「セカンド牛+++++」ではなく、「セカンド鶏+++++」を食べてみたいです。私は牛肉よりも、鶏肉を食べたい気持ちが強いです』
ハルヒの笑顔は、カスミそっくりである。血のつながりはあっても、ここまで似ているというのは珍しい。
「わかった。「セカンド鶏+++++」を食べに行こう」
「アカネさん、いいんですか?」
鶏の飼育量が少ないのか、卵、鶏肉は値上がり傾向にある。卵は10個200ゴールドから、10個1000ゴールドを超えるようになった。1個の卵で、茶碗一杯分の米を食べられる。
「うん。いいよ」
「アカネさん、ありがとうございます。おなかの中の子供も喜ぶと思います」
「ハルヒちゃん、また妊娠したの?」
「はい。新しい命が宿っています」
10歳くらいの女の子は、2人目の命を誕生させようとする。「セカンドライフの街」においては、当たり前のことなのかもしれない。
「子供を3人くらい出産したら、仕事に出かけるつもりです。旦那といろいろと支えあって、生きていきたいです」
カスミは旦那の二文字を聞いて、頬に陰りが生じていた。彼女は一緒に暮らしたくとも、生活する夢はかなわない。
「カスミン・・・・・・」
「ごめんなさい、旦那のことを思い出してしまいました」
ハルヒは空気を察したのか、カスミに頭を下げる。
「カスミンおかあさん、ごめんなさい」
「ハルヒは悪くないよ・・・・・・」
アカネは死者を復活させられない。旦那と生活するのは不可能だ。
「カスミン、再婚すればいいんじゃないかな」
カスミは複雑な反応を見せる。
「結婚は一度で十分です。二人目の男性と、結婚したいとは思いません」
「カスミン・・・・・・」
カスミの視線は、ハルヒのほうに向けられた。
「ハルヒ、新しい命のために、ご飯を食べに行こう」
「カスミンおかあさん・・・・・・」
笑顔を絶やさないのは、旦那のことを考えないためなのかな。カスミの心の中は、完全には分からなかった。
アカネは超能力で、心を盗みたいとは思わなかった。それをしてしまったら、すべてが砕け散ってしまいかねない。どうしても必要なとき以外は、封印しておくのがベストである。