306章 アヤメは忙しい
エマエマ、アヤメはそれぞれに自己紹介をする。面識はまったくなかったのか、ものすごく丁寧な言葉遣いだった。
「エマエマさん、はじめまして。クドウアヤメといいます」
「アヤメさん、はじめまして。エマエマといいます」
エマエマは小さく瞬きをする。
「アヤメさん、社長に捨てられたというニュースを聞きました。大変な思いをされたんですね」
「はい。あのときは死ぬかと思いました」
「どのようにして、助かったんですか?」
「ミサキちゃんの家を訪ねて、いろいろとお世話をしてもらいました。突然の来客にもかかわらず、親切にしてもらえました」
アヤメを絶対に守りたい。ミサキの心の中には、その思いが強かった。
「そうだったんですね・・・・・・」
「一人の人間として復活できたのは、ミサキちゃんのおかげです。私にとっては、一生の恩人といえるでしょう」
アヤメは腕時計を見る。
「ミサキちゃん、ハグをしたい」
「うん。いいよ」
アヤメと体を合わせる。以前に会ったときよりも、うんとたくましくなっているように感じられた。逆境を乗り越えたことで、一皮、二皮も向けたようだ。
「ミサキちゃんの体は、おかあさんみたいな安心感がある」
アヤメの視線は、エマエマのほうに向けられた。
「エマエマさん、ハグをしていただけないでしょうか?」
「はい、いいですよ」
アヤメは体を離したあと、エマエマと体を抱きしめる。
「エマエマさん、とっても温かいですね」
「ありがとうございます」
アヤメは体を離した。
「次の仕事があるから、今日はこれで失礼するね。1カ月後~2カ月後くらいに、こちらを訪ねる
つもりだよ」
地道に努力を続けてきたからこそ、世間から需要を得られる。ちょっとした積み重ねの大切さを、肌身で大いに感じた。