298章 おわかれ
キイは深々と頭を下げる。
「ミサキさん、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「私は仕事に出発します。次に会えるとすれば、30年後くらいになりそうです」
エマエマよりも、間隔はあいている。超一流歌手よりも、多忙な生活を送っているのかもしれない。
キイの視線は、エマエマのほうに向けられた。
「エマエマさんは、体調が戻るといいですね」
エマエマはいまだに眠り続けている。2時くらいから睡眠をとっているので、6時間以上も眠って
いることになる。昨日に続けての長時間睡眠なので、体が悲鳴を上げているのは明らかだ。
「最後に握手をお願いできますか?」
「はい。どうぞ」
ミサキが手を差し出すと、キイはがっちりとつかんだ。おなかを触られたときよりも、ごつごつしているのが伝わってきた。
ミサキの家の前に、豪華なワゴン車がやってきた。キイのお迎えだと理解するまでに、時間はかからなかった。
「ミサキさん、30年後に会いましょう」
19歳の少女に、30年後のことは分からない。腹ペコガールは、どんな大人になっているのだろうか。