第19話 俺達2人はC級冒険者パーティーになりました
「あのー、ところでミーアの冒険者登録はしてもらえますか?」
「もちろんだ。
それと、その強さでF級のままにはしておけまい。
まして、ラスクとこの専属ともなれば最低でもC級だな。
とりあえず今日のところは、2人共C級で登録しておこう。
ただ、いきなりC級だというと僻む奴等も多いだろう。
君達は、流しの冒険者だということにしておいてくれるかい。
特定の土地に縛られずにあちこちで移動しながら活動する冒険者を流しの冒険者と言うのだが、これなら突然のC級登録でも、おかしくは無いだろう。」
難しいことは分からないけど、俺達2人は、C級相当の実力を持ってあちこちを冒険していたことにしておけばいいのだな。
「それでも絡んでくる奴等はいるだろうから、しつこい奴を1回だけやってしまってもいいぞ。
出来るだけ派手にな。
実力を皆に見せつけてやれば、大人しくなるだろうよ。
それでも手出しするようであれば、俺が処罰してやろう。」
「ありがとうございました。
ではこれで。」
「おお、頑張ってな。」
俺とミーアは「クマの手」に戻ることにした。
「シモンさん、遅くなりました。
あと、もう一部屋取りたいですが空いていますか?」
「ああ、その娘の分だね。ちょうど隣が空いているよ。
パーティーを組んだのかい?」
「はい、ミーアって言います。」
「俺は、この宿「クマの手」の主でシモンって言う。
ミーアちゃん、よろしくな。
ところで、お前達晩御飯は済んだのかい。」
「いえ、未だです。」
「なら腹が減っただろう。
時間は過ぎているけど、マリンが適当に見繕ってくれるだろうよ。」
俺達はシモンさんにお礼を言って、マリンさんの食堂「クマの胃袋亭」に向かった。
嫌な顔ひとつしないで美味しい料理を食べさせてくれたマリンさんに感謝して、長い1日は終わった。…はずでした。
食事をしながら舟を漕いでいたミーアを部屋に送って行くと、ベッドに寝かせる。
うん?首に巻き付いた腕が取れない。
すやすやと眠るミーアを叩き起こすのも忍びなく、しばらく悶々とした時間を過ごしてしまった。
「ええー!!」
翌朝、ミーアの悲鳴とも驚きとも取れる絶叫で俺は目を覚ました。
「ど、どうして、ヒロシがここにいるのよ。」
「どうしてって、昨日の夜お前をここまで送って来たんだけと、お前が俺の首にしがみついていたから、仕方なくここに居たんだよ。」
ミーアの絶叫を聞き付けたマリンさんが扉を開けたままで生暖かい目をこちらに向けていた。
「朝御飯出来てるわよ。イチャイチャしてないで早く食べたら。」
「クマの胃袋亭」で顔を真っ赤にしているミーアと向き合って朝食を頂く。
一言も口を利いてくれないミーアを上目遣いにちらちら見ながら、どういう風に機嫌を取ろうかと悩む。
ミーアもちらちらとこちらを見ているみたいでたまに視線が合うんだけど、一瞬で目を逸らされてしまうんだ。
居た堪れなくなってマリンさんを見ると、クスクス笑っていた。
食事も終盤に差し掛かった頃、マリンさんがお茶を入れに来てくれた。
「なかなか楽しそうな食事ね。本当、羨ましい限りだわ。
ところで、今日はこの後どうする予定?」
「「楽しくなんて無いです!」」
2人でハモるように同じ言葉が出て、3人で目を合わせて笑う。
心底楽しそうなマリンさんの声に少しムカつきながらも、場の雰囲気が和んだのは助かった。
「昨日ラスクさんのところへ3日分の納品をしておいたので、今日は休養をとって、買い物でもしようかと思っています。
ミーアの服や身の回り品も要りますしね。」
とたんにミーアの目が輝いてこちらを見つめてくる。
「あっ、でもそんなに高価なものは期待しないでよ。」
「「それは余計な一言よ。」」
ため息を吐くミーアと俺にダメ出しをするマリンさんであった。
その後、ミーアがマリンさんに店の場所を教えてもらったりしながら小一時間、俺達2人は昼前に「クマの胃袋亭」を出て街に繰り出した。
楽しそうなミーアに比べ、俺は周りの警戒を怠らない。
なにせ、役人に突然拉致られ処刑されたり、式神の燕に命を狙われたり、でっかい蚊に殺されたりする世界だ。
人混みに入ったら何が起こるか分かったもんじゃない。
俺は危機察知を最大に設定する。
とたんに警戒音が頭の中に鳴り響き、悪意ある言葉が溢れる。
キャパオーバーした俺の脳はその稼働を中断、そして俺の意識は吹っ飛んだ。
「ロシ、ヒロシ、ヒロシってば!
もう、いつまで寝ているつもり?」
ミーアの怒鳴り声で目を覚ます。
たしか気配察知がうるさくて、目が回って…
「やっと起きた!せっかくの外出だっていうのに、突然倒れちゃうんだから。びっくりしたんだからね。」
どうやらクマの胃袋亭を出てすぐに俺は意識を失って倒れたようだ。
騒ぎを聞き付けたシモンさんが、俺の部屋まで運んでくれたそうだ。
「大丈夫?頭痛くない?」
心配顔のミーアに笑いかけ、大丈夫って答える。
窓から見える太陽はすでに少し傾いていた。
「ミーアごめんな。ちょっと気配察知を強くしたら、意識を持っていかれたみたいだ。
これから気を付けなきゃな。
そうだ、遅くなったけど、買い物の続きに行こう。」
俺はベッドから降りて、ミーアの手を取って、歩き出した。
階段を降りると、マリンさんとシモンさんが座っていた。
「もう大丈夫なのかい。ちょっと寝たらスッキリしただろう。」
マリンさんとシモンさんにお礼を言って外に出る。
今度は気配察知を最低に設定する。
それでもかなりの喧騒が頭に入って来るが、そのうち慣れて来るだろうレベルだ。
「さあ、行こうか。」
ミーアの手を握りしめて俺は大通りを歩き出した。