バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第3章の第51話 ノース・ヴォリィアス! 急性の心肺機能血流欠乏症



【シーサイドホテル(タラッタ ディプラ クセノドヒオ)】
そこは海の側に立つ大きなシーサイドホテルだった。それは立派な外観。
タラッタ ディプラでシーサイド。
クセノドヒオでホテルと読み解く。

【お食事処バイキング(エスティアトリオ バイキング)】
エスティアトリオでお食事処、レストランと読み解く。
バイキングはそのままバイキングだ。
そのバイキング形式の式場では――

「――そう言えば」
「!」
「2人は付き合ってるの?」
「「!?」」
それは少女からの何気ない質問。
それは当然の成り行きだった。
誰だって、この2人が付き合っているのかどうかが気になるところだ。
「そういえばそうだよな?」
「あの時、その子を押し倒してまで助けようとしたもんな!」
「フツーできねえよな?」
「ああ」
「やっぱり付き合ってるんじゃ?」
「「……ッ」」
これにはスバル君もアユミちゃんも、しどろもどろだ。
「あーっやっぱ気になるー!」
それはクコンちゃんも気になるところだ。
「……ッ……もう、いいですよね?」
「!」
この場に居づらいとばかりにスバル(僕)は、背を向けて逃げ出す。
「ちょっとごめんね」
アユミちゃんも苦笑いを浮かべて、手で制しながら体の向きを変えて、逃げ出す準備を図る。場を濁す感じだ。
「え~~」
「「「「「え~~」」」」」
気になるクコンちゃんに子供達。
と、当人たちは。
((居づらい……ッ!!))
心の中で見事にハモるのだった。
「あの人に言いつけますよ」
「――グッ」
それはアツシさんからの呼び止めで。
これには僕も一瞬振り返りつつ、やり辛く感じる。
ニヤニヤ
とアツシさんは笑みを浮かべつつ、こう尋ねてきた。
「……せめてこれぐらいは答えてください」
「……」
「……」
「ズバリ、お付き合いしてるんですか?」
「………………」
アツシさんからの問いかけ。
これには僕も答え辛い……ッ。
そこで声が上がったのが。

「付き合ってないわよ!!」

「「「「「えっ!?」」」」」」
「えっ?」
まさかのアユミちゃんからのものだった。
「この子とは長馴染み同然で! 特別付き合いが長い、特別な関係ってところね! ねっ!?」
「う、うん……」
1発解決。
アユミちゃんがそう答えたのだった。
「……じゃあね、行こっ! スバル君!」
「うっ……うん……」
アユミちゃんが、僕の前を通り過ぎていく。
この時僕は、情けなくも、何とも言えなくなっていた……。
で、出遅れた感じのクコンちゃんは。
「う~ん……」
と何とも言えない感じの顔を浮かべていた。
「付き合ってないんだ……」
「意外……」
「そんな奴が何で、あの時、押し倒せるんだ……?」
「不思議だ……」
「謎だ……」
子供達が疑問に思いつつも。
あたしは一言も発さず、手を振ってこの場を離れていくのだった。……じゃあね。


☆彡
――アユミちゃんを先頭に、バイキング形式の式場を歩く3人。
「……」
「……」
アユミちゃんは何も言わず、先頭を歩いていた。
僕はその間、もんもんと考えていた。気になるのはもちろん。
『付き合ってないわよ』
その言葉は、淡い僕の期待を……。
(この感情、なんて言うんだろうな……)
僕は顔を上げて、先頭を歩いているアユミちゃんの背中を見詰める。
(………………言わない方がいいんだろうなぁ……今のままの方が)
この関係が壊れるぐらいならば……。
「……」
戦闘を歩いているあたし。そこへ後ろから、「ハァ……」とスバル君の溜息が漏れるのを聞こえて。
あたしは前を向いたまま、まるで気づいていない様で、その足を動かしていた。
(………………)
でも、そんなあたしでも、この子の事が気にかかり、チラッ、と目線を後ろにこの子に向けようとしていた。
(……)
(……)
正しい答えなんてない。
あの場では、あーゆう他なかったの。
だから、あの場から離れられるチャンスが作れた……ホントよ。
もちろん、あたしとしても気になるところで……。
この時微妙に、あたし達の恋心はすれ違っていた。
「……」
「……ハァ……」
あたしの背中で感じられたのは、スバル君の重い溜息だ。
それは僕の、淡い恋心だ……。叶ったら……と心のどこかで思ってる。
でも、君というレベルが高過ぎて……僕が君に釣り合うようになるしかなくて……でも、そんなことができるんだろうか。
悶々と考えてしまう。
(いけないな……気持ちを切り替えるしかない……うん)
と。
そんな感じの声を背中で感じたあたしは、こう顔を振って、誰かを探す。
もちろん、探し人は恵さんのご両親だ。
「………………いないね……」
「んっ?」
「?」
先頭を歩いているアユミちゃんの問いかけに、スバル君、クコンちゃんと反応する。
そのクコンちゃんが一言。
「……誰が?」
「恵さん達よ!」
「あぁ」
クコンちゃん、アユミちゃん、スバル君と述べあい。スバル君の反応に、付き合いの長いアユミちゃんが反応を示す。
「!」
「そうだよね……。恵さん達……、……どこにいるんだろう……?」
とアユミちゃん、クコンちゃんと呟いていき。
その中で、僕は危機感知能力でそれを拾う。
「……ここにはいないよ」
「どこに……んっ?」
やっぱりかぁ~~……。
思わず口ごもるクコンちゃんに。
アユミちゃんを先頭に、立ち止まっていく3人。
そして……。
「「「………………」」」
「「……え!?」」
少女達が、相中にいる少年に振り返る。
「だって、ここにはいないもの! ……ッ……気配も感じないし……!」
少女達に見られて、おずおずしていく少年。
「……」
「……」
「「そーゆう事は先に言って!!!」」
「ヒィ~!?」
激おこのアユミちゃんとクコンさんの2人に、僕は叱られるのだった。何でだよ……グスンッ。


☆彡
【売店(カタスティマ)】
カタスティマで売店、ストアとも読み解く。
そこはアンドロメダ星の土産物市の売店だった。
そこにいるのは、店員さんを初め、恵パパさんにママさん、後は少なくない従業員の方々と、生徒さんたちだった。
「へぇ……宇宙にはこんなものがあるんだ……!」
「いろいろあって、どれを選んでいいのか……楽しめるわね」
「うむ!」
――とそこへ。
「恵パパさん! ママさん!」
「「!」」
その声が聞こえ、振り向いた先にいたのは……。
スバル君達3人だった。
そのスバル君は手を挙げていて、私たちの元に歩み寄ってくる。
とおまけに。
「「!」」
アユミちゃん、クコンちゃんの2人が、反応を示したのは――
「――それなんですか?」
それは、今私達が持っているお土産だ。
「ああ……珍しいものがあったからね……!」
宇宙はホントに広い。
「………………」
目聡いスバル君は、その御土産を目にしていた。
そして、その同じものを探すように僕は、棚の方に視線を向ける。
(……あれか……!)
一応、そのお土産の名前と形と色を覚えておこう。名前こそまだ読めないが、今はとりあえずそれぐらいしかできないからだ。
「……」
そう、認める……と。
「元、ホテルのオーナーだからかな!? お客様受けには何がいいのか……こうした視点に立ち、考えていたんだよ」
「「へぇ~……」」
「……」
感心の声を上げる少女達に、見詰める僕。

――とそこへ。
「――ねぇちょっとあれ!?」
「ウソーッ!? 有名人!!」
「――!」
どこからか驚きの声を上げる黄色い声が聞こえ。
――振り向いた先にいたのは、何とも可愛らしい少女達だった。
(女の子……!? 当たり前か? 生徒たちがここに多くいるんだから……)
そんな事を僕が考えていると。
「ちょっと声をかけてみようよ」
「え~ドキドキする~」
そんな可愛らしい声が上がる。
とこれを見ていたクコンちゃんが。
「有名人さんも大変だねぇ~」
「ハァ……」
それは口撃だった。嫌味交じりで、からかうクコンちゃんに。
溜息をつくばかりのスバル君。
「フフッ」
「!」
その笑い声の主は恵ママさんだ。
「人気者も大変ねぇスバル君」
「なんで僕ばっかり……」
これには僕も気疲れを起こしていた……。
それを見るに、恵ママさんにパパさんのお二方は。
「……」
「……」
その顔を見合わせて。
「……」
「……」
少年と、あちらにいる少女達に目配りして。
こっちにおいでおいでと促す。
「「「「「……」」」」」
「「……」」
その少女達は自分達の顔に指を指して。
恵ママさんとパパさんは小さく頷き得る。
「!」
そっ
と少年のその背中に手を置いて、こう語りかける。
「スバル君! あの子達、君に関心があるみたいだから、ちょっと相手してあげたら?」
「えっ僕がー!?」
「ええ、人付き合いを覚えるのも、これから先の事を考えるうえで、とても重要なお仕事よ」
「……」
「ねっ!」
「……うん……」
「……」
元気がない返事を返すスバル君。きっと嫌々なんだろうな。
でも、ここは大人として、しっかりこの子を導かないといけない。君が最大の頼りなのだから。
恵ママ(あたし)達は、小さく頷き得る。
「あたし達の事は、あの子達が行った後でいいわ」
「……」
これには僕も小さく頷き得る。
まず、この子達の相手をするか。
僕には、この時わからなかったが、恵さん達は、順番を、先にこの子達に譲ったのだ。
これが大人の気遣いとわかるのは、いったいいつなんだろうか。

「えーと初めまして」
「会場でスピーチを行っていた人ですよね?」
「はい」
彼女達の質問に答えるスバル(僕)。
「見てました!」
「お強いんですね!」
「うっ、う~ん……」
これには言い淀んでしまう。
お強いと呼ばれたけど、実際僕はあの子には手も足も出なかった……。しかも、思い切り手加減されていた。
これには僕も、対応に難儀してしまう。
とここで、アユミちゃんが。
「あなた達は?」
「あっ、私は長崎学院の【服部チエ】といいます。でこっちの子が」
「【辻田】と言います」
「あたしは【武田】です」
「【森】です」
「あたしは【和田】です」
名乗りを上げたのは、服部さん、辻田さん、武田さん、森さん、そして和田さん。少女達6人中5人だ。
後ろのあの子は、陰になっている。
とここで、この子達のリーダー格と思しきチエさんが。
「あたし達は仲良しグループなんです!」
とハキハキと、明るく言い。
僕はなんとなしに、「ふ~ん……」と思うのだった。
その心の内では。
(この子も結構可愛いな。……アユミちゃんと同じアイドルタイプかな?)
「?」
そのチエさんも、僕のなんとなしを感じたのか、可愛らしく首を傾げる……と。
「……とあれ? クコンちゃんじゃん!」
「!」
「……知り合い?」
チエさん、僕、アユミちゃんと述べて。
「……まぁね。簡単に言うと学生寮で一緒の班分けになった事がある子達よ」
「事がある……?」
「……勘がいいわねアユミちゃん!」
「……」
クコンちゃん、アユミちゃん、クコンちゃん、僕と述べて。
クコンちゃんの口から語られるのは。
「簡単に言うと……。固定された班分けじゃなく、1か月単位でバラバラになって班を組み直すようなものね。
長崎学院では、6年生は全部で6クラスあって、1つの班にそれぞれ別のクラスの子達が集まって、1つの班として、学生寮に住みついているの。
最大の目的は、……そう、ちょうどそこにいるその子みたいなものね!」
指を指すクコンちゃん。
その指さした先にいたのは、明らかに他の子達とは毛色が違う、外国人の女の子だった。
「君は……」
「……」

【ノース・ヴォリィオス(11歳の小学6年生)】
金髪の長い髪、整った顔立ちに、サファイアブルーの紺碧の瞳、そしてこの場にいる長崎学院生と同じ学生服。
傍目から見ても、美少女といっても差し支えない。
その少女はオドオドしていた。

【――その少女の立ち振る舞いは、自分に自信が持てないような様で、周りの状況についていけず、緊張しているようだった】
【それは傍目から見ても、周りに馴染めない僕に似てる……】
【とそこで、見かねた恵アヤネさんが】

「ちょっとこっちにいらっしゃい」
「!」
おいでおいでする恵ママ。
「………………」
コクッ
と小さく頷き得た外国人の女の子は、こちらに歩み寄ってくる。

「――名前を聞かせてくれる?」
「……『ノース・ヴォリィオス』」
その少女の名前を聞いたアユミちゃんは「変な名前……」と呟き。
その名前を聞いた僕は、「ヴォリィオス……?」となぜか疑問を覚えながら、その名前を呟く。
その少女は、この時、少年スバルの顔を見詰めていた。
「………………」
ほくそ笑む少女。
そして、恵ママさんが。
「ノース・ヴォリィオスちゃんねよろしく!」
「……――!」
僕の後ろにいる恵ママさんが、そう語りかけ。
僕の背中を、トンッ、と優しく押してあげる……と、おっとっとっとっ……と、圧された僕は、前のめりに出て、彼女の目の前に。
「……」
「……」
見つめ合う2人の視線。
僕はちょっと、視線を恵ママさんの方に向けて。
「……」
きっとこう言いたいんだろうな、挨拶してきなさいと。
だけどこれには僕も、ちょっと……。
(う~ん……弱ったなぁ……)
と思いつつ、頭をかきながら彼女に詰め寄る。
最接近。
「……」
「……」
僕は、試しにその少女の胸元に手を差し伸べて。
「『スバル』です、よろしく」
「……」
僕の方から、彼女に握手を求める。
その行為は、友愛、友好からだ。
「……」
その少女は、その少年の握手を見詰めていた。
僕は思わず、握手を返してこない彼女に対して。
「……?」
「……」
不思議に思ってしまう。
見詰める視線。
ス――ッ……
と今度は、彼女の方から握手の手を伸ばし、
僕たちは、握手を交わし合う。
「『ノース・ヴォリィオス』です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

――この時、少年は何かを感じ取る。

「――?」
「――」
「……」
「……」
何だこの感じ。
とそこへアユミちゃんが。
「ちょっとスバル君!! いつまで女の子と手を繋いでるのよ!!」
「!」
その時、アユミちゃんからの叱責が飛んだ。
これには僕も慌てて、その少女との握手から手を離したんだ。
でも、アユミちゃんはこの時キツクて。
「やらしい」
「えええっ」
アユミちゃんから変な目で見られた。
これにはこれで、僕も非常にショックだ。
「………………」
「うん、やらしいわね!」
「えええ、クコンさんも!?」
「ええ、胸元なんか見て……」
「……」
「ウッ……」
ヴォリィアスちゃんに、厳しい意見を飛ばすクコンちゃんに、如何わしい視線を投げかけるアユミちゃんに、責められているスバル君と。
とその時、ヴォリィアスちゃんが、
チラッ
と他の子達を見た時。
その少女は額に手を当てて、いかにも辛そうにしていた。
「……」
それはまるで、熱があるかのような様子だった。
その様子、異変には気づかないで、恵ママさんがみんなにこう問いかける。
「みんなは、スバル君に何か聞きたい事でもあるのかしら?」
「「「「「! ありますあります!!」」」」」
「どうして宇宙人と一緒にいたんですか!?」
「どうやって宇宙船を手配したんですか!?」
「あの戦いはワイヤーアクションか何かですか!?」
「魔法ってどうやって使っているんですか……!?」
「隣の人は彼女ですか?」
等々。
ヴォリィオスちゃんは無口そのもので、
「………………」
だった。
これにはスバル君も慌てていて、
どうどう
と少女達をなだめて、落ち着かせようとしていた。
「待って待って! 1個1個ずつ答えるから!!」
これには僕も、目まぐるしいぐらい、
「ヒィ~~」
と慌てていた。
そして、恵さん達夫婦は。
「どうやらあの子は、人気者になるのは向いてなさそうね……」
「あぁどちらかと言えば、陰でひっそりしてる方が、落ち着く子なんだろうな」
スバルの個性を、この時見抜く恵さん達。
恵ママさんが。
「……大丈夫かしら?」
「? というと?」
「いやね、人選間違いなんじゃないかって……」
「あぁ……確かに……。私が見ている限りでも、あの子は少なくとも世渡り上手とは言えないな……。どちらかと言えば、すぐにボロが出る方だ」
「……」
やっぱり、と思いつつ嘆息しちゃう恵ママ。
「周りが上手く補完し合うしか手がないな。……だがその代わり……!」
「?」
「もしかしたらあの子は、持ってるものは持ってるかもしれない」
「………………」
その持っているという正体はわからない。
だが、私達はこの時、それを感じ取っていたんだ――


☆彡
――その頃、シャルロットさんは、ヒースさんとクリスティさん達と合流していた。
ヒースさんを初め、みんなから事の経緯を聞いたシャルロットさんは。
「――なるほど、そーゆう事なんですね。王女様」
「――えっ?」
――と振り返るクリスティさん。
だがそこには、誰もいない……。
これは見えないからどうしようもなく、推論づけるしかない。
(もしかして……、……聞かれていた……?)
「フッ……」
と笑みを浮かべるアンドロメダ王女様。
(宇宙人って……一体ホント、一体全体、どうなってるのよ……ッ!!)
これにはあたしも頭を悩ませるばかりだ。
宇宙は広い、エナジーア生命体がいても、何ら不思議ではないのだ。
とそんな様子を見かねて、シャルロットさんが、クリスティさんにこう問いかける。
「? ここではクリスティさん」
「はい?」
「あなたが宇宙人ですよ!」
「……えっ……?」
これにはあたしも呆けてしまう。
だけど考えてみれば当然だ。
ここはアンドロメダ星、アンドロメダ星人たちがここに住んでいるのは当たり前で、余所者はあたし達なのだから……。
あたし達こそが、ここでは宇宙人なのだ。
「ここでは、あなた達地球人が、今一番話題性を集めている、珍しい種族なんですよ! ……難民移住してきたね」
「………………」
これにはあたしも、何とも言えない表情を浮かべてしまう。
顔がヒクヒクしてきた。
「で、病院の人に話して、あなたとスバル君の治療の準備を進めています。……後ほど伺いましょうか!?」
「……はい。お手数をおかけします」
にこっ
とシャルロットさんはいい笑みを浮かべる。
あたしは今、
(下手に考えない方がいいわ……)
とあたしは気疲れを起こしていた。
場や状況についていけない……。
思わず、「ハァ……」と溜息をつきたくなるほどだ。
と、シャルロットさんがあちらがわに視線を向けて、こう言葉を零す。
「……スバル君は、まだ食べていないようですね……」
「?」
「……そのようだね。アイちゃんと戦った頃と比べると……戦闘力が落ちてきてる……。きっと食事も取らずに、知り合いのところへ移動してるみたいだね」
「そっ、そんなところまでわかるのッ!?」
「ええ」
「はい」
シャルロットさん、あたし、ヒースさん、あたし、シャロットさん、ヒースさんと述べあい。
あたしは思わず、「……宇宙人って、ホント変……」って呟くと。
「……」
「……」
お2人は苦笑いを浮かべていた。
きっと、心の内でも読んでいるのだろう。ホント、プライバシー侵害だわ。
と、そんなあたしをまるで意に介さないアンドロメダ王女様が。
「パワーにいくつかゆらぎあるな」
「ゆらぎですか? 王女?」
「ゆらぎ?」
「うむ……! 誰か体調が思わしくない者がおるようじゃ。……少し移動しようか」
「「はい!」」
「???」
これには目に見えず聞こえもしないあたしは、シャルロットさん達の問い返しを聞きながら、推察するしかなく、まるでチンプンカンプンだった。


☆彡
――可愛らしい少女達の質問攻めが終わったスバルは。
(……つ、疲れた……)
気疲れを起こしていた……。
少女複数人対スバル1人、1人1個答えるのではなく、2つも3つもきて、こっちは相当辛かった……色々、ある事ない事聞かれて、キツイ……ッッ。
「キャッ、キャッ」
「キャッ、キャッ」
彼女達は有名人と接して喜んでいた。その時――
ググゥ~~
と誰かの腹の虫が鳴り。
「!」
「!」
「!」
少女達が、アユミちゃん達が、恵ママ達が、音の出所に振り向くと。
「腹減ったなぁ~」
ググゥ~~
ともう一度、スバル君の腹の虫が鳴るのだった……。
「えっ!? 有名人なのにまだディナーを頂いていらしゃらないんですか!?」
「そーだよ……! 僕、宇宙船にあったセラピアマシーンから出た後、ろくなものを口にしていないんだよぉ……」
「そ、そう言えばそうだったわね……仕留めた怪物のお肉は、みんなで分け合うし……」
「肝心のあなたは、ロクに食べてなかったわね……」
「うん……つまみ食い程度だよ」
(((((………………つまみ食い有名人……)))))
みんなが心の中でそんな事を思っているとき。


「ヘックシ!」
星王ガニュメデス様が、つまみ食いしてらっしゃった。
「間食もほどほどにしてくださいよ……」
これには彼を慕う部下も、嘆くほどだ……。


ググゥ~~
と3度目の腹の虫が鳴るのだった……。
僕は、「お腹が空いたなぁ~~」とお腹をさする。
少女達の1人は、そんな僕の様を見て、こう尋ねる。
「セラピアマシーン……?」
「! ……あぁ。機械の中に入って、回復液に浸かるやつだよ。僕はその水に全身漬かって、今日までずーっと寝てたんだよ」
これには少女達も、
「えっ!?」
と驚く。
「その後すぐに星王様に会って、色々手続きを行って、契約書にサインをして、派遣されていた宇宙船をすべて、この星に移動させてもらって。
……あの後、スピーチをして、今に至るんだよ!」
ムスッ
とするスバル君。
「……他に何か聞きたい事ある?」
「あの色々手続きって?」
「契約書にサインって……なに?」
「はぁ……。地球人代表が僕だから、僕のサインがいるんだよ……。
それを、地球、アンドロメダ星、アクアリウス星、ソーテリア星間で連動手続きを行って、
すべてのファミリアの頂点であるプレアデスファミリアが見届け人として、たまに同行してるの」
「……」
これには少女達も言葉を失う。
予想の斜め上をいくスゴイ有名人だった。
だがスバルは、そんなすごい事をしているのに、まるで気づいてる様子がなく、平然と語っていた。
むしろ、当たり前みたいに。
これには僕の後ろにいた、恵さんご両親たちも、ただただ言葉を失っていた……。
「……」
「……」
いや、むしろ、驚き得ていた。
少年が無自覚であることに対して――
「後これは内密だけど……。後で色々と手続きの話と契約書の話も出てくる。要はそーゆう事なんだよ……まだ何か?」
「えーと……なんて言いますか……」
「色々と凄過ぎというか……」
「う~ん……?!」
僕には、その言葉の重みがわからない。
彼女達は、ただただ驚きの感想を述べる。
「あたし達と同じ子供なのに」
「もう、働いてる……?」
「………………」
さすがのヴォリィアスちゃんも、無口だった。
驚いているのか、驚いていないのか、よくわからない子だ。
と僕が。
「う~ん……どうなんだろう……? 王女様を初め、父王様やアクアリウス星の王様、ソーテリア星の女王様とも話した事があるし。
以前にも、宇宙の法廷機関の場でプレアデス星の女王様とも話したことがあるし……。
……それが何か?」
「……」
「……」
「……」
淡々とした様子で、まるで有り得ないぐらいに、当たり前のことを述べる少年。
これには少女達も、
恵のご両親たちも、
そしてアユミちゃん達も、何も言えなくなる……。
ものすごい鈍感だ。天然ものだった。
思わず、クコンちゃんも。
「スバル君って意外とすごいよね……?」
「うん……」
そのすごいは、どーゆうスゴイなのだろうか?
天然物の鈍感か、それともすごい奇跡を起こした事だろうか。
いや、きっと全部だろう。

フラッ……フラッ……
とその時だった、誰かが突然倒れかかり――そのままバタリッ……と倒れ込んだのは。
「!?」
「え?」
これには僕達も驚く。
場に、沈黙の間が流れる……。
何と倒れたのは、少女達の友人の1人だった……。
時間が止まったように流れた後。
きゃあああああ
少女達の悲鳴が響き渡る。
すぐに動いたのは、恵ママさんだった。
「ちょっと退いて!!!」
「!」
あたしは、一番近くにいたスバル君を退けて前に出る。
それは大人として、ホテルの女将として、この子達の一時的な保護者として、この身が動いたの。
すぐにこの子の状態を確認する。
「ハァッ、ハァッ」
「! これは……ッ」
彼女は、呼吸が荒く、赤い顔で大量の汗をかき、苦しんでいた。
「ハァッ、ハァッ」
「……こっ、この症状は……!?」
「ハァッ、ハァッ」
「……ッ」
それは見慣れない症状だった。
あたしには、医学的知識がない、せいぜい家庭でできる医療程度だ。
医療経験がない……ッ。
この場にお医者様がいると、どんなに心強いことか……。
だけど、ないものねだりしてもダメね。
あたしが顔を上げると……。
「!」
周りの彼女達も、顔が赤くなっていた……。
同じ症状!?
(……病気じゃない……?!)
まさか、この子達全員共通の症状!?
「……ちゃん、大丈夫……? ハァ」
「ええ……ハァッ」
「あなた達、顔色が……」
「!」
「!」
少女達、アユミちゃん達と顔色を伺う。
「!?」
「どうしたの顔色が赤いよ!?」
「あなた達こそ」
「えっ……」
「……」
様子を伺う恵ママ。
「……この症状はいったい……」
「ハァッ……ハァッ……く、苦しい……ッ」
床の上で倒れた少女は、苦しみの声を上げながら、自分の乳房を掴んで、握り潰していた。
ホントに辛そうだ。
あたしの腕の中で抱こうとしたが、そんな事は無理だ。
あたしはこの星にきたばかりで、この重力の重みに耐えきれない。
いえ、まずはこの症状を。
「……な、何が……」
「……」
原因不明の病。
不治の病である可能性もある。
ここにいる期間の長い僕としても、こんな症状見覚えがなかった……。
「……ッ、失礼します」
「ハァ、ハァ」
試しに僕は、その彼女の腕を握ると……。
じんわりと。
「! 凄い汗……ッ!!」
思い切り、発汗していた。異常、体温だ。
僕は、掴んでいた彼女をの手を降ろしながら、手を放し――
(――……おかしい、少し前までは、何ともなかったのに……ッ)
これには僕もビックリだ。
恵ママさんもその様子を見かねて、驚いていた。
(スバル君も知らない症状という事……!? だとしたら未知のウィルス……!? だとしたら少しでも……!!)
決心を固める恵ママ。
「スバル君!! そっち側を持って!!」
「えっ……!?」
「彼女をあっちにある、ソファーまで運ぶわ!! 協力して!!」
「――……はっはい!」
僕が、恵ママが見ている顔の方向に目を向けると――そこにはいくつかのソファーがあった。
これには僕も思わず、そう答えたんだ。
適格だと思われる、恵ママさんの指示が飛ぶ。
「スバル君は足を持って!! 運ぶわ!!」
「……」
コクリ
と頷き得るスバル君。
彼女の今の体重、少なくともあたし1人では運べないわ。
女2人でも難しい。
男の子がいて助かった。
恵ママに促された僕は、彼女の足元に回り込んで、その足を掴んだところで――

「――待ちなさい!!!」

聞き覚えがある声がした。
僕達がその声の主に振り返ると、そこにいたのは――「――クリスティさん」達だった。
アンドロメダ王女様を初め、L、デネボラ、レグルス、ヒースさん、そしてシャルロットさんの姿がある。
僕はシャルロットさんの姿を見て。
(帰ってきてたんだ)
と心の中で思った。
とその中から、クリスティさん達を先頭に歩み寄ってきて。
「……」
「……」
あたし達は、その歩みを邪魔してはいけないとばかりに、人だかりが道を開けていく。
そのクリスティさんが、病床人の前で、こう宣告する。

「彼女の症状は、『急性の心肺機能血流欠乏症』よ!!」

驚きの病名が告げられた。
それは地球人の歴史上、初事例だった。
「!?」
「……え……!?」
それは大人であれば、なんとなくの察しがつくが……。
ここにいるのは子供達、まるで訳が分からない。
僕が、その少女に手を伸ばそうとしたところで。
「触ちゃだめよスバル君!!!」
「ッ」
「!」
女医のクリスティさんの指示が飛び。
僕の手が止まり。
すかさず恵ママが、その手をパチンと払う。
痛てッ。
恵ママさんはそんな僕に対して、キツイ顔つきで、注意を払っていた。
「………………」
クリスティさんが、その病床人の前で、足を曲げて、その症状を診る。
「………………」
その頃僕は、叩かられた手を労わっていた。
彼女の診断が飛ぶ。

「――やっぱり、『急性の心肺機能血流欠乏症』ね……」

「ハァッ、ハァッ」
「それって……」
「ええ、貧血による立ち眩みね」
「立ち眩み……がここまで重篤化するんですか!?」
「ただの立ち眩みと馬鹿にしちゃいけないわ!」
「!」
「あなた達にわかりやすく言えば、血管の中にプラークができて、プラークというのは血栓なんだけど……。血の障害物みたいなものね。
そのプラークができたことで、血流に乗って運ばれて、脳に行きつく……!
それが原因で痛みを発症し、立ち眩みや目まいが起り、やがて、意識障害に通ずることがある……!」
(……この人は誰よりも詳しい。いったい何者なの……!?)
恵ママ(あたし)がそんな事を考えていると。
「……!」
見かねたこの人は、友人と思しき少女達に振り向いて、こう注意喚起を促す。
「あなた達も、どこかで横になりなさい! 今ならまだ間に合うわ」
「「「「「え?」」」」」」
「でも、横になる前に……そうね、どこかで水を飲んで摂取してね! 二次被害に繋がるから……」
「「「「「……!?」」」」」
「「?」」
これには少女達も、アユミちゃん達も、訳がわからない。
この人の注意喚起が続く。
「そうね……。飲み物はスポーツドリンクがいいわね」
とここで恵ママ(あたし)が、彼女にこう尋ねる。
「……これに心当たりがあるのですか!?」
と。
「ええ! 原因は間違いなく、重力の環境下に置ける、心肺機能の異常動作不良ね!」
「心肺機能……」
「心臓のポンプ機能が過剰に働いて、不整脈を起こしているのよ! 全身に酸素が行き渡らず、脳にまでダメージが行った……!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「脳!?」
これには恵ママ(あたし)も、バッと倒れた少女に振り向いた。
「ハァッ、ハァッ」
彼女の診断が飛ぶ。
「今はステージ2ってところね!! でも、大丈夫!! あたしがいるから!!」
「あなたは?」
「……」
あたしは懐から、『医師免許』を取り出して全員に見せる。
「!」
「「「「「!!」」」」」」
「あたしは医者です!! 皆さん、あたしの指示に従ってください!!」

【――そこからは迅速な対応だった】
【彼女1人現れただけで、どうしていいのかわからなかった沈黙の場に、風が吹く】

「患者は動かしてはいけません!! 頭を動かす行為もダメです!! 誰か氷の入ったボウルとおしぼりを大量に持ってきて!!」
「お、おしぼり!?」
「ええ、全身の血が足りず、脳にまで十分な酸素が行き渡っていないなら……」
あたしはスバル君を見て。
「スバル君は男の子だからアウト!!」
「え……!?」
あたしは医者として、彼女に視線を向ける。
彼女は女の子だ。
恥ずかしいところを、男の子に見られてはいけない。
だから、こう助けを求める。
「――あなた達!」
「!」
「誰でもいいから、この子の足を胸の高さまで持ち上げて!」
「!?」
「下に溜まった血流を、上に持ち上げる事で、全身に行き渡らせることができるわ!! 急いで!!」
「はっはい!!」
女医クリスティに促された少女達は、彼女の意思に従い、友人の足を持ち上げて、胸の高さまで上げた。

【彼女1人いるだけで、全体の場が回り、周りの生徒達を初め、このホテルの従業員達や、一般の宇宙人たちの目に止まるほどの注目を集める】
【――その後、矢継ぎ早に飛んでいった彼女達が、氷の入ったボウルとオシボリを持って帰ってきて】
「ありがとう」
【と告げ、彼女からそれを受け取る】
キンキンに冷えたボウルの中に、オシボリを入れて。
「これを冷えた患部に当てる事で、過剰な血流な流れに乗って膨張した血管を、正常範囲まで落とす事ができる……! ……あなたたちも良くやり方をみて覚えてなさい!!」
「はっはい!!」

【それを患部に当てていくクリスティ】
【彼女の医学的知識が、患者さんを救う】

「一番重要なのは、血管、静脈、神経が最も集まった首筋から当てていく!
この時、寝かせた患者さんと床との間に少し浮かせて、
冷やしたおしぼりを忍ばせる!
これにより、血流の確保と軌道の確保を同時に行う事ができる!!
………………。
また、枚数を重ねることで、高さ調整もできるから、子供から大人まで幅広い世代にまで、対応できるようになるわね!」
「……」
「……なるほど」
頷き合う彼女達に、なるほどと恵ママさんの感心の声が飛ぶ。
「……」
僕もそれを見ていた。
「首と頭を確保したことで、呼吸は確保できたことになる!
次に大事なのは、脇の下に冷えたオシボリを入れる事……だけど……」
「……?」
「……」
「……」
女性達一同、スバル君を見やる。
「スバル君の……H」
「えええ?」
「ちょっと向こうに行って!!」
「変態!!」
「ガ~~ン!!」
ガックシ……
とさっきまであんなに彼女達は、僕を持ち上げていたのに、一転して責められた……。
これには僕も、首を折る思いだ……。
とクリスティさんが、恵パパさんにこう尋ねる。
「……あなたは、この子のお父さんか何かですか?」
「いいえ、以前、私達のホテルに泊まっていた子です」
「主人は元ホテルのオーナーですよ」
「あぁ、そう言えばそんな事言ってましたね……。では、このホテルに泊まっている彼女達や男子生徒さんたちの、一時的な保護者扱いで間違いありませんね?」
コクリ
と頷き得る。
「う~ん……」
これには一考の価値があると考える女医のクリスティさん。
もしかしたら、使えるかも……。
「あたしが考えるに、あなたは周りから頼られている立場です!」
「……」
「あなたの指示には、周りも従う事ができるかと……!」
「! ……」
それは力強い言葉だ。
あなたにお願いしたい、一緒に多くの生徒達を救う一助を担って欲しいと……。
「……」
「……」
あたしと、恵パパさんの視線が合い。
「……」
「……」
奥さん、彼女達が頷き得ていく。
決まりだ。
私は意を決したように、その眼を開けて、この女医さんを信じた。
コクリ
とこれにはあたしも、了承の同意を得たように、頷き得る。
「……うん! そこでどうでしょうか!?」
「!?」
「……このやり方を見て、他の人達に教え合ってくれませんか? 後でレクチャーをお願いできますか?」
「……わかりました。お任せください!」
「……」
合意を得た事で、小さく頷き得る女医のクリスティさん。
恵ママ(あたし)はその様をみて、ほくそ笑んでいた。
と。
「……で、スバル君、いつまでここにいるの?」
「……ちょっとあたしと向こうに行こうか?」
「うん……」
クコンちゃんからの注意が飛び、気を利かせたアユミちゃんが、スバル君を連れ出していくのだった……。
とクコンちゃんが、僕の背中から苦言を飛ばす。
「……まるで役に立たないわね……!」
と毒舌を吐くのだった。
「……」
「……」
その言葉を背中で感じ取っていたスバル君とアユミちゃんの2人は。
(誰ができるか……!!)
(あんな医者の真似事、あたし達には無理だって……!)
その心中は決して穏やかではなかった……。
少年と少女達が、そんな事を思い浮かべながら、少年を連れ出していくのだった。
「……」
「……」
その情けない様を見送るは、アンドロメダ王女様達。
これにはLも、なんとも言えない表情を浮かべていた。
とここでシャルロットさんが。
「……ヒースも男ですよね?」
「!」
「……」
ジト~~ッ
と周りから、如何わしい視線が、女性中心の白々しい視線が殺到す。
これにはたまらず男性のヒースさんも、タジタジだ。……汗々。
「……ッッ」
苦虫を嚙み潰したような面持ちをするヒースさん。
とそこへ――
「――いいえ、その人はここにいてください」
「!」
それは女医クリスティさんからの提案だった。
「え……!?」
「!?」
なぜ? 男性の僕にはわからない。彼女の真意を読む……までもなく。
「使えます! 医者のあたしが見るに、あのスピーチ活動や、派遣された宇宙船には、ヒースさんやシャルロットさん達の力が大きく関わっていました!!」
「!」
「!」
「必ず役立つはずです! だからここにいてください!! ……ここからは、女クリスティとしてではなく、医者としての意見なんですが……!」
「……」
あたしは病人の彼女の口元付近に、手を当てて、その息遣いの強弱を図っていた。
「ハァ……ハァ……」
その呼吸は、安定し出していた。
彼女の適切な処置のおかげだ。
「……こうした症状は、このホテルだけではなく、各・難民地区で起こっているはずです!」
「「「「「!」」」」」」
「!」
「1人でも多く救いたい! これが医師の在り方です! ……なので、ここで、そのやり方を見て、他の人達に教え合ってください……ませんでしょうか!?」
「……」
と言いなおすクリスティさん。

【――彼女は紛れもなく医者だった】
【これには男も女も関係なく、命の尊さを考えさせられる】
【命はたった1つしかないのだから……】
【この場の主導権は、彼女にあった】

「でも、彼女は女の子なので……。……後ろを向いて、眼隠した上でお願いします。……決してこちらを見ないようにお願いします、男性の皆さん」
「「あっ……はい……」」
にこっ
と微笑みを浮かべる女医。
【一応、女の子なので、と釘だけは差しておく事は忘れない】
【それからは、女医クリスティの指示の下、この症状に対する適切な処置が下されていく】
【そして、これを見ていた多くの人達は、女医の評価を改めるのだった――】


☆彡
あたしとスバル君は、革張りのソファーまで移動し、腰を下ろしていた。
あたし達の目線の先には、女医のクリスティさんが何やら言葉を発し、みんなに話していた。
いったい何を話しているんだろう。
「……! ……!」
だけど、ここまで離れていれば、その声を拾う事はできない。
あたし達には、その様子を伺う事だけしか……。
「……」
「……」
訪れるのは静寂……。今のあたし達には、何もできることはない。
と、スバル君の口が開く。
「……あのクコンってやつ」
「?」
「……僕に怨みでもあるのか?」
「……」
「『まるで役に立たないわね』……って……!!」
スバル君は、あたしの隣でプンプン怒っていた。
とその時。
グクゥ~~
と今度は、あたしの腹の虫が鳴ったの。
これにはあたしも恥ずかしくなり、顔を赤らめてしまう。
そのスバル君の視線は、あたしのお腹を向けられていて。
「………………」
「………………」
微妙な間。
これにはスバル君も、コホンとワザとらしく咳き込んでしまう。
恥ずかしい……。その顔はあっちを向いている限り、あたしの事を気にして、配慮してくれているのだろう。
(少なくとも、あたしを女の子として見ているのかな……?)
と。
そのスバル君は、あっちを向いたまま、「……腹減ったね……」と呟き。
あたしも「うん……」と答えるばかりだ。
そのスバル君の視線が、あっちから正面に向き、「いつになったら、……喰えるんだろう……?」と。
「……」
「……」
あたしとスバル君の間に、間が空き。
あたしは、
「……そ、だね……」
と答える。
スバル君は何も言わない。
「………………」
言葉は続かない。
あたし達は、2人ともお腹がすいてたんだ……。
「……」
「……」
あたし達の視線の先で、何事かを考え込んでいた風のクリスティさんは、その案をみんなに話していた。
「……」
「……」
アユミちゃんのその眼には見えないが、
僕には見える。
僕の目には王女様が頷いて、デネボラさん辺りに指示を飛ばしていた。
「……何話してるんだろう?」
「……さあ?」
アユミちゃん、僕と言いあう。
でも、これだけ距離が離れているんじゃ、まるで何も聞こえない。
「……ねえ、スバル君の魔法で聞けないの?」
「そんな魔法、まだ教わってないから……」
「そうなんだ……」
あたしは小さく頷く。
そんな便利な魔法、あるんだろうか。
「……どんな魔法を使えるの?」
「重力魔法、氷、炎、風のちょっとしたやつと、あと雷くらいだよ」
「ふ~ん……凄いね」
あたしは感心しちゃう。よくぞ短期間で、そこまで覚えたものだ。
「ハァ……どうだか……。みんなはもっと強いよ! 僕もまだまだで、新しい魔法は氷瀑くらいだし」
「氷瀑?」
「氷の爆発だよ。極めれば凍結する事だってできる!」
「へぇ~氷瀑!」
興味を持ったあたしは、試しに手を前に突き出して。
「爆発しろ! あたしの氷瀑!
………………
………………
………………」
恥ずかしい沈黙の間が流れる。
「……ってできるわけないかぁ……」
これにはあたしも、ダラリ……とその手を降ろすだけだ。
「……」
僕はその降ろした手の動作を見ていて、アユミちゃんにこう言葉を投げかける。
「そもそもアユミちゃんは、まだ魔力を開発していないもの」
「? 開発?」
「目覚めていないってこと。魔力が目覚めても、コントロールを覚えないといけないし……。
それを習得してようやく、魔法の詠唱を経て、魔法ができるようになるもの」
「へぇ……」
感心を覚えるアユミちゃん。
「聞かせて! どうやってできるようになったのか!?」
「いいよ、アユミちゃんなら……!」


【――それから僕は、アユミちゃんに語り出すのだった】
【このホテル内にいる誰よりも詳しく、君にだけ教える】
【語り出したのは、Lとの出会い、1番最初の物語から】
「……」
何度も頷き合うアユミちゃん。
「……」
語り手のスバル君。
【今だから語ろう、君と一緒に、昔話に花を添えて】
【あの時、あの場には、Lがいて、見えません聞こえませんでしたと嘘をついたこと】
【そして、あの時、レグルスの魔の手から救ってくれたのは、いや、護ってくれたのは、他でもないLだという事】
【アユミちゃんが炎の海に囲まれて、絶体絶命のピンチの時――】
【その頃自分は、木の下敷きになって、足の骨が折れて、危うい場面であり】
【Lがその小さな体で何度も往復もして、その命の水を、その小さな手で掬い上げて、何度も僕の口に流し込んでくれた事】
【君の命が危うい時、奇跡的に、僕とLの波長が合い、生まれたのが奇跡の戦士、彩雲の騎士エルスだという事】
【僕はその当時の様子を振り返り、できるだけ詳細に教える】
「……」
「……」
【そして、最初の戦いで負けて】
【意識を手放した後、精神世界に落ち、巡り合ったのが師匠と先生の2人】
【僕は通過儀礼を経て、その後、怨魔の試練を受ける事になるのだった――】


TO BE CONTINUD……

しおり