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10・母さんの料理は世界一

「おほう!これ買えたんだ!超入手困難なプリンなのに、やったぁっ♪」

成美が俺の買ってきたプリンを天高く抱え、小躍りして喜んでいると、

「あら、騒がしいと思ったら朔夜が帰ってきてたのね?丁度良かったわ。
いま晩御飯の準備が終わったから、手を洗ってさっさとお食べなさいな!」

俺達の騒ぎに気づいた母親が台所から顔をひょこっと覗き出し、そして
用意した晩御飯を食べなさいと言ってきた。

「......ば、晩御飯!?」

つ、つまりは母さんの手料理っ!

「了解です、お母様!直ぐ様、手を洗って参りますっ!」

いや~久しぶりに食べる母さんの手料理かぁ~!

ホント、楽しみだぜ~♪

俺は久しぶりの母親の手料理を食べるべく、台所にある蛇口で手を洗う
為に足取り軽く移動して行く。

そんな俺の態度と行動の変化を見て、

「ど、どうしたのよ、あんた?何かやけに明るいんだけど!?家を出る
時はあんなにも暗かったっていうのに??」

母親がどういう事というハテナ顔で首を傾げて困惑してしまう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「パクパク、モグモグ......うおぉおぉおっ!?お、美味し~いっ!
美味しいよぉお、母さんっ!やっぱ、母さんの料理は世界一だよ~
モグモグ♪」

これを食ったら、異世界に留まらなくて良かったって思っちゃう~~っ!

すまん、異世界よっ!

「そ、そう...ありがとう。そこまで喜んで貰らえると素直に嬉しいけど、
でもちょっと大袈裟過ぎ.........」

自分の作った料理を美味しそうに食べる息子の姿を見て、喜びはする
ものの、しかしあまりのオーバーリアクションに、戸惑い気味になって
しまう。

「モグモグ、かぁぁあ!うめぇぇぇええっ!!」

いや~ホント、マジであっちの世界の食べ物ってさ、あんまり美味しく
なかったんだよな~。

香辛料が基本の肉料理ばっかでさ。

後はパン系、しかもめっちゃ硬い。

そして高くつくけど、塩味や果物系をベースにしたソースの料理もあった。

けど、これも美味しさのランクが少し上がるくらいだったけどね。

まぁ一応、俺達の日本人の主食である、米、味噌、醤油はあるには
あったけどさ、でも正直いって味の方はいまいちだったんだよね。

だけど、それはしょうがないと思う。

俺の世界の米が、味噌が、そして醤油が旨いのは、先人の人達が試行
錯誤と地道な作業で、ひたすら新種改良を繰り返した結果だしな。

まぁそれでも、ないよりかは幾分かマシだったけどさ。

どんな形であれ、米、味噌、醤油だったしな。

俺が異世界の思い出に馳せていると、

「あ、それよりも朔夜。もうすぐ高校入学だけども。ちゃんと準備は
済んでいるのかしら?」

と、母親が聞いてくるので、

「モグモグ...勿論ちゃんと出来ているよ。使用するカバンも用意したし、
ブレザーの丈も調整したし、準備はバッチリだよ!」

俺は母親にそう告げ、サムズアップをする。

「あらそうなの?あんたにしては随分早いのね?いつもはルーズなのに?」

「......はは。俺だって成長しているんだよ、母さん。何せもうすぐ中学を
卒業して高校生になるんだからさ!」

なんてね。

多くの理由は、高校入学を切っ掛けに、あいつの事を忘れられたら
なぁという希願と、新たな出逢いの淡い期待が込もっていたから
なんだけどね。

「うふふ、そっか~そうだよねぇ。溯夜も成長しているんだよねぇ♪
いや~母さん、とっても安心したわ♪」

母親が俺の言葉を聞いて、うんうん頷いて安堵の表情を浮かべていると、

「でもお兄ちゃん、よく高校入学の準備なんて出来たわよねぇ?だって
あいつに裏切られたショックで立ち直れずにドヨドヨしていた癖にさ?」

「―――な!」

「―――え?」

成美が納得いかないという表情で首を傾げつつ、とんでも発言を口にする。


――――ちょぉぉぉおおっ!?


な、成美さん!それは母さんには言っては駄目だと言ったよねぇっ!?

「......あいつに裏切られた?そのショックから立ち直れず?それって
一体何の事なの、成美??」

俺が成美の突然の暴露に動揺していると『あいつ』と『裏切られた』に
反応した母さんが訝しむ表情で、成美にそれはどういう意味だと問うてくる。

「ん?ああ、それはね母さん。お兄ちゃんったら、あのクソ浮――モゴモゴ!?」

「な、な、何でもない!う、うん!何でもないんだよ~あははは~~♪」

母さんの問いに軽く答えようとする成美の口を、俺は慌てて両手で
抑えると、その喋りを強引に止めた。

「モゴモゴ...ぷは~!?ちょっと何すんのさ、お兄ちゃん!そんな抑えたら
息が出来ないじゃんかっ!」

「息が出来ないじゃんか......じゃないっ!あいつの事は母さんには
内緒っ!そう約束しただろうがっ!!」

成美の耳元に顔を持って行き、強めの口調でそう注意する。

「あ、ああ~!そうだった、そうだった!母さん、お兄ちゃんとあいつ...
クソ浮気女の恵美が付き合っていた事を知らなかったんだっけ?」

成美がその事をやっと思い出したのか、手のひらをポンと叩く。

「ったく、気を付けろよ......」

「はは、ラジャー。以後は気を付けます......」

俺は再度、成美に注意を促した後、残りのご飯を食べていく。

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